ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

チェ/28歳の革命

2009年01月20日 | 映画レビュー
 ソダーバーグ監督が「演じている役者よりも本人のほうがハンサムな映画はこれが初めて」というように、あの超かっこいいゲバラ役にしてはちょっと…というベニチオ・デル・トロではありますが、わたしはこの人、けっこう好きです。ベニチオの渋さがあってこそ、ゲバラのカリスマ性が描けるというもの。確かに「モーターサイクル・ダイアリーズ」のガエル君がそのままゲバラを演じるという選択肢もあったと思うけど、彼ではまだまだ甘さが残りすぎる。

 本来ならば一本の映画として上映すべきものを2本に分けて第1部、第2部として上映するとは、「レッドクリフ」と同じ手ですな。こういうの、止めてほしいわぁ。せめて2本連続見る客には2本目半額とか特典をつけてほしい。2本分の入場料と2本分のパンフレットを買わなければならないわたしにしたら大変痛い出費ですぅ~(T_T)。

 さて、第1部はゲバラがカストロと出会ってバティスタ政権を倒すまでの数年間を描く。その合間合間に後に革命政府の閣僚となったゲバラの国連総会での演説場面などがモノクロで挿入される。モノクロの場面はほとんど実写の記録映像と見間違うほど。また、「現在時間」であるところのゲリラ戦の場面もドキュメンタリータッチの映像なので、観客はゲバラとともに革命戦争を戦っている気分を味わえるというもの。しかし、そうであるだけにシエラ・マエストラの山中を行軍する場面の淡々と暗いのには参った。さすがにサンタクララの街頭戦では手に汗握る迫真の場面が続くのでここではしっかり目が覚めるが、そこに行くまでがつらいです。

 しかも、カストロがほとんど登場もしないし活躍もしないため、この革命がいったい何を主張し何を目指して戦われているのかその理念に当たる部分はまったく説明がない。これは既にゲバラについて相当の知識がある人向けの映画であって、これを見てもなぜたった82人のゲリラが政府の正規軍を破ることができたのか(しかも生き残ったのはそのうち12人!)、理解に苦しむだろう。ゲバラが土地の解放を約束して農民達を兵士に加えていったこと、捕虜は殺さなかったこと、政府軍とはいえ大部分が貧農出身の兵士であったためにゲリラに寝返る者も大勢いたこと、バティスタ政権の腐敗ぶりが度を超していたことなど、革命軍が勝利できる条件はいろいろあったのだが、それについては映画を見てもきちんとした説明はないので、予習は必須。

 一人の医師であったゲバラがいかに自らを革命家として鍛え上げていったのか、彼の内面をほとんど描かないという、ある意味伝記ものとしては致命的な映画なので、そういう部分はなくてもいい、という人にとってのみ面白い映画ということはできる。この第1部は革命が成功へと向かう高揚感に満ちているため、まだしも後半になるほど面白かったが、問題は第2部である。今度は革命が失敗する話ですからね、暗いよ~。爆睡しないように気をつけたいと思います。

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チェ 28歳の革命
CHE: PART ONE
THE ARGENTINE
アメリカ/フランス/スペイン、2008年、132分
監督: スティーヴン・ソダーバーグ、製作: ローラ・ビックフォード、ベニチオ・デル・トロ、脚本: ピーター・バックマン、撮影: ピーター・アンドリュース(=スティーヴン・ソダーバーグ)、音楽: アルベルト・イグレシアス
出演: ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル、サンティアゴ・カブレラ、エルビラ・ミンゲス、ジュリア・オーモンド、カタリーナ・サンディノ・モレノ