久しぶりに小説の感想です。
『竜とわれらの時代』(川端裕人著、徳間書店)
片田舎の祖母の家に預けられた高校生の兄弟、大地と海也は、近所の山で大型獣脚類の恐竜の化石と思われるものの一部を偶然発見する。その場に居合わせた大地のクラスメイト美子に、「将来専門家になって掘り出せるようになるまで誰にも言わないでおけばいい」と言われ、そのことは三人だけの秘密になる。
長じて大地はアメリカに渡って古生物学の院生となり、博士論文のために故郷の山を訪れ、発掘を試みる。祖母の家で農業を継いだ海也、その妻となり地元の役場に勤める美子、更に大地の指導教授にして古生物学の権威のマクレモア教授、発掘資金を提供するという謎の財団、地元自治体の権威争い、原発から消えた燃料棒を追う新聞記者の大地と海也の父親などが絡みつつも、とりあえず発掘がなされたものの、ある日それらが盗まれ・・・?
というようなお話。
恐竜に興味がある人にはかなり楽しめる作品かと思いますが、そうでない人はちょっと辛いかな・・・?
とにかくテーマが広い。最初は大地と海也が美子を巡ってドロドロ争うのかと思いきや、あっさり海也の嫁になってるし(笑)、この美子の勤める役場と近隣のふたつの地方自治体の町おこし的な利権を巡る争いとか、アメリカでは指導教授がテロの対象になったりとか、キリスト教の原理主義者とそれを認めないイスラム教徒の争いとか、もうどんどんどんどん話が広がっていきます。
正直エヴァンジェリスト(キリスト教原理主義者)の団体による学説の捻じ曲げなんかはちょっと非キリスト教徒にはどう考えても受け入れがたいよとは思いましたが、おおむね楽しめました。
一番好きになってしまったキャラクター、大地と海也の父親で新聞記者の忠明が、話が進むにつれて大活躍したのが嬉しかったです(笑)。彼は原発絡みのネタを追う新聞記者で、一度は色んなことに嫌気がさして、離婚して子どもの養育すら自分の母に任せっきりの燃え尽き症候群っぽい中年オヤジなんですが(笑)、そこから再び復活する姿がもう。ツボでした(笑)。
なのにラスト、あんなことに!キィ~(笑)。こればっかりは読んでみて下さいとしか言いようがありませんが。
登場人物が皆非常に人間臭く、悪役もどうにも憎みきれない感じでよかったです。特に大地と海也のおばあちゃん、文ばあというキャラがよかった!途中から地元で祀られている竜神様の堂守として山に住むようになるのですが、ラストではとある式典に参加するために山を降りて来て、娘の頃に踊ったという「かんこ踊り」という踊りを披露します。非常に爽快感のあるラストだなあ、好きだなあと思い、あれこれなんかに似てないか?と思ったら、インド映画的エンディングだと気づきました(笑)。皆で踊って終わり。最高だね!(笑)