日々の恐怖 7月2日 烏天狗
飲み屋で仲良くなった飲み友だちの警察官Sさんに聞いた話です。
Sさんの同僚の警察官が、老人が突然失踪したって家族からの電話があったので、その家に行ったそうです。
その警察官は、どうせ惚けて徘徊してるんだろうってタカをくくって赴いたのだが、事情を聞くと家族の話が実に奇妙で変だ。
まず、その老人(男性)は70才の誕生日に失踪したんだが、前から自分は70才になったら天狗になると家族に公言してたらしい。
ハア?って感じなんだけど、そのじーさんの父親もその父親も、70才の誕生日にいなくなってる。
これは、そこの家の長男の話です。
それで、その老人の部屋に入ったら、黒い烏の羽根みたいなのが10羽分くらい散乱していて、部屋のまん中にどんと子供が入れるくらいの空っぽのたらいがあって、
「 これはなんですか?」
って聞いたら、嫁が昨日(失踪する前の日)突然じーさんが米を一斗炊いてくれって言ったんで、炊飯器で何回かに分けて炊いて、その中に入れてやったと。
それで、それがきれいに米粒一つなくなくなってる。
で、昨晩なんだけど、じーさんの部屋で何やら物音がした。
もう大勢でガサガサ騒いでる感じだったらしい。
「 それは見たんですか?」
って聞いたら、
「 おじいちゃんから“何があっても決して部屋を覗くな”って言われたので、見ませんでした。」
との答えだった。
どうもからかわれてるような話だけど、家族は皆真剣でウソをついてるようには思えない。
長年の経験で、ウソかどうかはすぐにわかるもの。
仕方がないので、一応行方不明者として捜査願いを本署に連絡して、鑑識呼んでその羽を持ち帰った。
しかし、残念ながら、結局、そのじーさんは発見されなかった。
そして、その鳥の羽は、“烏の仲間のようだ”程度の鑑識結果だった。
Sさんは、
「 俺も警察入って30年だけど、不思議な話だよなあ~。
その長男が70才のときは、俺はもう生きてはいないよなあ~。
残念だけど・・・。」
と言っていました。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