ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

モンテーニュ通りのカフェ

2009年01月07日 | 映画レビュー
 パリはモンテーニュ通に実在するというセレブ達の集まるカフェを舞台にした群像劇。花のパリに憧れて田舎から出てきた若きジェシカは、男しか雇わないカフェになんとか雇ってもらえることになった。というのも、このカフェはもうすぐ超多忙な日を迎えるというのに給仕が休んでしまったからなのだった。


 女優、実業家、ピアニスト、劇場管理人、などなどが人生の転機をかけてカフェの周りに集う。アメリカ人有名監督のオファーを狙う舞台女優は「どうせいい役はアジャーニかビノシュがもらうのよ」と吐き捨てる。女優や監督の名前が実名でぽんぽん飛び出すのが面白い。先頃亡くなったシドニー・ポラックがこのアメリカ人監督役で登場しているのが印象深い。ポラックは監督としても良い仕事をしているが、もともと役者なのでやっぱり演技もうまい。

 「地上5センチの恋心」で主人公に恋される作家役を演じていたアルベール・デュポンテルが今度はピアニスト役で登場。今作のほうがよっぽど素敵な役をもらったね。ピアノもかなり弾けるのではなかろうか?

 生涯をかけて集めた美術品をオークションにかけてすべて売り払う覚悟を固めた実業家はブランクーシの「接吻」も売るという。これ、いいわぁ。「接吻」にはシリーズがあっていくつか作品があるようだが、こういうのを一つ持っているのもいいと思う。その実業家には若い愛人ができたのだ。ところがこの愛人、実は息子の元恋人で…。

 カフェにやってくる客達のそれぞれが抱える苦悩、嘆息、満足、後悔、懺悔、欲望が入り乱れる。ジェシカは自身も失恋したばかりだが、カフェに集まるセレブたちの訳ありの会話を小耳に挟み、それがいつのまにか新しい恋への導きとなる。

 女優やピアニストといった芸人たちの悩みがとてもリアルでまたしゃれている。そのうえ笑える。ピアニストのジャンには美しい妻兼マネージャがついていて、彼女自身も音楽家であるのだが、ジャンとは意見の食い違いが目立って夫婦の危機すら迎えている。この夫婦の話がいちばん感動的で、最後は思わず涙。 

 なんといっても笑えるのは女優の話。アメリカ人監督の最新作は、サルトルとボーヴォワールの伝記映画らしい。「シモーヌ役に」という監督の大抜擢に驚喜する昼メロ女優。このあたりがいかにもフランスなんだけれど、哲学者の名前やピアニスト・彫刻家といった芸術家の名前がなんの説明もなく次々登場して、ちゃんとそれで観客がついてこられるというのだからかの国の文化レベルの高さを感じる。サルトル役のオーディション場面なんて抱腹ものの1カットであるが、今時の日本の若者にはまったく理解できないお笑いネタだろう。

 全編に亘ってエスプリの利いた、いかにもおフランスなおしゃれな映画です。パリを舞台にした群像劇やオムニバスには面白いものが多いというのは気のせい? じゃないよね。(レンタルDVD)

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モンテーニュ通りのカフェ
FAUTEUILS D'ORCHESTRE
フランス、2006年、上映時間 106分
監督: ダニエル・トンプソン、製作: クリスティーヌ・ゴズラン、脚本: ダニエル・トンプソン、クリストファー・トンプソン、音楽: ニコラ・ピオヴァーニ
出演: セシル・ドゥ・フランス、ヴァレリー・ルメルシェ、アルベール・デュポンテル、クロード・ブラッスール、クリストファー・トンプソン、シドニー・ポラック