ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ゴヤ

2009年01月04日 | 映画レビュー
 撮影は素晴らしいけど内容はいまいちという、評価がしにくい作品。撮影監督ヴィットリオ・ストラーロがヨーロッパ映画賞を受賞している。ヴィットリオ・ストラーロはベルトルッチの「暗殺の森」、「1900年」、「ラストエンペラー」、ウォーレン・ビーティの「レッズ」、F.コッポラの「地獄の黙示録」などで軒並み映画賞受賞の名撮影監督だ。

 晩年の病床にあるゴヤが自身の後半生を振り返って娘(といっても孫ぐらいに歳の離れた少女)に語って聞かせるという趣向。ゴヤは亡命先のフランスで死期を迎えていた。「わたしの人生は45歳からが華だった」と語るゴヤは、中年を過ぎて宮廷画家として台頭する。王侯貴族の注文でいくらでも肖像画を描くが、本当に描きたいものは政治社会状況を反映したようなもっと暗く陰惨な絵であった。彼は夜中に蝋燭を頭にめぐらせて鬼気迫る絵を描く。夜の光でこそ絵の本当の値打ちがわかるのだというのが彼の信念だった。

 この映画にはなじみの俳優が登場しないため、人物の顔が見分けにくく、最初のうち、中年時代の場面では誰がゴヤなのかわからなかった。さらに、ゴヤの運命の女たる「裸のマヤ」のモデルの侯爵夫人がちっとも美しくないのでいっそう興醒め。

 場面の構成には大いに工夫があり、晩年のゴヤと中年のゴヤが同じカットの中に登場し、しかもその時代の隔たりを、赤い壁をスクリーンのように半透明に映し出すことによって幻想的に演出する。この撮影が素晴らしい。ゴヤの回想も夢の中の世界のように虚ろでシュールであり、また彼の絵のように暗くて残酷だ。自由主義者であったゴヤは王党派の弾圧を避けてフランスに亡命していたが、そこで描くのは人生の醜さと残酷さを抉るようなものばかり。あんな絵を部屋に飾りたいとは全然思わないけれど、大塚国際美術館で見た「ゴヤの部屋」を思い出し、あの数々の暗い絵がゴヤのアトリエ一面を飾っている壮観なさまには息を呑んだ。

 脚本がまずいため、この映画を見てもゴヤの語る彼の人生にはさして興味を惹かれない。ただひたすら撮影がよかった。(レンタルDVD)

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ゴヤ
GOYA IN BORDEAUX
製作国 イタリア/スペイン、1999年、上映時間 100分
監督・脚本: カルロス・サウラ、製作: アンドレス・ヴィセンテ・ゴメス、撮影:ヴィットリオ・ストラーロ、音楽: ロケ・バニョス
出演: フランシスコ・ラバル、マリベル・ベルドゥ、エウラリア・ラモン、ダフネ・フェルナンデス、ラ・フラ・デルス・バウス

赤い文化住宅の初子

2009年01月04日 | 映画レビュー
 父は蒸発、母は過労死、兄と二人、文化住宅の2階の小さな部屋で暮らす中学3年生の初子は貧乏なために高校へも進学できない。一生懸命勉強して成績も上がり、広島県内でも有名な進学校へ合格できそうというのに、高校へ行くこともままならい初子。暗い生活の中で唯一の灯りは同級生のミシマくんだ。彼は初子の初恋の相手。大人になったら初子と結婚するんだとミシマくんはいじらくしくも誓ってくれる。ああ、でもでも… 

 とまあ、恥ずかしくなるぐらいの薄幸の美少女物語。不幸の雪だるまのヒロイン初子はけなげで初々しく、懸命に生きている。いまどきこんな「おしん」みたいな話が…などと思ってはいけない。バブルがはじけて以来、おそらくこんな話はいくらでもあるんだろう。「ホームレス中学生」みたいなケースもあることだし。

 十代の子どもだけで生活している姿は「誰も知らない」を彷彿させるが、本作のほうが子どもたちの年齢が高い分、悲惨度は低い。とはいえ、家には電話もなく、電気すら止められてしまう生活はやっぱりどうしようもない困窮ぶりがにじみ出て目を覆うものがある。教師も助けてくれない。通りすがりに親切にしてくれたおばさんも実は下心があったし、おまけに最後にはさらなる不幸が待ちかまえている。

 初子は健気だけれど、表情は暗い。ラストシーンも希望があるのかないのかよくわからない。このラストシーンに希望を見いだせる人はまだまだ夢見る初々しさ・若さを自分の中に持っていると言えるだろう。わたしのような中高年には厳しい現実が見えてしまう。そういうふうに醒めた目で見てしまう自分が悲しい。わたしもすっかりおばさんだわ…。

 派遣切りの世知辛い世の中、貧しさが身にしみる人々のなんと多いことか。映画の物語として消費できない厳しさをひしひしと感じる。(レンタルDVD)

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赤い文化住宅の初子
日本、2007年、上映時間 100分
監督・脚本: タナダユキ、プロデューサー: 小林智浩ほか、エグゼクティブプロデューサー: 片岡正博ほか、原作: 松田洋子、音楽: 豊田道倫
出演: 東亜優、塩谷瞬、佐野和真、坂井真紀、桐谷美玲、鈴木慶一、浅田美代子、
大杉漣