連載第4回 若草幼稚園「すくすくの森」と子どもたち・・・生命の尊さと生命のつながりを学ぶ
(その3 生き物にはそれぞれに生きる場所がある ③生命のつながり)
高知市若草幼稚園 園長 岡林道生 執筆 〔『保育の実践と研究』(第16巻第1号)より転載〕
3 生命のつながり
若草幼稚園では、すくすくの森で見つけたどんぐりを持って帰るのは2個までにしています。森に行き始めた頃は、どんぐりを楽しそうに集めて、嬉しそうに持って帰る子どもたちの様子を見て、「よかったね」と思いながら見ていました。袋いっぱい取ってくるどんぐりは、ままごとの材料やコマややじろべえ、製作の材料になりました。しかし、毎日のように持って帰るどんぐりは、いつの間にかゴミ箱にいく結果になっていきました。
このままでいいのだろうかと考えた私たちは、どんぐりの絵本(注)を子どもたちに読んで聞かせることにしました。この絵本では、ミズナラの木の実(どんぐり)が多くの動物の餌になっていることやミズナラの新しい生命の源であることが、たんたんと描かれています。「だから~しなさい」とは書かれていません。けれども子どもたちは、絵本を読んでもらってからは、自分の手に入れて持って帰ることができる数だけ持って帰るように決めました。しかしその後、手の平の大きさでは、数に違いがあって不公平ということになり、5個までと決まりました。
ところがそれが、いつの間にか2個になっていたのです。7年前のことです。近隣の保育所の子どもたちと一緒にすくすくの森に行ったことがありました。保育所の子どもたちを案内しながら、「あの赤い紐のついちゅう木に触られんで、かぶれるきね。」「そこからは崖やき行かれんで。」「地面の見えんところに勝手に入ったら行かんがで。」と色々な約束ごとや注意することを教えていました。どんぐりがいっぱい落ちていて、保育所の子どもたちは大喜びし、いっぱい拾ってポケットに入れ始めました。すると、子どもたちが「あのね、どんぐりは2個しか持って帰られん。」と教えているのです。「どうしてなが?」と聞き返す保育所の子どもたちに、その理由を話し始めました。そして、自分は、ピカピカに磨いて、一番気に入った物を2個だけ持って帰るのだと話しました。すると保育所の子どもも納得して、「僕もそうする」と言ってピカピカにどんぐりを磨いていました。洋服でこすると本当にピカピカに光るのです。
その様子を見て、私は、「えっ」と思い、「たっちゃん、どんぐり、5個持って帰っていいんでしょ。」と聞きました。すると「違うで、2個で、園長先生知らんが。」というのです。私は、「そう、2個。いつから2個になったのかなー。」とつぶやきました。このやりとりを聞いていた子どもたちが、不審そうな顔をして私を見ますので、その場をつくろって、「じゃ、園長先生も2個持って帰ろ。ピカピカにしよう。」と言いながらどんぐりを磨きました。
その後、園に帰ってY先生に『ドングリ2個しか持って帰ったらいけないの?」と聞きますと、「そうですよ。」と園長先生知らないんですかと言わんばかりの返事が返ってきました。そしてその理由を話してくれました。数年前、どんぐりが極端に落ちない年があり、子どもたちが何人も「先生、どうしてどんぐりないが?」と尋ねてきたそうです。成り物には表年と裏年があり、よく実を結ぶ年と結ばない年があります。そこでこのことを、子どもたちに話すことにしました。毎年毎年、たくさんのどんぐりを落としていたら、これを餌にしている動物たちが集ってきて、落とした実を全部食べてしまうこと、すると、どんぐりの木が新しい芽を出すことができなくなってしまうこと、しかし、少なすぎて動物達が来なくなるのもまた困るので、いっぱい実をつける年とあまりつけない年ができたということを話して聞かせました。どんぐりは、生命をつなぐためにどうしたらいいのか工夫しているのです。子どもたちは、その話を真剣に聞いたといいます。そして、他の動物のために自分たちが持って帰るのは2個だけにしようと決めたそうです。それ以来、子どもたちはどんぐりを拾っては磨き、一番気に入った2個だけを大切に大事そうに持って帰るようになったと話してくれました。
もって帰るどんぐりは2個まで、森のものは森に返して帰るという約束は、保育者から子どもたちへ、そして子どもから子どもへと脈々と受け継がれています。子どもたちは、どんなお客様が来ても、おみやげのどんぐりは2個までとその理由も合わせて話します。聞いた大人は、子どもたちの言動に感心すると共に、何気なくしていることを反省させられたり、物を大切にすることの大事さを改めて考えさせられたと言います。
子どもたちは、色々な約束事を自分たちで決め、それがいつの間にか園全体の約束事になっていきます。先日、私がどんぐりを2個拾って、松ぼっくりも2個拾いました。両方を持って帰ろうとすると、それを見ていたHさんが、どんぐりと松ぼっくりで合わせて2個にするか、どちらかの2個じゃないといけないと言い出しました。「えっ、2個ずつじゃないの?」と聞くと「違うで、1個ずつで2個で。」と言って聞きません。他の子どもたちもそう言います。そして園長先生が欲張りしたら、他の動物が困るじゃないかと言うのです。「そうだよね、園長先生は欲張りしちゃいけないよね。どんぐりも松ぼっくりも欲しいから、1個ずつにします。」というと、「そうでそうで」とうなずく子どもたち。なんだか、幸福な気分になって、森を下りてきました。子どもたちは、どんぐりは2個までということの本当の意味を理解して、周りの人々に伝え守ろうとしています。そんな子どもたちの姿を見ていると、私たちが大切だと思うことを、子どもたちに伝えることがいかに大事かを思います。子どもは、真摯で真面目です。安易な気持ちで、子どもたちと対峙することはできません。
HN:ちるどれん
◎かしこくて、たくましい子どもに育てる(高知市・若草幼稚園の実践)
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