法律の周辺

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「移行型」に抜け穴について

2006-08-12 20:05:11 | Weblog
リフォーム社長:後見契約結び家売却 認知症女性が被害 MSN毎日インタラクティブ

任意後見制度:不備が浮き彫り 「移行型」に抜け穴 MSN毎日インタラクティブ

 「移行型」は,「委任契約+任意後見契約」のこと。特殊な契約というわけではない。
記事には,「移行型は,契約すると委任契約がすぐに発効する。さらに,認知症などで判断能力が低下した後は任意後見契約に移る。同契約が発効すれば,後見監督人が家裁に選任され,後見人の活動を監視する。」とある。
しかし,これは幾分正確性を欠く表現である。任意後見契約は任意後見監督人が選任された時から効力を生ずる,というべきである(任意後見法第2条第1号参照)。

 また,記事には,「後見人に就任する予定の人や4親等以内の親族らが,任意後見契約の発効を求めて監督人の選任を家裁に申し立てることができる。しかし,義務ではない。」とある。
しかし,例えば,2つの契約が併記された移行型契約書の委任契約の部分には,通常,「本契約締結後,甲は任意後見契約に関する法律第4条第1項所定の要件に該当する状況になり,乙が第弐の任意後見契約による後見事務を行うことを相当と認めたときは,乙は,家庭裁判所に対し任意後見監督人の選任を請求する。」といった条項が盛り込まれる。この場合,任意後見監督人の選任が(第壱の)委任契約の内容になっているのは明らかである。
となれば,本人の事理弁識能力が不十分な状態になった場合の任意後見監督人の選任申立は,任意後見受任者の義務かはともかく,委任契約の受任者の義務にはなっていると考えるべきであろう。

 任意後見監督人の選任申立がおこなわれないことに関しては以前から問題視されていたが,本事案は公証人による本人の意思能力の確認が十分ではなかったというケース。「「移行型」に抜け穴」などと言う以前の問題のように思われる。


「任意後見契約に関する法律」の関連条文

(趣旨)
第一条  この法律は,任意後見契約の方式,効力等に関し特別の定めをするとともに,任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。

(定義)
第二条  この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号の定めるところによる。
一  任意後見契約 委任者が,受任者に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し,その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって,第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
二  本人 任意後見契約の委任者をいう。
三  任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
四  任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。

(任意後見契約の方式)
第三条  任意後見契約は,法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

(任意後見監督人の選任)
第四条  任意後見契約が登記されている場合において,精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により,任意後見監督人を選任する。ただし,次に掲げる場合は,この限りでない。
一  本人が未成年者であるとき。
二  本人が成年被後見人,被保佐人又は被補助人である場合において,当該本人に係る後見,保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三  任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法 (明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条 各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし,又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2  前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において,本人が成年被後見人,被保佐人又は被補助人であるときは,家庭裁判所は,当該本人に係る後見開始,保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
3  第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには,あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし,本人がその意思を表示することができないときは,この限りでない。
4  任意後見監督人が欠けた場合には,家庭裁判所は,本人,その親族若しくは任意後見人の請求により,又は職権で,任意後見監督人を選任する。
5  任意後見監督人が選任されている場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前項に掲げる者の請求により,又は職権で,更に任意後見監督人を選任することができる。

(本人の意思の尊重等)
第六条  任意後見人は,第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては,本人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(任意後見監督人の職務等)
第七条  任意後見監督人の職務は,次のとおりとする。
一  任意後見人の事務を監督すること。
二  任意後見人の事務に関し,家庭裁判所に定期的に報告をすること。
三  急迫の事情がある場合に,任意後見人の代理権の範囲内において,必要な処分をすること。
四  任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。
2  任意後見監督人は,いつでも,任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め,又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができる。
3  家庭裁判所は,必要があると認めるときは,任意後見監督人に対し,任意後見人の事務に関する報告を求め,任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ,その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができる。
4  民法第六百四十四条 ,第六百五十四条,第六百五十五条,第八百四十三条第四項,第八百四十四条,第八百四十六条,第八百四十七条,第八百五十九条の二,第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は,任意後見監督人について準用する。

(任意後見契約の解除)
第九条  第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては,本人又は任意後見受任者は,いつでも,公証人の認証を受けた書面によって,任意後見契約を解除することができる。
2  第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては,本人又は任意後見人は,正当な事由がある場合に限り,家庭裁判所の許可を得て,任意後見契約を解除することができる。

公証人法の関連条文

第三十五条  公証人証書ヲ作成スルニハ其ノ聴取シタル陳述,其ノ目撃シタル状況其ノ他自ラ実験シタル事実ヲ録取シ且其ノ実験ノ方法ヲ記載シテ之ヲ為スコトヲ要ス

第三十九条  公証人ハ其ノ作成シタル証書ヲ列席者ニ読聞カセ又ハ閲覧セシメ嘱託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス
2 通事ヲ立会ハシメタル場合ニ於テハ前項ノ外通事ヲシテ証書ノ趣旨ヲ通訳セシメ且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス
3 前二項ノ記載ヲ為シタルトキハ公証人及列席者各自証書ニ署名捺印スルコトヲ要ス
4 列席者ニシテ署名スルコト能ハサル者アルトキハ其ノ旨ヲ証書ニ記載シ公証人之ニ捺印スルコトヲ要ス
5 証書数葉ニ渉ルトキハ公証人ハ毎葉ノ綴目ニ契印ヲ為スコトヲ要ス

第五十七条ノ三  公証人任意後見契約に関する法律 (平成十一年法律第百五十号)第三条 ニ規定スル証書ヲ作成シタルトキハ登記所ニ任意後見契約ノ登記ヲ嘱託スルコトヲ要ス
2 前項ノ登記ノ嘱託書ニハ証書ノ謄本ヲ添付スルコトヲ要ス

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