山の頂から

やさしい風

ある光景

2009-10-26 05:32:08 | Weblog
 
 一昨日の夕方、市内の大型店舗の出口付近で見た光景。
人の出入りの激しい処で、リュックを背負った男性が、
白髪の老女を抱えていた。
それは、まるで二つ折りのマネキン人形のようだった。
全く立っている風でもなく、手をだらりと下げアナタ任せの状態だった。

 私は彼に2~3度会ったことがある。
そして、少なからず彼の事情も知っていた。
彼の抱えていた老女は認知症の母親だった。
母親は認知症を患って、恐らく二十年近くなるだろう。
彼は高校の教師をしている。が、間もなく定年を迎えるはずだ。
母親が、そうなる前に経緯は知らぬが妻子と別れた。

 彼は母一人子一人であった。
彼の母親はとても無口で、少し暗い感じの女性であった。
そんな母似の彼もまた、口数が少なく暗い目をしていた。
母親は、60歳後半頃から徐々に認知症になったと風の便りで聞いた。
彼は教師を務めながら面倒を見ていたようだ。
昨年、スーパーで手を繋ぎながら買い物をする彼らを何度か見かけた。
目線の全く定まらない母親は、それでも歩行は出来ていた。

 しかし、一昨夕に見た光景は余りに絶望的な状態だった。
出口で立ち往生をする親子に手を差し伸べようと一人の婦人が近づいた。
だが、彼は断ったようだ。
両手に荷をぶら下げた私は、気になりながら立ち止った。
少し離れた場所で振り返って見た彼は絶望の目をしていた・・・ように思えた。
いや、目に見えない何かに怒っていたかにも見えた。
かつての或る時期の私の目のように・・・・
私は、彼のその目がとても気になって頭から離れないでいた。

 それで今日の老人介護をするスタッフのチームワークにとても感心た。、
彼は勿論、介護の助けを借りているのであろう。しかし、容易くはない。
寝不足と気遣う神経の疲れ。心にのしかかるものは非常に重い。
独りで肉親の介護を背負っている人たちの孤独と絶望を思った。
少子化と老人介護。今、日本の重い現実がある。
だからといって、容易く大量の移民を受け入れる日本であって欲しくない。
幾多の困難を乗り越えてきた日本の底力を発揮する日本であって欲しい!!
怯まない日本であって欲しい。 心底、そう思う。