韓国、「反日報道」一転して「見直しムード」外交孤立を危惧
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
2015-06-04
中国の対日融和に衝撃
海外元政治家に語らせる
韓国メディアの対日報道は、めまぐるしい変わり方をしている。
「雪解けムード」を演出しているのだ。
メディアのコラムでは、日韓融和論が掲載されている。
とりわけ、アジアの政府元首脳発言を紹介しながら、日本を評価する「間接話法」を取っているのだ。
変われば変わるものである。
中国の対日外交戦略の転換も影響している。
韓国は、このままだと外交的に孤立する。それを怖れているのだろう。
韓国を大きく刺激したニュースは5月23日、習近平国家主席が日本からの3000人の大訪中団をにこやかに接待したことだ。
これまで安倍首相に見せた仏頂面が、手を振りながら破顔一笑するまでに「変身」したのである。
昨年7月、習近平氏は訪韓の際にもにこやかに「ニーハオ」と言ったが、今回はそれに勝るとも劣らない「サービス」である。
韓国メディアは、天国から地獄へと突き落とされたような「失望感」を味わっているのだろう。
日本を除外した「中韓親密論」が突然、色あせた感じであるのだ。
中国の対日融和に衝撃
『朝鮮日報』(5月25日付け)は、次のように伝えた。
① 「中国の習近平国家主席は5月23日、
北京の人民大会堂で代表団3000人を率いて訪中した二階俊博・自民党総務会長の両手を握り、明るい笑顔を見せた。
習主席は二階総務会長から安倍晋三首相の親書を受け取り、『私と安倍首相が戦略的互恵関係を推進すれば、両国関係が改善するとの点で一致した。
安倍首相によろしく伝えてもらいたい』と述べた」。
「安倍首相によろしく伝えてもらいたい」。
人民大会堂での習氏の発言は、韓国にとってはショックであろう。
日中首脳は互いに意思疎通ができていることを物語っているからだ。
安倍首相と朴大統領の間では、未だ一対一の正式会談をしたことがない。
こういう言葉は聞きたくても聞かれぬのである。
「歴史認識を改めなければ会わない」。
こう言い切ってきた朴大統領にとって、なんともばつの悪い思いをしたことだろう。
韓国メディアがそれを代弁している形だ。
② 「中国共産党の機関紙、人民日報は同日、習主席の演説をトップ記事で伝え、『中日友好』という文字を見出しに取った。
これまで人民日報は対日批判に紙面を割いてきた。
日本の朝日新聞は、習主席の歓待は予想を超えるものだったとし、今年9月の中国の抗日戦争勝利記念式典に安倍首相の出席を求めるための布石ではないかと伝えた。
今年2月に二階総務会長が1400人を率いて訪韓した際、
朴槿恵(パク・クンヘ)大統領による講演はなかった。
訪中団3000人は5月21日、『ポスト習近平』と取りざたされる胡春華・広東省共産党委書記と会見。
22日には李金早・中国政府観光局長とも会った」。
中国が、「二階訪中団」に対して大歓迎の姿勢を見せた裏には、中国経済の落ち込みがある。
人民日報は、これまで「反日論」の先頭に立ってきた。
その度に、私は厳しい反論を重ねてきた。
日中不和で困るのは中国である。
日本は痛くもかゆくもない。
こう言ってきた。現実に中国側が折れてきたのだ。
経済発展で遅れた国が先進国と対立した場合、困るのは途上国側である。
理由は簡単である。
先進国の数は限られているが、発展途上国は数多く存在し、代替性が効くのである。
中国がダメならASEAN(東南アジア諸国連合)がある、というわけだ。
中国が「世界の工場」と威張ってみても、所詮は「下請け工場」にすぎない。
中国に代替できる国は世界中に存在する。
この現実が分かったから、中国は日本に対して、「ニーハオ」と言わざるを得ないのである。
売り手と買い手の「取引関係」にあるのだ。
韓国も同じである。
先進国の列に連なってはいるが、経済的に言えば、日本あっての韓国である。
どうあがいても、日本技術がなければ韓国産業はやって行けない立場にある。
これまで経済発展できたのは、日本技術と恒常的な「超円高=ウォン安」に救われてきたに過ぎない。
この前提を忘れて、過去の問題を引っ張り出して日本批判を続けてきた。
ところが、円安=ウォン高に直面して、これまでの経済発展の前提が崩れたのだ。
改めて、日本を見直す気運になってきた。
