山の頂から

やさしい風

何かあるか・・・も

2012-07-25 00:07:36 | Weblog
  その男達が帰るのを見送って
≪龍神≫は口を開いた。「彼は若死にをする相が出ている」

 平将門の子孫と言って憚らない男性が時折来店する。
彼は自分には霊感があると公言する、
「へぇ~凄い!!」と言いつつも、
きっと「んな、あるはずないじゃん!」ともう一人の私が否定する。
彼は≪龍神≫と自称し≪何か≫が見えてしまうというのだ。
そしてまた何やら書く字がひどく達筆なのだ。

 数日前のこと、時折顔を見せる山好きの若者が店先に立った。
彼等は2~3時間山中を巡って来ての帰りだった。
数週間まえ、彼は山から帰ってくるなりビニール袋をくれてくれと言った。
汗に濡れた衣類でも入れるのか聞きつつ差し出すと、
「蛇を捕って来た」と言うではないか! 「ギャァ~~」
腰を抜かさんばかりに驚いた。どうも爬虫類と両生類は苦手である。
逃がされてはかなわないので、早々に引き揚げていただいた。
しかし袖口にタゥーがチラチラするのを見逃さなかった。
そんな騒動があって後の来店だった。
「先日の蛇はどうしたの?」と問うと、
「青大将だったよ。家人に家の守り神だから殺すでない」ときつく言われ、
隣家の庭に放り投げたと茶目っ気たっぷりの口調で返答を返した。

 「奥山には赤マムシがいるよ。気をつけな!」
竜神は我々の会話を耳にして、そう口を挟んだ。
「それにしても兄さん、いい体格してるなぁ」そんな話の切り出しで、
上背のある若者と≪龍神≫の会話が始まった。
昨日まで滞在していたというドバイの砂漠でのスナップ写真や、
タイの数人の美女の写真などを我々に見せた。
「へ~~ぇ、兄さん羨ましいね。仕事はなに?」
すると携帯電話のピクチャーの中を探し一枚を示した。
上半身にビッシリと彫られた刺青の男が二人。
一方は彼。もう一方は「ハハ~ン」と頷ける面相の男。
≪龍神≫も私も素早く察知したが、
「何だかよくわからん。なにせ老眼だから・・・」としらばくれた。
こういったやり取りの間中、小柄な他の方は、
一度も腰をかけることなく傍らで黙って手を後ろに組み立っていた。
私は他の接客で席を外したが彼等は小一時間色々と話をしていた。
そうして≪龍神≫に礼を言って帰って行った。
「兄さん、蛇を痛めるでないぞ!アンタはそれをしてはならん」
そう背中に声をかけるのを聴いた。更に、
「この先七年、きっと大きな決断に迫られる。乗り越えれば長生きするよ」
何があるのかなぁ~~ 何かあるのかなぁ・・・
非常に気になるところだが、「んなこと見えるはずないじゃん!」と、
もう一方の私が幕を引いた。

タツ子さん

2012-07-03 23:45:27 | Weblog
 小麦色のすらりとした肢体。
全体的に筋肉質で肩幅はガッチリとしている。
タンクトップに超ミニスカート、ミュールを履き、
うす色のサングラスをして、それが整った顔立ちに良く似合っている。
けれど目深にかぶった帽子の端にのぞく後れ毛が僅かに白い。
「おはようございま~す。タツ子と申します。よろしく!」
彼、いや彼女、いえいえやっぱり声からして男性のその人は、
青色の小型車から飛び出し私に向かって声をかけ、
やや斜めに曲げた膝に両手をあて丁寧なお辞儀をした。
そして遠目にも分かる胸のふくらみ・・・

 約一ヶ月半ほど前から大曲駐車場でカーラジオのボリュームを上げ、
ラジオ体操をする≪彼女≫を見かけるようになった。
軽く朝の挨拶を交わすようになった先日の朝、
何時もの時間より少し遅れて散歩に出た私はタツ子さんに呼び止められた。
「今朝は遅いですね」目に優しい光を湛えながら小首を傾げた。
「何か御商売でもしておられるの?」と尋ねると、
≪彼女≫は無職であることを打ち明けた。
「働きたいの・・・」と少し身体をクネクネしながら僅かに顔を曇らせた。
そして再び小首を傾げ胸周りの開いたTシャツを着ていた私に、
「素敵なバストね。うらやましいわ~」と言った。
「はぁ?はぁ⤵・・・・」返す言葉もなくて戸惑う私に、
≪彼女≫は微笑みつつ咥えた煙草の煙を燻らせた。
なんともなぁ~~奇妙な気分の朝だった。

 今や社会権を得た【オネエ系】の彼等、
いや≪彼女等≫をテレビで見かけぬ日はない。
女よりも女になろうと努力を重ねる姿勢は脱帽ものだ。
国際社会の一部では同姓婚まで認められるという世の中だから、
何がどうあれ驚くこともない。 しかし、しかし、しかし・・・・

 今朝もタツ子さんは私の姿を見かけると車から飛び出してきて、
「おはようございま~~す」と両の手を膝にあて丁寧に挨拶をした。
道路の真ん中を大股でガツガツと歩く私も、
手にしたステッキを大きく振り上げて負けじと大きな声で、
「おはようございま~~す」と返した。
【あじさい祭】もあと僅か。祭りが終われば梅雨明けも間近かだ。
今年の夏も酷暑だろうか? 巷では原発反対!と、
まるで意味のない姿恰好をした女性が気炎を上げデモっている。
ジャンヌダルクを気取っているのか否か、余りにしどけない姿ではある。
<反原発、増税反対!!>を唱え新党を立ち上げた【剛腕政治家】
≪国民の生活が第一≫と歯の浮く様な御託を並べ一本調子でメモを読む。
場化や吾方でも政治家に、男が女に、女が男になる世の中。
ああ、何が何だか分からなくなった~~  差し当たり私にとって、
タツ子さんのスカートがこれ以上短くならぬよう願うばかりだ。

  【夏朝やもの皆生気みなぎらせ】  初桜