満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『俺たちの宝島』

2006-03-25 16:17:54 | 

小説の感想です。

『俺たちの宝島』(渡辺球著、講談社)

東京湾沖のとある島。「本土」から不法に運ばれてきてはゴミが置き去りにされる島がある。その島には、いつしか諸事情で本土にいられなくなった者が勝手に住み着くようになり、そういった者同士から生まれた子ども達は、島での生活しか知らない。がらくたの山から状態のよさそうな物を掘り起こし、時折船でやってくる仲買人にそれを渡す代わりに、島では手に入らない生活必需品を得る。島の住人は誰も彼もがそんな風にして暮らしていた。
島生まれの鉄夫には親がなく、廃車のデボネア・ワゴンの中で気ままに暮らしている。鉄夫は自分で掘り出したお宝の代価をすべて自分のものにできるが、友達のネズミやチャボ、六郎・七郎の兄弟やちょっと気になる存在の女の子、キオミにはそれぞれ親がいるため、親に上がりを巻き上げられてしまいそうもいかない。
本土から島にやってきた犬井という男は、島の孤児たちを使って組織を作り、奴隷のように働かせて上がりを搾取していた。彼らを気の毒に思っていた鉄夫のもとに、犬井の組織から少年がひとり抜けてきて、組織のひどい実情を語る。鉄夫たちはそんな犬井に一泡吹かせてやろうと相談し・・・?

というようなお話。

いやあ、面白かった。
ゴミの山でとはいえ、何者にもとらわれず自由気ままに暮らす鉄夫たちの暮らしぶりがよかったです。島の大人たちは子どものお手本にならないばかりかギャンブル狂いなのですが、鉄夫たちは自分たちなりの倫理観でかなりうまくやっているのもいい。彼らが贔屓にしている仲買人が昔それなりに階級闘争に参加した人らしく、鉄夫たちにアドバイスをしてやっていたのもあると思いますが。しかし名前が猿ゲバ(=猿田ゲバラの略)というのには笑いました。猿ゲバってアンタ。
全体で3章立てになっていて、1章では島での鉄夫たち、2章では本土に脱出して、本土の似たような場所(ケブリ山)で暮らす鉄夫たちと、袂を分かった「イヌ」の一派、3章では「イヌ」のリーダー格、ノラがもっといい暮らしをしようと、ケブリ山から出る話なのですが、どれもよかったです。特に3章は主役が鉄夫ではなくノラという少年になるのですが、最初どうにも好きになれなかったその子を最後にはもう大好きになっている自分がいました(笑)。かなりの野心家で、悪い人間ではないのかもしれませんが場合によっちゃ悪くなる、と思っていたのですが・・・渡辺さん、上手いね!ラスト、スカッとしました。

最初のほうを読んでいるうちはこれを「宝島」というにはあまりにもみすぼらしい、と思っていたのですが、宝なんて人によってそれぞれ違うもの。島での暮らしこそが、彼らにとって本当に宝だったのだと思います。読み終わる頃には、タイトルに納得。むしろこれしかないと思いました。わたしは非常に面白く読みましたので、皆様もよろしければ是非。

ちなみに作者の渡辺球さんは、前述の『ラス・マンチャス通信』の平山瑞穂さんと同じく日本ファンタジーノベル大賞受賞出身作家(03年度優秀賞)です。

人にはそれぞれ好みがあるかとは思いますが、わたしは渡辺球さんのほうが断然好きです。まあ、日本ファンタジーノベル大賞は本当にいろんな意味で面白い作家さんを輩出していると思うので、平山さんもアリだとは思いますが。
それにしてもこの賞の主催は新潮社なんですが、殆どの受賞作家が受賞後新潮社で書かないのは何故なのかしら。いいのかしらそれで。余計なお世話ですか。そうですか。でも多分皆同じことを思っているんじゃないでしょうか(笑)。

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『ラス・マンチャス通信』

2006-03-25 15:45:44 | 

小説の感想です。

『ラス・マンチャス通信』(平山瑞穂著、新潮社)

2004年度の日本ファンタジーノベル大賞受賞作です。

「僕」の家には両親と姉のほかにアレがいる。アレはひどい匂いのする陸魚を家の中に持ち込んで死ぬまでつついて遊んだり、汚い体で縦横無尽に部屋の中を這い回ったりするのに、両親はアレを放っておけと言う。僕は嫌々ながらずっとアレを無視してきたけれど、ある時アレが姉を襲おうとしたのを見て、我慢が限界に達してアレを殺してしまう。このことが原因で「僕」は施設に入れられる。出てきてからは父の紹介で仕事につくものの、あまりうまくいかずに辞めることとなる。そしてある時、父母が日頃世話になり、嫌いつつも恐れているらしい「小嶋さん」の紹介で別の仕事に就くことになり・・・?

というようなお話。

何とも奇妙な味わいの話でした。舞台は日本なんでしょうが、パラレルというか、少しずつ奇妙な世界です。
ラテンっぽいタイトルから、わたしは最初「アレ」というのが固有名詞だと思っていたのですが、「IT」の意味のあれ、なんですね。
全体は全5章の構成になっており、1章がアレの話、2章が施設での話、3章が次に就職した街での話、4章がその街から出たあとの話、5章が「小嶋さん」の家での話、となっていました。
全体的に薄暗く何となく気味の悪い世界観でした。主人公の置かれた初期状況からしてどうにも冴えない。主人公はそれなりに今より悪くならないようにあがくのですが、どんどん悪くなる一方、というのが救いがなくて鬱になります。そして最後の章とラスト。書評を探したところそこがまたいい、という人もいるにはいたようですが、わたしは何だか暗澹とした気分になりました。

04年度にファンタジーノベル大賞を受賞したせいもあり、06年度版の『SFが読みたい!』では自分の05年度ベスト5に挙げている方もたくさんいたのですが、そのわりに作品内容に触れていなかった人が多かったのが気になりましたが・・・何だか読んで納得(笑)。なんか何とも言いがたい。
何となく気味の悪い動物やら何やら出てくることもあり、かなりはっきり好みが分かれる作品だと思います。あまり元気のない時には読まないほうがいいかも。
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