ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

スルース

2009年01月03日 | 映画レビュー
 1972年作のオリジナル映画を見ているかどうかで評価がかなり異なりそう。ネット上では旧作ファンから手厳しい批判がたくさん寄せられている。わたしは旧作未見なので、この作品だけならけっこう面白く見ることができた。

 元々が舞台劇だけあって、登場人物はたった二人。老作家と、その妻の愛人という利害が反目する二人がいがみ合うだけの物語。老作家の妻は若くて美しいらしいが、画面に登場しないから正体は不明。で、妻の若き愛人はマイロという名(ジュード・ロウ)の美青年。彼が老作家ワイク(マイケル・ケイン)の豪邸に乗り込み、「奥さんと別れてくれるかなぁ~」と迫るお話。

 こういう話なら、勝負は若き美青年マイロに軍配が上がると思いがちだが、そうは問屋が卸さない。先に罠を仕掛けたのは老作家ワイクのほう。見事に罠にはまったマイロが俄然報復に出る。この二人は、臆面もなく男の嫉妬をぶつけ合い、言葉の暴力で互いを傷つける。最初は腹を探りながらぼちぼちと。やがては全面戦争へと至る。

 ワイクは無機質でスタイリッシュな近代的豪邸に様々なハイテク罠を仕掛けている。その邸の罠にマイロがはまって美しい顔をゆがめて泣きわめくところが見物。しかし、この映画は全体として大げさな芝居が鼻について、特にジュード・ロウの熱演があまりに下品になりすぎて眉をひそめてしまう。ケネス・ブラナーの演出はそこを狙ったのかもしれないが、せっかくのジュード・ロウの美貌が台無しなのはファンとしては感心しない。

 サスペンスたっぷりのストーリーが二転三転するところはスリリングで息をつかせないが、人の醜さをえぐるには台詞が単調すぎる。男のエゴむき出しの二人に観客は決して共感できないが、かといってその醜さが自分と無縁なものとのほほんとしていられないだけの迫力を与えなくては、観客に大きなインパクトを与えることができないだろう。

 旧作はもっと高度な心理戦が展開されているらしいので、そちらをぜひ見てみたい欲望にかられた。(PG-12) (レンタルDVD)

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スルース
SLEUTH
アメリカ、2007年、上映時間 89分
監督: ケネス・ブラナー、製作: ジュード・ロウほか、原作戯曲: アンソニー・シェイファー、脚本: ハロルド・ピンター、音楽: パトリック・ドイル
出演: マイケル・ケイン、ジュード・ロウ