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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

統幕長・陸海空幕僚長の指揮権事実上剥奪!? 前代未聞の文民統制案提出

2008-04-09 12:00:45 | 防衛・安全保障

■防衛省改革 四幕僚長を指揮命令系統から外す法改正を検討

 幕僚長を防衛相補佐に専任、指揮権を剥奪して文民統制を徹底する法改正案が8日だされたようだ。遅いエイプリルフール?朝刊を握り、思わず珈琲を噴出しそうになった。

Img_3831  共同通信が9日0201時に配信した情報によれば、防衛省改革の一環として、守屋次官汚職事件やイージス艦衝突事故などの一連の不祥事を受けて、自衛官のトップに位置する統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長をそれぞれ自衛隊の指揮系統から外し、防衛大臣の補佐に特化させる法改正が検討されているとのこと。現在の文民統制体系は内閣総理大臣から防衛大臣を経て、各幕僚長を通じて各部隊を運用している。

Img_8939  現在、防衛省改革では、内局(文官)と制服組(自衛官)の統合再編を行うべく調整が進められているが、これに併せて各幕僚長の権限の明確化と文民統制の徹底が狙いにあるとされるが、記事は、自衛官トップを指揮系統から排除するのには反対論が強く、6月の組織改革案取りまとめまでには曲折がありそう、として結んでいる。

Img_7506  これでは文民統制を通り越してイラン革命防衛隊や中国人民解放軍のような文民指揮である。そもそも文民統制とは、法整備や場合によっては自衛権行使(開戦)などを決断する政治的要素を選挙民に選ばれた文民が手続きを行うことが文民統制であって、文民が作戦を立てたり、命令を下すわけではない。理由は単純で、日本の場合は幹部候補生学校→幹部基礎課程→指揮幕僚課程(もしくは幹部上級課程)→幹部学校を経て指揮官を養成。その間、各種部隊を階級に応じた規模で学ばせ、スペシャリストを養成、その中から上級指揮官を選りすぐる。つまり、自衛隊の一線を把握し、自衛隊全体の能力とその限界を知る“指揮官”は一朝一夕には養成できないということだ。指揮系統の頂点とはそういうこと。

Img_2083  そもそも、統合運用として統合幕僚会議議長制度から統合幕僚長制度に移行したのは指揮の一元化が目的であるわけで、その指揮一元化制度を導入しつつ、指揮官から一元化した指揮権を剥奪するというのは、どういったものか。そもそも、参謀総長にあたる統合幕僚長を指揮系統から外すというのは、聞いたことが無い。さらに疑問は続く、この改編後には(まだ法改正の案が出ただけではあるが)、幕僚長が指揮系統から外された以上、指揮系統の頂点は幕僚副長があたるのか、米軍の作戦部長制度を導入するのか、いっそ政務官や事務官のように政治家に戦闘服着せて政治任用にするのか。

Img_9705  防衛は安全保障の各分野においても専門性の高い分野であり、文民統制という言葉が自衛隊に対してのみ適用される以上、“文民”に“統制”される“なにか”、があるはずだ(憲法学上は、“文民統制”という単語が、“再軍備”により“軍人”が誕生することを憲法制定の時点で想定していた、という学説も一応ある)。つまり、この“文民統制”を強調しなければならないほど、専門性のある分野が防衛であり、この分野の改編再編については、もうすこし慎重に、と思うのだが、どうだろうか。

HARUNA

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