愛知に続き、福岡では9月14日に九州無償化裁判の第14回口頭弁論がありました。北九州市にある福岡地裁小倉支部には、42の傍聴席を求めて約150人が集まりました。私は今回初めて九州裁判に来ることができましたが、傍聴希望者に比べて傍聴席の数があまりにも少ないことに驚きました。
法廷には、愛知裁判と同じように記者席が設けられ、地元の日本人記者たちも傍聴しました。
この期間、原告側弁護団は被告に対し、文科省の修学支援室長が変わった際に引き継いだ文書を開示するよう求めた求釈明申立書というものを提出していました。被告は、そのようなものはないと主張したため、改めて文書提出命令(裁判所から被告に、文書を提出するよう促すよう求めること)の手続きを申し立てました。
また、福岡でも証人尋問の段階が近づいているため、原告2人、意見書を提出した三輪教授、また不指定処分を下した張本人である下村博文・元文科大臣を法廷に呼ぶための申し出をしました。
同時に、弁護団はいくつか証拠を提出。その中には、大阪無償化裁判の勝訴判決や東京新聞に掲載された前川喜平・文科省前次官のインタビュー記事もありました。
一方、被告からは、関連書類を提出する必要はないなどという内容の準備書面9、10が提出されたほか、広島無償化裁判の判決が証拠として提出されました。
事務的なやりとりの後、法廷では原告側弁護団から白充弁護士と金敏寛弁護士が発言しました。
(写真は報告集会でのもの)
沖縄で弁護士をしている白弁護士は、九州無償化裁判の提訴行動に参加した以降はなかなか弁論期日に来ることができないでいたといいます。しかし、広島での不当判決、そして大阪での画期的な判決を目にして、各地方で涙する後輩、先輩、同胞やさまざまな支援者の顔を見ながら「負けても勝っても、自分もこの中にいたい」と思ったそうです。遅ればせながら、今回から改めて積極的に携わっていこうという気持ちを強く持ち、この日の弁論に参加することを決めていたところに、奇しくも東京の不当判決。「やはり来ると判断してよかった」と前置きをし、話し始めました。
「証拠に基づく事実認定がそんなに難しいことなんでしょうか。法律の趣旨と目的に従って法を適用する、大阪ではそれを丁寧に行いました。どうして広島や東京ではそれができなかったんでしょうか。高校生だって『三権分立』について知っていると思うんです。司法が行政をただす、ただそれだけのこと。いち地域のことではありますが、この裁判の判決は、ここに座っている一人ひとり、学生、保護者たちだけでなく、日本各地にまで伝わるもの。一つひとつの判決が歴史に残ります。裁判所にはぜひ適正な判断をしてほしい」
白弁護士は、司法のあるべき姿について切々とのべました。
続いて金敏寛弁護士は、朝鮮学校への検証(裁判官が学校を訪れること)と下村博文・前文科大臣に尋問をする必要性について強く訴えました。
「東京の判決を読まれたと思いますが、こんな言葉遊びをしていたら日本の司法は崩壊します。必ず他の問題にも波及する。広島と東京は結論ありきの判決でした。他方で大阪は、原告の主張をきちんと検証したうえで結論を出しました。裁判所ならどちらが正しいか分かるはずです。原告の立場、訴えをきちんと理解しないと判決は書けないと思います。実際に朝鮮学校を見てみないと分からない。裁判所の皆さんには、これをしっかりと確認した上で判決を書いてほしい」。
ふと「人情味」という言葉が思い浮かぶくらい、弁護士たちの熱い語り口調が印象的でした。
口頭弁論が終わり、報告集会へ。傍聴に外れたたくさんの人たちは、ミニ学習会として大阪が勝訴を勝ち取った時の一連の映像を見ていました。
報告集会では金敏寛弁護士が先ほどの内容について解説し、東京無償化裁判の判決にも言及しました。
「下村・元文科大臣は2012年12月の記者会見で、拉致問題の進展がないことと朝鮮学校が総聯と密接な関係にあるから不指定処分にするとはっきり言っている。しかし、裁判所は『本件不指定処分などの個別具体的な処分やその理由についてのべたものではない』と、言葉遊びでしか判決を書いていない。結論ありき。こんないい加減なことがまかり通ってはいけない」と怒りを示しました。
その後、弁護団からは白充弁護士のほか、前日に愛知無償化裁判を傍聴した安元隆治弁護士も発言しました。
「愛知は非常にいい尋問だった。愛知朝鮮学園の理事長は朝鮮学校と総聯の関係について正面から話していた。また、原告は一人に1時間を費やし、深く話を聞くことができた。祖父・祖母の話から続き、在日朝鮮人がどのような気持ちで生きてきたのか、家族も含めた話が語られて、ぐっとくるものがあった」。
