満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『アニマルズ・ピープル』

2011-06-10 03:28:30 | 

皆様ごきげんよう。派遣会社から今更離職票が来た黒猫でございますよ。しかもこれ1回送り返さなきゃいけないっていう・・・どういうことなの。


今日は本の感想を。

『アニマルズ・ピープル』(インドラ・シンハ著、谷崎由依訳、早川書房)

読むきっかけは勿論舞台がインドと聞いて。
でも実際読んで、モデルになった街を調べてみたら北インドでしたが。


実際にあった化学工場事故による公害を受けた街のスラム街を舞台にした話。

背骨が曲がっているために直立できず、両手を足のように使い四本足で歩く「動物」と名乗る主人公が、外国人の記者の依頼で自分がどうしてこうなったのかなど、自分を取り巻く環境をカセットテープに吹き込んだ体裁で話が進みます。
作者は実際に作品のモデルとなった街・ボーパールの被害者支援に長く関わっているそうで、インドのスラム街の描写は空気まで伝わってきそうなリアリティがあります。


動物が生まれてすぐ、動物の街の化学工場で事故が起き、街は人体に有害な化学物質で汚染された。そのせいか、動物は幼児の頃に高熱を出し、背骨が曲がり、直立することができなくなった。
二本足で歩くことのできない動物は、アムリカ(=アメリカ)からやってきた女医のエリに詳しく診察してもらえばもしかしたら自分も普通の人間のようになれるかもしれないという希望を抱く。
しかし、エリが事故を起こした工場の会社の持ち主と同じアメリカ人であるという事実、エリに近づくことによって自分の愛する人を裏切ることになるという後ろめたさ、愛すると同時に憎んでもいる、街の指導者ザファルに対する想いから、散々逡巡し、取るべき行動を決めかねる。
そうこうしているうちにカンパニ(化学工場)に公正な裁判を求める街の空気は不穏になり、ついに・・・。

というような話。

ここに至るまでの盛り上げ方がとても上手いです。
全編にわたって動物の葛藤が語られていて、彼は街のみんなを嫌っているが同時に愛してもいて、それがとてもよく伝わってきます。
特に動物がただひとり愛する女性・ニーシャは、街の指導者・ザファルと恋仲で、そのふたりがふたりとも自分に優しくしてくれるのが嬉しいけれども腹立たしいという、そのどうしようもない気持ちがよく伝わってきます。

作中でザファルが言うように、動物はかなり頭がよく、そのぶん色々考えてしまうのでしょう、重要なことを知っていながらそれを告発するのを躊躇います。

ラストの動物の意外な選択も含め、とてもいい作品でした。

物語の舞台となるカウフプールは架空の街ですが、作中冒頭に挙げられた

http://www.khaufpur.com/

に実際にアクセスしてみると結構作りこんであって面白いです。

読み終えてからネットで調べて、初めてモデルとなった事件の概要を知りました。未だに裁判にも至ってないんですね・・・被告側が酷いのはもちろんですが、政府ももうちょっと積極的になんとかすべきですよね。


ちなみにわたし、最近(11年4月~)は特に長い感想を述べるほどでもない読了本はブクログでひとこと感想をあげています。ご興味のある方は左端のブックマーク欄からどうぞ。
なかなかマイベスト本のレビューが書けない・・・。