もう一つの技術面でも、日本企業は日韓関係が悪化していれば、あえて韓国へ進出するまでもない。
他国へ工場進出すれば済むことである。
韓国が、日本と政治的に対立してもプラスはゼロである。
この点も、私は指摘し続けてきた。
韓国が経済問題を抱えながら、外交戦で日本と対立するメリットは少ないのだ。
中韓は揃って、日本へ外交的な「休戦」を申し出てきた形である。
『中央日報』(5月25日付け)は、コラム「韓国はなぜ片目だけで日本を見るのか」を掲載した。
筆者は、中央日報東京総局長金玄基(キム・ヒョンギ)氏である。
③ 「韓国は日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)を憂慮の目で眺める。
自衛隊の作戦領域が全世界に拡大したからだ。
しかしよく考えると、そのようにばかり見ることではない。
『日米密着』は韓国にとってプラスにもなる。
その核心は日本国内『核武装論』封鎖だ。
米国が日本に完全な『核抑止力』を提供するよう改めて釘を刺した。日本が核関連の考えを抱けないようにしたのだ」。
日本人から見れば、ここで書かれている点は常識の部類であろう。
日米防衛新「ガイドライ」が、自衛隊の軍備増強とか、戦争できる普通の国家になるとか、韓国では種々言われて警戒感を呼び起こしている。
私は、こうした議論を聞く度に不思議な気持ちになる。
海外で自衛隊が率先して戦場へ出る訳でない。
後方支援である。
日米安全保障条約によって、米国が日本防衛の任務を帯びるとき、海外で自衛隊が米軍の後方支援に当たるのは、最低限の義務である。
それが、同盟が意味する本来的な内容である。
軍事的な「片務条約」は「軍事同盟」とは言わない。
日米が日本防衛で一体化するのは、「抑止効果」という点できわめて有効な手段である。
その延長で、海外では日本が米軍の後方支援役に徹するのだ。
日本の核武装論は、マニアックな防衛論者から時折語られることはある。
だが、世界唯一の被爆国の日本が核武装するのは、まさに「歴史認識」の欠如を意味する。
中韓から手を叩いて揶揄される事柄であろう。
日本は、そのような議論すら避けることが、あらぬ疑惑を招かない防波堤である。
日米の軍事的一体化が、核武装にまさる最大の戦争抑止力である。
④ 「日本の集団的自衛権も同じだ。
警戒の目でばかり見るが、安全装置さえ十分に確保すれば、これは韓国にも必ずプラスだ。
韓半島(朝鮮半島)の有事から2時間後に非武装地帯まで飛んでくることができるのは沖縄の在日米軍である。
1分1秒が惜しまれる戦時に、米軍の後方支援を日本が引き受ける体制が整うなら拒否する必要はない。
ソロバンを弾けばすぐに答えが出てくる話だ」。
集団的自衛権は、前記の米軍の後方支援を法的に担保する制度である。
朝鮮有事の際、米韓が防衛の第一線に当たるのは当然である。
日本は米軍の後方支援によって、間接的に侵略軍への抵抗作戦に参加する。
韓国が、こうした役割を持つ集団的自衛権を大真面目に「反対」するのは、全く理に合わない話しなのだ。
戦後日本への誤解が解けない証拠である。
それを解く役割は、日本よりは韓国側にある。
日本が韓国国民に対して説得するという話しではない。韓国自らが理解することである。
⑤ 「日本に対応する時はこうした鋭い洞察力だけでなく複眼が必須となる。
ところが現在、韓国の外交当局と国民は感情論的な片目だけで日本を眺めている。
だから半分の姿しか見えない。
慣れてはいないがもう一つの目を開く時だ。それは韓国が生きる道だ」。
韓国が日本を眺める時はいつも「片眼」である。
植民地時代の感情で眺めるのだ。
そうではなく「両眼」でしかと見ることである。
米国と一体化した日米安全保障条約という枠を持ち、しかも民主主義国に生まれ変わった「戦後日本」という土台に立って見るべきである。
本来ならば、こういう「仕事」は韓国メディアが担う領域である。
今になって初めて主張するのは、遅すぎるのだ。
これまではむしろ韓国国民の不安を煽る側に回ってきた。
韓国全体が、対日外交政策を見直そうという雰囲気が出て、初めて恐る恐る記事にし始めたというのが実相であろう。
「真実」については勇敢に筆を取る。それが、ジャーナリズムの役割であるのだ。
その原点に還るべきである。
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