イオ3月号の特集は、「『食』から見えるウリハッキョ(仮)」。各地の朝鮮学校で運営されている食堂のほか、保護者、地域同胞、日本人支援者の方々による給食、お弁当、そして食育の取り組み…。「食」を切り口に朝鮮学校の姿を伝えるという内容です。
先日、取材の一環で西東京朝鮮第2初中級学校(町田市、幼稚班も併設)を訪ねました。同校では、月・水・金曜日にお昼の給食が実施されており、地域に暮らす同胞2人が協力しています。
午前9時。西東京第2の食堂へ行くと、給食を担当している黄順蘭さんと卞清美さんがすでに仕込みを始めていました。この日のメニューはユッケジャンクッパとチヂミ。手際よく材料を切ったり混ぜたりしています。
「先にあれをして」「次はこれをして」というような指示が特になく、スムーズにそれぞれの作業をこなす二人。はじめに分担を決めていたのかと聞くと、「いえ、お互いに状況を見ながらできることをしていますよ」との返事が。
「二人で一人だからね」と笑う黄さんの言葉通り、ぴったりと「あうん」の呼吸で準備を進めていました。
二人のこだわりは「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供すること」。できたてを味わってもらうため、作業の順番にも気を配ります。また、児童・生徒たちのアレルギーにも対応しており、「〇〇アレルギーがある」と事前に申請があれば、対象食材を入れないバージョンも作ります。この日は、卵アレルギーのある児童・生徒のために、卵を抜いたユッケジャンクッパとチヂミを用意していました。
給食がない火・木・土(もしくは日)曜日は買い出しの日。限られた給食費で食材をまかなえるよう、できるだけ安く良質な食材を求めてスーパーをいくつもはしごするそうです。まいにち給食のことを考えるのは大変ですが、「오늘 급식 참 맛있었어요(今日の給食、とても美味しかったです)!」と子どもたちが声をかけてくれたり、保護者が提出する給食の注文票に「언제나 고맙습니다(いつもありがとうございます)^^」などのメッセージが書かれているのを見ると励みになると話していました。
黄さんは同校に12人(!)の孫が通っており、卞さんは今年の春に孫が入園します。でも、それとは関係なく「아이들은 다 손자손녀고 선생님들은 다 아들딸입니다(子どもたちはみんな孫、先生たちはみんな息子娘のようなもんです)」と言って腕を振るう姿がとてもあたたかかったです。
引き続き工程を見ていると、黄さんが大きなボウルに入った肉に下味をつけていました。醤油、ゴマ油、そしてすりニンニクをドバッ!!
(お~さすが)と思い、「子どもたち、ハッキョで朝鮮料理の味を覚えますね」と声をかけると、「私の味だけどね」と恥ずかしそうに黄さん。しかし、「1世のオモニの味」と付け加えるのを聞いて、1世の味が2世の黄さんの手を通して4、5世の子どもたちにまでつながっているのだな…と感動しました。
給食の時間が近づくとラストスパートに入ります。大小4~5個の鍋を火にかけてユッケジャンスープの仕上げ。幼稚班、初級部低学年、高学年、中級部…と、コチュカル(粉トウガラシ)の量で段階的に辛さを調節し、ご飯にかけたら完成! 児童・生徒たちは温かいクッパを美味しそうに食べていました。
西東京第2で給食が始まったのは2007年。同校の李正愛校長は、共働きが多い保護者たちからの要望を受けて実施に踏み切ったと説明してくれました。「最近は家でキムチやトックッを食べない家庭もある。ハッキョの食堂は民族の料理と出会う場にもなっています」(李校長)。
毎年3月には、卒業する学年の生徒たちが一番好きなメニューをリクエストできる制度もあるのだとか。一人ひとりのお気に入りメニューが、その月の献立にしっかり組み込まれます。そのような思い出づくりも素敵ですね。
そして昨日は、東京朝鮮中高級学校にも行ってきました。こちらは月~金曜日まで日替わりで給食が提供されています。毎日3~4人のオモニたちがフル回転で準備にいそしみます。
メニューは2週間ごとに張り出され、生徒たちは好きな日に利用することができます。平均利用者数は約160人。人気メニューは「とり南蛮」「チーズタッカルビ」「牛すじスープ」「カツ丼」「クッパ」「ピビンパ」「牛タンシチュー」で、これらの日は特に多く、200人を超えるそうです。
昨日はちょうどクッパの日。こだわりを聞くと、「きちんと骨つきテールでスープをとっている」とのこと。前々日から茹でこぼし、前日にもじっくり煮込む。3日かけて特製クッパに仕上げます。そんなに手間をかけているのか…と驚きました。
味は2種類。辛くない「白」とトウガラシでしっかり味つけした「赤」です。「매운것(辛い方)」「보통것(普通の)」「빨간색 주세요(“赤い”の下さい)」など、人によっていろいろな注文方法があり面白かったです。他にも、ラーメンの日は「しお・しょうゆ・みそ」の中から2種類が準備され、こちらも好きな味を選ぶことができます。
先ほどの人気メニューにある「チーズタッカルビ」のように、新作の考案にも積極的。生徒たちを喜ばせるための努力を惜しみません。家に帰れば当然ながら「母親業」も待っている。毎日毎日すごい、とただただ尊敬でした。
同校の食堂オモニたちのモットーは「친근한 어머니심정으로 학생들을 대한다(親しいオモニの心情で生徒たちと接する)」。名前や所属クラブ、味の好みなど、できる範囲で把握したり、体調が悪そうな子がいたら声をかけたり。配給で忙しくても、生徒たち一人ひとりに目を配っています。卒業生が同校を訪れた時に「食堂オモニ、アンニョンハシムニカ」と覚えてくれていたり、生徒の保護者たちから「中高の食堂で育ててもらったようなものです」と感謝されると嬉しいと話していました。
東京中高ではもともと、男子生徒だけが食堂を利用していたそう。同校の食堂で一番長く働いている崔恵美さんは、「初めのころ女子生徒にも来てほしくて“予約席”まで用意したけど一人も来なかった」と笑いながら振り返っていました。なんとなく「食堂は男子だけ」といった風潮があり、入るのが怖い雰囲気だったようです。
しかし、ここ数年で女子生徒も普通に利用するようになりました。「男子たちがだんだんマイルドになってきたのかな?」とオモニたち。現在の高3が高1くらいの時から、徐々に女子生徒たちが来るようになったと言います。率先して来る「先駆者」的な女子生徒たちがいたのも一因だったのでしょう。
取材してみると、どのハッキョの食堂も魅力がたくさん。3月号の特集では、他にも日本各地の食堂を紹介します。ぜひチェックしてみて下さい。(理)