60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

嘱託社員

2013年07月19日 09時52分55秒 | Weblog
 昔の仲間が会社に訪ねて来てくれた。彼(62歳)とは20数年前同じ会社で働いていたが、ある事件が切っ掛けで一緒にその会社を辞めることになった。その後彼は大手のレストランチェーンの仕入れ部門で働き始め、60歳の定年後、子会社に転籍し嘱託社員として働くことになる。しかしその子会社は営業不振から、ファンドに売られてしまう。そして外部から来た経営者がまず行ったのは大胆なリストラ、嘱託社員である彼は真っ先に首を切られてしまった。そんな状況を知って転籍させた親会社は若干の責任を感じたのだろう、再度嘱託として親会社で雇用することになった。しかし働き始めて4ヶ月、彼は辞表を出してしまい7月末で辞めるという。何が彼をそうさせてしまったのか?詳しく話を聞いてみた。

 定年後、不振の子会社に移って仕入れ部門から建て直しに関われることを彼は喜んでいた。残りのサラリーマン人生、自分の経験を若い人達に伝えていけることに、使命感のようなものすら感じていたようである。しかし親会社の都合で会社は売られ、その仕事もあっさりと奪われてしまったのである。環境の中で翻ろうされるサラリーマンの悲哀、嘱託社員という立場の弱さ、そんなことをつくづくと感じたそうである。そしてやむなく再就職先を探し始めた矢先、親会社から声がかり彼は再び希望を取り戻した。しかし出社してみると組織の中に彼の居場所はどこにも無かった。会社の仕事は組織の流れで動いている。その出来上がった流れの中に唐突に入っていくのは非常に難しい。特に必要されていない部署に入り込むことは周りからすれば迷惑なことである。既存の社員からすれば、すでに1年前に送別会を済ませて送り出した人である。しかも正社員ではなく嘱託社員、そんな年配者をどう扱ったらよいのか、周囲も戸惑ったことであろう。

 そんなことから上司は彼に特命事項を命じた。それは青果市場に会社として買参権を取得し、直接商品を仕入れていくというものである。会社が持つ既存の仕入れルートは崩さず、市場からこだわりのある商品や珍しい商品を調達し、それを使った新しいメニュー提案をしていくという構想である。彼は頑張って大田市場(大田区)に買参権を取得し、この6月から市場からのルートが確立した。さて、ここからが問題なのである。特命事項の担当は彼一人である。したがって市場に出向くのは彼だけ、市場からの情報を得るためには市場に顔を覚えていて貰わなければいけない。彼は市場の開くときは毎日毎朝、4:55分の始発電車に乗り市場に出向いた(それでも市場に着くのは7時)。そんな苦労から得た情報で珍しい野菜を提案しても、それが取りあげられることはなかったのである。メニューがあって食材の仕入れが発生する仕事の流れの中で、面白い食材があるからメニュー開発するという流れは逆である。1000店以上あるレストランチェーンの仕組みを嘱託社員たった一人の提案でメニューの変更などほとんど不可能に近い。組織のバックアップなしにこの仕事を続けることは、体力的にも精神的にも見合わない。彼は挫折とむなしさを感じて辞表を出したのである。

 65歳までの定年延長が言われ始め、我々より若い世代の人達の定年後の再雇用の実態を耳にすることが多くなった。そんな話の中でも65歳まで勤め上げる例は少なく、大半が1年か2年で辞めてしまう。その主な理由が身分的にも仕事的にも中途半端で、精神的に耐えられないというものが多いようである。今まで部下として接してきた仲間に、一転して敬語を使わなければいけない。今まで組織の中心的な存在だった自分が閑職の仕事に回ってしまう。「自分は仕事ができるのだ!」という自負(プライド)が無残に崩壊していく様を日々感じることになる。社内でどんなスタンス(顔)で周りと接していくかのか、ぎこちない態度に周りとの溝が深まっていく。結局、自分の中の切り替えが上手くできないままストレスを抱え、やがてやめてしまう。これが実態のようである。

 嘱託社員を辞書で引くと、《正社員とは異なる契約によって勤務する準社員の一種。一般的に定年後も引き続いて会社に所属する人のことを指す場合が多いが、契約社員同様、法的に明確な定義はなく、その用法は会社ごとに異なる》とある。年金の支給年齢がさらに引き上げられ67~68歳で検討されていると聞く昨今、今のような60歳以上からの雇用形態では会社も従業員もギクシャクするだけで、お互いが不効率である。給料は別としても今までのキャリアは認め、しっかりと組織の中に組み込んで働いてもらう。そんなモチベーションを維持していく雇用関係の仕組みが、今後は必須になってくるように思ってしまう。







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