皆様ごきげんよう。黒猫でございます。
今日こそは、昨日途中で消えた本の感想を(笑)。
『獣の奏者』(Ⅰ闘蛇編 Ⅱ王獣編 全二巻、上橋菜穂子著、講談社)
リョザ神王国の一地方の村で、獣ノ医師の母と共に暮らす十歳の少女・エリン。父は既に亡く、母は霧の民<アーリョ>を呼ばれる余所者出身だったため、エリンとその母は村ではどことなく浮いていた。
ある日、母が世話を任されていた闘蛇(大きな蛇のような生き物で、戦士が騎乗して戦に使う)が同時期に何頭も死んでしまう。責任を問われた母は、余所者であることも手伝って、獰猛な野生の闘蛇のすむ池に生きたまま放り込まれるという残酷な刑に処せられる。母を助けようと池に飛び込んだエリンを見た母は、「今からすることを決して真似してはいけない」と言い残し、不思議な抑揚を持つ一連の指笛を吹き鳴らす。不思議なことに、獰猛な野生の闘蛇がそれに反応し、エリンは母の言いつけ通りに闘蛇の一匹の頭に捕まってその場を逃れる。
エリンは闘蛇に運ばれ、はるか東の地に逃げ延びる。助けてくれた親切な蜂飼い・ジョウンのもとで、過去を隠して暮らすエリンだったが、ある時山の中で「王獣」と呼ばれる非常に珍しい獣を目撃する。大きな翼を持ち、力も強い王獣は、闘蛇すら易々と食べてしまうほどで、時折野生のものが捕らえられ、都にいる真王に捧げられるという。
いつか、その王獣の世話をする仕事に就けないものだろうか、と漠然と考えるエリンだったが・・・?
というようなお話。
いやあ、読み応えがありました!
作者の上橋菜穂子さんは文化人類学者なので、現実にはない世界を描写する時も、必ずそこにしっかりとした土台を築いています。今回のお話は闘蛇と王獣という架空の生き物がかなり重要な要素として出てくるんですが、特にⅡに入ってからの王獣の描写はすごいです。本当にそういう獣がいそうだと思うくらい習性が細かく描写されています。何よりエリンが担当することになる王獣・リオンが可愛い・・・!子どものうちに怪我をして、怯えているのか一切餌を食べなくなったリオンに、何とか餌を食べさせようとするエリンの奮闘ぶりが事細かに描かれます。
「人には決して馴れぬ獣」と言われた王獣を相手に、エリンはかつてないほどの成功を収め、おかげで彼女の運命は大きく変わるわけですが、王権の象徴とも言える王獣を馴らしてしまったせいで政治が絡んできてえらいことになります。
後半はその辺が描かれるんですが、やはりメインはエリンの王獣への尽きせぬ興味です。「すべての生き物に共通する感情は、愛情ではなく恐怖だ」と師に言われ、実際幾度も痛い目に遭いながらも、エリンはただ信じて、信じて・・・。
犬や猫、或いは使役獣などは、その性質から相当人に馴れるし、ある程度意思の疎通も可能です。しかし王獣は、かなりの知能を有しており、意思の疎通も可能であるにも関わらず、人間とは決定的に違う思考をします。
異種との意思の疎通。おなじみのテーマではありますが、非常に深いものです。
最後の最後、泣けます。本当に。
是非いろんな人に読んでもらいたい作品です。