連載第3回 若草幼稚園「すくすくの森」と子どもたち・・・知的好奇心を育む(その2 年少児の出会い方)
高知市若草幼稚園 園長 岡林道生 執筆 〔『保育の実践と研究』(第15巻第4号)より転載〕
3.知的好奇心を育む
(2)年少児の出会い方
②身体を通して出会う
年少児は、初めてのときよりも二回目、三回目の方が「森のお約束」を集中して聞くようになります。「森」という場所を侮ってはならないということを肌で感じ、自分の身を守るためにルールは守るべきだと思うようになるのでしょう。それと同時に、目や耳や身体は森へと開かれ、さまざまな出会いを楽しむようになります。
三角広場には、草群が残されています。そこには、野の花が咲き、多くの虫たちが住んでいます。初夏から秋の終わりにかけて、ここでは生き物との出会いや発見がたくさんあり、子どもたちの好奇心はくすぐられて止みません。
年少児の様子を見ていますと、興味を持った対象物の名前を積極的に知ろうとしたり、大人の言葉に反応することが少ないように思います。例えば、すくすくの森にはビオトープがあって、色々なトンボの生息地になっており、真冬近くまで飛んでいます。
Kくんは、虫が大好きで、この日念願のトンボを捕まえることができました。嬉しくて嬉しくて仕様がありません。「先生、見て見て、トンボ捕まえたで。」と大喜びです。私も彼がトンボを捕まえるために奮闘しているのを見ていましたから、「よかったねー。」と一緒に喜んでいると、お母さんが走り寄ってきて、「ね、ね、Kくん、これ、シオカラトンボよ、シオカラトンボ。」と教えてくれました。
しかしKくんは「何言ってんだろう」という顔をして、トンボを顔の横に持っていき、ニコッと笑って走り去っていきました。Kくんのお兄ちゃん、年長児のRくんなら、「先生、シオカラトンボ捕まえたで、オオカラシオとは色が違うし大きさも違う、これはシオカラ」と教えてくれるだろうなー、と思いながらKくんの去っていく後姿とガックリされたようなお母さんに笑顔を向けていました。
Uくんは、以前はあまり虫が好きではなく、ダンゴムシを見せられて触ってごらんと言われても後じさりしていましたが、この日は草群に足を踏み入れ、次々飛び出す虫たちに誘われて、追いかけていました。
バッタがピョーンと飛ぶと同じようにピョーンと飛んで追いかけ、次にイナゴがピョンと飛ぶと同じようにピョンと飛んでいます。コオロギがピョンピョンと飛ぶとUくんもピョンピョンと飛ぶのです。誰かが「バッタ飛んだで」と言うのを聞いてから、Uくんは草群から飛び出す虫を全部「バッタ、バッタ」といって追いかけていましたが、その虫を捕まえようとする手や足や身体の動かし方は、バッタやイナゴ、コオロギの飛び方にそっくりです。まるでUくん自身が虫になったようで、とても面白くて目が離せませんでした。
年少児の出会い方と言うのは、相手の動きに同調するという特徴があるようです。模倣するといってもいいかもしれません。自然と相手の動きに自分の身体を合わせているのです。
Yちゃんは蝶々が好きで、いつも蝶々を目に留め、追いかけます。蝶々が荻の花に止まると、Yちゃんも立ち止まってしゃがみます。そして、蝶々が飛び立つとYちゃんも蝶々のように高く低く一緒に飛んでいくのです。Hちゃんは、萩の花が風に揺れるのに合わせて、座ったまま身体を左右にゆっくりと動かしていました。まるでHちゃんが、風で揺れる花のように見えます。
年少児は虫になり、蝶になり、花になり、風や雲になってそのものと同調し、親しみを持っていくなかで知的好奇心の扉を開いていくように思います。だから、「これは何?」とあまり質問してくることはありません。
対象物をじーっと見つめて不思議そうな顔をしているので、名前を教えたり何故なのかを話してみても、唯見つめ返されることがよくあります。こんな時、まだ知的好奇心というものはないのだろうかと考えたりしますが、そうではないのです。年少児には年少児の出会い方というものがあるのだと思います。
ある時、園庭の藤棚の藤の幹にとりすがって年少児のTくんが「園長先生、僕、何か、」と尋ねてきました。「ウーン」と頭を傾けていると、「鳴くで僕、ミーン、ミーン。」「Tくん、セミ?セミやろう」「そうそう」と、せみになって遊んでいました。(クマゼミやアブラゼミとは言いません。)
またある時は、画用紙で作った大きな鎌を手につけて、「カマキリだぞー」と園庭を走り回っている姿もありました。新聞紙で6本の足を作って背中に貼り付け、自分の手を合わせて8本足のクモになって遊ぶ子どももいます。このような姿を見ていると、本当に年少児というのはおもしろいなと思います。
HN:ちるどれん
◎かしこくて、たくましい子どもに育てる(高知市・若草幼稚園の実践)
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