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省令改悪と人種差別撤廃条約

2013-01-24 09:00:00 | (瑛)のブログ
 自民党が朝鮮高校を「高校無償化」から排除しようと省令改悪を進めようとしている。パブリックコメントの締め切りがいよいよ今週26日に迫った。省令改悪は、どこからどう見ても差別だが、この差別の根深さをどれほどの人が感じているだろうか。

 自民党が衆院選挙で大勝したのち、文部科学大臣に就任した下村博文氏は昨年末、
「朝鮮学校については、拉致問題に進展がないこと、朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいることなどから、現時点では国民の理解が得られない」(2012年12月28日、閣議後の会見)と述べた。

 大臣の発言は、朝鮮学校が拉致犯罪に関係しているような「印象」を根拠もなく述べている点で、大きな問題があり、とても一国の教育に責任を持つ者の発言とは思えない。実際、大臣は今現在、朝鮮高校に通っている生徒の目を見ながら、同じことを言えるだろうか。

 この発言が正当化されるのなら、これから日本政府は、イスラエルがガザを攻撃したとき、例えば日本国内のイスラエル国籍の子どもが通う国際学校を高校無償化から除外する、というようなことをするのだろうか。米国がテロリストを撲滅するという理由でアフガニスタンを攻撃したとして、日本国内のアメリカンスクールに制裁を加える、ということをするだろうか。「北朝鮮は日本の敵国」だから、これくらいは許されるとでも思っているのだろう。

 高校無償化法は、公私立高校とともに、外国人学校生徒を支給対象とした点が画期的だった。

 日本政府は、今まで外国人学校を正規の学校と認めてこなかったが、今回の無償化法で初めて外国人学校について「基準」を設け、無償化法の対象とし、税金を投与することにしたのだ。その基準とは、①日本の高校に対応する外国の学校(ブラジル・中華・韓国、ドイツ、イギリス、フランス、ペルーなど)②国際的教育機関から認定を受けた学校(インターナショナル・スクール)③その他文科大臣が高校に類する課程を有すると認めた学校―で、すでに37校の外国人学校に支給が認められた(2012年5月現在)。

 今回の省令改悪では③の部分を削除するというが、ホライゾンジャパン・インターナショナルスクール(神奈川県)、コリア国際学園(大阪府)はすでに③の対象となっている。

 朝鮮高校は③の基準に沿って審査の対象となり、各種資料を提出していた。審査結果を待ち続けた朝鮮高校にとって、大臣のこの発言は、審査を一方的に放棄した無責任な態度以外の何物でもない。

 朝鮮高校をねらいうちにした差別を見ながら、日本が1995年に批准した国連・人種差別撤廃条約のことを思い出した。

 この条約の正式名称は、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」で、人種差別を、「人種、皮膚の門地(家柄)または民族もしくは種族的出身にもとづくあらゆる区別、除外、制約または優先」と定義している。日本では在日コリアンや他の外国人はもちろん、差別、アイヌ民族や沖縄出身者への差別も該当する。この条約の特徴は、国はもちろん、自治体などの公的機関、団体や個人による差別、公衆の利用する場での差別、機会だけでなく結果としての差別を対象としている点だ。今回の朝鮮高校の無償化制度からの排除もちろん該当する。

 人種差別撤廃条約発効後、日本ではこの条約を根拠に人種差別行為の責任を問う、いわゆる「人種差別損害賠償請求訴訟」が起こされてきた。その一つがブラジル人記者が勝訴した「浜松宝石店入店拒否事件」だ。1998年6月、浜松市に暮らすテレビ記者・アナ・ボルツさんは、アクセサリーを探しに入った浜松市の宝石店で、「Where are you from?(どちらの方ですか)」と聞かれ、「ブラジルです」と答えた。アナさんは、店から追い出されそうになったばかりか店主は、抗議するボルツさんを犯罪人扱いして警察を呼ぶなど屈辱的な仕打ちをした。(「朝鮮新報」1999年10月29日付)

 ボルツさんは、店側のこうした行為は「人種差別撤廃条約」違反だとして、慰謝料などを求める損害賠償訴訟を提起。結果出された判決は、画期的な内容だった。判決は、日本には人種差別を禁じる法律がないため、日本が加入している人種差別撤廃条約に国内法としての効力を認め、同条約を個人間に適用し被告の行為を「違法」としたのだ。

 人種差別撤廃条約は、1959年から60年にかけて欧米諸国で続発したネオ・ナチによる反ユダヤ主義事件やナチズムの扇動に対する世界の驚きを背景に、条約作成の決議(1962年)から3年という異例の速さで作成・採択され、1969年27ヵ国の批准を得て発効した。この条約については、「日本の民族差別」(岡本雅享編、明石書店)に詳しいが、同書には、国連史上初めて人種差別問題を提起し、それを取り入れようと奔走したのが日本であった事実が記されている。

 …1919年2月13日、パリ講和会議で日本政府代表は、国際連盟規約の中に「各国民(nation)均等の主義は国際連盟の基本的綱領なるに依り、締約国は成るべく速やかに連盟員たる国家における一切の外国人に対し、如何なる点においても均等公正の待遇を与え、人種或いは国籍如何に依り、法律或いは事実上何等差別を設けざることを約す」という、人種差別撤廃条項の挿入を提起した…(同書から)

 日本の行動の背景には、当時合衆国やオーストラリアでおきた日本人排斥運動があった。しかし、日本自身が朝鮮など他国を植民地支配している罪の意識はなかったのだろう。

 条約が日本で発効されて17年経つが、いまだに人種差別を禁じる国内法は日本にない。外国人を犯罪者集団のように扱い、教育の機会を奪うことが現実に起きようとしている今、反対の声があがらないこの現実が日本社会の人権感覚を物語っているように思う。(瑛) 

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1 コメント

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Unknown (いぬどし)
2013-01-24 18:55:12
こんにちは。

私もパブコメに意見を送りました。

締め切りまでに集会やデモがあれば参加しようと思っていたのですが…。

安倍政権発足に安保理決議、さらに核実験が行われれば朝鮮学校をめぐる情勢もますます厳しくなると思いますが、ここで黙ってしまったら差別を認めることになってしまう。
朝鮮学校の子どもたちの教育を受ける権利は守られなければならない。

それにしても、アフリカでもアジアでも中東でも戦争はやめてほしいです。
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