小説の感想です。
『ラス・マンチャス通信』(平山瑞穂著、新潮社)
2004年度の日本ファンタジーノベル大賞受賞作です。
「僕」の家には両親と姉のほかにアレがいる。アレはひどい匂いのする陸魚を家の中に持ち込んで死ぬまでつついて遊んだり、汚い体で縦横無尽に部屋の中を這い回ったりするのに、両親はアレを放っておけと言う。僕は嫌々ながらずっとアレを無視してきたけれど、ある時アレが姉を襲おうとしたのを見て、我慢が限界に達してアレを殺してしまう。このことが原因で「僕」は施設に入れられる。出てきてからは父の紹介で仕事につくものの、あまりうまくいかずに辞めることとなる。そしてある時、父母が日頃世話になり、嫌いつつも恐れているらしい「小嶋さん」の紹介で別の仕事に就くことになり・・・?
というようなお話。
何とも奇妙な味わいの話でした。舞台は日本なんでしょうが、パラレルというか、少しずつ奇妙な世界です。
ラテンっぽいタイトルから、わたしは最初「アレ」というのが固有名詞だと思っていたのですが、「IT」の意味のあれ、なんですね。
全体は全5章の構成になっており、1章がアレの話、2章が施設での話、3章が次に就職した街での話、4章がその街から出たあとの話、5章が「小嶋さん」の家での話、となっていました。
全体的に薄暗く何となく気味の悪い世界観でした。主人公の置かれた初期状況からしてどうにも冴えない。主人公はそれなりに今より悪くならないようにあがくのですが、どんどん悪くなる一方、というのが救いがなくて鬱になります。そして最後の章とラスト。書評を探したところそこがまたいい、という人もいるにはいたようですが、わたしは何だか暗澹とした気分になりました。
04年度にファンタジーノベル大賞を受賞したせいもあり、06年度版の『SFが読みたい!』では自分の05年度ベスト5に挙げている方もたくさんいたのですが、そのわりに作品内容に触れていなかった人が多かったのが気になりましたが・・・何だか読んで納得(笑)。なんか何とも言いがたい。
何となく気味の悪い動物やら何やら出てくることもあり、かなりはっきり好みが分かれる作品だと思います。あまり元気のない時には読まないほうがいいかも。
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