日々の恐怖 5月11日 奇声
友人Aの話です。
彼が住むマンションに、迷惑な酔っぱらいがいた。
斜め向かいの部屋の男で、明け方近くに帰ってくると廊下で奇声をあげるのだ。
フリーデザイナーのAはそんな時間まで仕事をしている事が多く、酔っぱらいの奇声で集中力を削がれるのだという。
腹に据えかねたAは、ある夜、酔っぱらいの奇声が聞こえると同時にドアを開けた。
「 わわッ! 」
その男はもう一度奇声を発し、まじまじとAの顔を見ると、恥ずかしそうにぺこりとお辞儀をした。
文句を言おうとしたAだが、シラフにしか見えない男に拍子抜けして、そのままドアを閉めた。
しばらくすると向かいの部屋の男は引っ越し、OLらしい女性が入居した。
もう奇声を聞くこともないだろうと安堵したAだったが、年末の深夜に女の奇声を聞いた。
反射的にドアを開けると、彼女は前の住人と同じように驚き、Aの顔を見た。
何か言いたそうにしている様子が判った。
彼女が口を開きかけたのを見て、Aはドアを閉めた。
おそらくあの二人は、Aの部屋のあたりに何かを見たのだ。
「 変な話は聞きたくないから、普段も会わないようにしている。」
とAは言った。
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