また、九州裁判については「他の地域では控訴が続くが、そこではあまり新しい事実を取り上げて判決を書くというよりは、一審の判決で矛盾はないか、そのためにはどのような証拠調べが必要なのかという視点で動くため、出来ることが限られている。そういう意味で九州裁判は、ますます全国的な位置づけが大きくなってくる。進行が遅い分、他の訴訟でできなかったことをやれる。重要な責任を感じている」と、その位置づけについていま一度強調しました。
次に、支援者から連帯のメッセージがありました。
今年8月26日に福岡朝鮮初級学校で行われた「福岡ふれあい納涼祭」の李鐘健実行委員長(同校アボジ会会長)は、「昨日の東京判決はとても悔しかったが、弁護士の先生たちの話を聞きながら、今日からまた頑張っていこうという気持ちになった。福岡初級の保護者、同胞、日本の友人の方々の熱い思いがこもっている、納涼祭の収益金の一部を持ってきたので、ぜひ今後の運動に役立ててほしい」と話し、朝鮮学校無償化実現・福岡連絡協議会の瑞木実事務局長に支援金を手渡しました。
続いて、今年6月に山口県で行われた「モンダンヨンピルコンサートin下関」の内岡貞雄実行委員長(写真右)が発言。モンダンヨンピルとは、朝鮮学校を支援する韓国の市民団体です。
内岡さんは「モンダンヨンピルの人たちは、下関朝鮮初中級学校に来るや否や子どもたちとぴったり寄り添って喋ったり歌ったり、食事を共にしていた。学校の先生とも心から交流していた。本当は、ここにも直接きて激励の言葉を送りたいと話していたが、諸事情で来られないため、代わりに気持ちを伝えてくれと10万円を預かってきた。また、学校のオモニ会がバッジを売って2万4千100円の利益があったため、それも合わせて持ってきた」と話し、瑞木事務局長に支援金を伝達しました。
連帯のメッセージ最後に、龍谷大学の金尚均教授があいさつしました。金教授は、今年2月に福岡県で行われた「高校無償化即時適用実現・全国統一行動に連帯する福岡県民集会」の時も京都から駆けつけ、講演を行いました。
「東京判決は、広島判決に続いて非常にひどい内容だった。そもそも無償化制度は、貧富の差や国籍にも関わりなく均等に教育を受ける権利を保障しようというもので、政治的な判断が含まれないというのが前提。それにも関わらず、今回の裁判では朝鮮や総聯との関係を取り上げ、しかもそれが朝鮮学校に対して『不当な支配』をしていると言っている。なぜ朝鮮学校が戦後、日本の中で生まれ、そして今もあるのかということがまったく裁判官に伝わっていない。そういう意味で、弁護団が主張している朝鮮学校への検証は必ず実現されなくてはいけない。正直、私が経験した京都朝鮮初級学校襲撃事件の裁判でも、裁判官が検証のために朝鮮学校に来たことで流れが変わった」と検証の重要性を熱弁。「この裁判で負けるということは、朝鮮学校に差別することは日本社会で許されるということ。絶対勝たなければいけない」と締めくくりました。
最後に、金敏寛弁護士が今後の進行について説明。「他の4地域の裁判で、文科省の関係者を尋問に呼べたのは東京だけ。5つの地域の中で唯一、九州裁判で尋問が残っている。文科省関係者を裁判所に呼んで、無償化問題の本質、真の目的がなんだったのかということを必ず明らかにしたいと思っている。準備のためにまだ少し時間がかかるが、変わらず支援をお願いしたい」と話しました。
また、毎日新聞やNHK、地元の新聞社などから、弁護団を交えて勉強会を開いてほしいとの要望があったことを紹介しながら、「マスコミ含め、日本の世論がこの問題にようやく目を向け始めている」とのべました。勉強会は年末か年明けに予定しているそうです。
「裁判はこれからも続くが、みなさんもこの問題を真剣に考え、勉強して、裁判所にも引き続き足を運んでほしい」と呼びかけ、集会を終えました。
終了後、会場の後方では支援グッズの販売も行われていました。
次回、第15回口頭弁論の期日は12月7日(木)11:00から。これまでには傍聴席が増えるくらい、もっと世論が動いていけばいいなと感じました。私自身これからもできるだけ現地で取材をし、たくさんの声を紹介していきたいと思いました。(理)
九州無償化裁判について、これまでの経過が細かく記録されているHPもあります→(http://msk-f.net/index.html)