8月の初め、平壌市内で行われた「全国 8.3人民消費品展示会」に行ってきました。
8.3人民消費品とは、工場などで通常生産するものとは別に、人々のより細かなニーズに応えるため手作りされた製品のことを言います。生活の中で出た、一見ゴミになりそうな物や自然の資材が用いられているため、材料費はほぼゼロ。しかし、そこから無限の可能性が生まれます。
もともとは1980年頃から、子育てなどで家庭にいる女性や老人たちが自発的に服や雑貨を作り売っていたのが始まり。
活動が少しずつ広まる中、1984年に金正日総書記がこれを評価し「大衆運動」に規定したことで、全国的に発展してきました。その日が8月3日だったため、そのまま8.3人民消費品という名前になったそうです。
各道では地域ごとの特産物を生かして特色ある雑貨や民芸品を作ったり、街なかには8.3人民消費品を専門に扱う直売店があったり、暮らす区域ごとに「家内班」というグループを設けて一般の人々が生産したりと(いわゆる内職)、人々の生活に浸透しています。8.3人民消費品という概念は初めて知ったので、そのシステムがとても面白く感じられました。
さて、冒頭の展示会。ここには朝鮮の各道から集まった選りすぐりの8.3人民消費品が並びました。その数なんと7700余種類!
「手作り」というイメージが大きかったので、実際に行くとレベルの高い製品が並んでいることに驚きました。これを全て手作業で…? 聞いてみると、運動が発展するにつれて8.3人民消費品はかなり多様化したとのこと。
工場によっては8.3人民消費品を作る部署が設けられているところもあり、生産の過程で出た廃棄物をリサイクルして別の製品を生産します。例えば、靴工場で出た革の切れ端を再利用し、子ども用のボールを作るなど。
また、工場ごとに生産している正規の製品でも、生産目標を超過達成した場合はその超過分を8.3人民消費品として流通させていると話していました。これが全体的な質の底上げにつながっているようです。
もちろん、身の回りのものを利用して作る製品もまだまだ豊富です。これはタバコの箱を折って重ねて作った(!)鳥の置物。作った人はかなりの喫煙者か。
布の切れ端を使ったり洋服やカバンをリサイクルして作ったドレス、帽子などもありました。このように個性的なデザインは工場では作れない、個人のセンスで生まれるもの。8.3人民消費品の魅力です。
会場には平壌市民もたくさん訪れ、みな興味津々な様子でした。展示会といっていますが、普通に購入も可能です。
各道の製品を楽しく見て回りながら、最後に江原道のブースに差しかかった時、強烈に目を引くものがありました。
カ、カエル…! しかも貝殻で作っている…。
さまざまな大きさ・形の貝殻を使い分けながら、見事なまでにカエルを表現しています。素通りすることができず熱心に眺めていると、ブースの責任者が声をかけてくれました。
「강원도바다에서 가져온 조개껍질로 만든 《개구리합창단》입니다(江原道の海で採れた貝殻で作った“カエルの合唱団”です)」
そして私があまりにも物欲しげに見えたのか、記念にプレゼントしてくれました。責任者の優しさ、独特な可愛さ、そしてこの製品が江原道から届いたということにも感動しました。江原道の海の香りが…と鼻を近づけてみると、そこは普通に接着剤の匂いが。
嬉しくてホテルに帰った後も上機嫌で持ち歩いていると、すれ違った人民に「《개구리합창단》이로구나(“カエルの合唱団”じゃん)」と声をかけられました。
…ん? 江原道の責任者と全く同じ名称を言い当てたのです。製品名はどこにも書かれていないのになぜ分かる? しかもよく見ると“合唱団”ではなく、どちらかというと“楽団”なのに…。なんだろう、朝鮮では有名な雑貨なのかな…。深まる謎に、つい笑ってしまいました。(理)