ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

私の秘密の花

2009年01月05日 | 映画レビュー
 相変らずアルモドバル監督の鮮やかな色彩コントラストに眩暈がするような映像だ。女性たちの服装も、3人のうち2人が緑を着ていたら真ん中のひとりはその補色である赤を着せる(逆だったかな?)というように、常に画面の中に映っている色にこだわって設計した画面作りを堪能できる。ヒロイン役マリサ・バレデスはかなりのお歳のはずだがスタイルもよく、おしゃれな衣装を次々着替えて登場してくるのも見所か。しかし、中年になっても色香のある美しい妻なのに、夫はとっくに愛が冷めて妻の熱烈な求愛も鬱陶しいだけというのはあんまりなこと。

 ロマンス作家のレオが、世間に隠れてペンネームを使って書いている恋愛小説の数々はそれなりに売れているというのに、彼女は自分がほんとうに書きたいものは別にあると思っている。現実はいつもハッピーエンドじゃないし、もっと暗くて問題が多いものなのだ。レオが自分の小説とエッセイを持ち込んだ新聞社の編集者はあんまりぱっとしない中年男だけれど、誠実そうなアンヘルという男だった。レオにもレオの作品にも一目ぼれしたアンヘルは、レオの作品を新聞に掲載するという。喜ぶレオは、海外赴任中の軍人である夫に電話したが…

 レオが「出版する気はないの」と言いながら書いている小説のストーリーは「ボルベール 帰郷」とそっくり。アルモドバル監督はかなり以前からこのストーリーを温めていたということですな。

 感情の起伏が激しいレオの怒りや苛立ちや愛情は、中年女性なら理解しやすいのではなかろうか。愛されることへの飢餓的ともいえる欲求、そしてそれが満たされないときの悲憤。年老いた母の世話を見てくれる妹への気遣いも、その母と妹との諍いも、とてもリアルで、それがまた裕福に暮らすレオには心の負担となりつつも、どこか責任逃れができてほっとしているような心理も読めてしまう。

 レオの周りで起きる愛憎劇の数々はありがちなことばかりで、また結末もしっとりと微笑ましい。とはいえ、この作品が中年女性の生き直しへのエールとなるかどうかはちょっとわからない。というのも、レオは経済的に恵まれ文才のある美しい女性だ。そのいずれもに欠けるふつうの女たちはどうすればいいのだろう? あんなふうに爽やかに微笑んでいられるのだろうか?

 脳死問題やNATO軍のコソボ空爆などもエピソードに交えているのはアルモドバルらしい。「オール・アバウト・マイ・マザー」でも主人公は脳死コーディネーターだったし、このあたりは心臓移植大国スペインらしい背景を措いているが、脳死問題が本編に直接からむことはない。(レンタルDVD)

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私の秘密の花
LA FLOR DE MI SECRETO
製作国 スペイン/フランス、1995年、上映時間 108分
監督・脚本: ペドロ・アルモドバル、製作: エステル・ガルシア、製作総指揮: アグスティン・アルモドバル、音楽: アルベルト・イグレシアス
出演: マリサ・パレデス、フアン・エチャノヴェ、ロッシ・デ・パルマ、チュス・ランプレアベ、ホアキン・コルテス