60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

うつの前兆(3)

2013年12月13日 09時22分24秒 | Weblog
 このブログで以前書いた「抑うつ症状」の診断書を提出し、会社を休んでいた若者が今週から会社へ出社してきた。休み始めてから約1ヶ月半ぶりである。当初2週間が経過した頃、彼を呼び出して新宿で昼食をしてから、気晴らしにと旧古河庭園や六義園などの散歩に連れ出したことがある。その時は「外に出ることが億劫で、無理にでも外にでたり、友達に会うようにしている。誘ってもらって助かります」と言っていた。しかしそれからさらに1ヶ月経過し、今回出社してきた彼はすっかり様子が変わっていた。顔は青白く生気がなく、頬がこけて病み上がりのようである。しかも喋り方はたどたどしく、少しドモリが入ってくる。いったい彼はどうなったのか?会社の帰りに彼の状況を詳しく聞いてみた。

 休み始めてから3週間ぐらいは何をするにも億劫で不活発な感じだった。しかしそれでも規則正しい生活は守るようにしていた。しかし日を追うごとにその不活性さは進行して行き、外に出ることができなくなってしまう。部屋にいても何にもする気が起こらないし、TVを見ても感情が死んだように何も感じず、見ることすら嫌になってしまう。部屋も全く片付かなくなる。意を決して洗濯をしても、普段であればシャツなどはシワを延ばし、靴下は左右そろえて干すのだが、気がついてみると無秩序にただぶら下げているだけの状態になっていた。それに気づいた時、自分が無意識の時間帯が長く有ったことを知り愕然としてしまう。やがて食事をすることも面倒になる。胃は空っぽなはずだが空腹感は全く感じない。これではまずいと思い近くのコンビニに行って弁当を買って無理矢理に食べる。そんなことで1日1食程度になり、体重はまたたくまに5kgもダウンしてしまった。

 やがてベットから出ることが出来なくなり、ただただ布団を被って耐えているだけになる。このときの苦しさは自分の人生で経験したことにない質の苦しさである。多分これは体験者でないと理解してもらえないだろう、と彼は言う。不安感、恐怖感、圧迫感、あらゆるものが織り混ざって身動きすらできない。そしてその何もできない自分の不甲斐なさを自分自身が責めてしまう。布団を被って寝る日が5日間ほど続いた頃、「これでは自分がだめになってしまう」、「何とかしなければ、何とかしなければ、・・・」ともがく。しかし何もできない。そのもどかしさや不甲斐なさが高じて発狂しそうになる。むちゃくちゃに暴れだしてしまいそうになる。ベットの柵の金具に自分の頭を思い切りぶつけてみる。窓を開けて下に飛び込めば楽になれるかもしれない、そんな考えがフーッと自分の中をよぎったような気がする。「これはまずい」、「これでは自分が終わってしまう」、そう思い仙台の実家に助けを求めた。当然親は直ぐ帰って来いと言う。

 着の身着のままで、アパートからバスで高田の馬場へ、そこから山手線で上野駅へ、途中一歩でも足を止めてしまうと、その場にうずくまって動けなくなってしまいそうな感覚が襲ってくる。まわりに気を散らさず、ただ前だけを見つめて必死に歩く。そしてようやく実家にたどり着いた。実家に帰った時、母親が彼の異変に驚きの声を上げる。「あなた、どうしたの!」、「そんなに痩せてしまって」、「そんな汚い身なりをして、こんなになるまでほったらかしの会社ってどんな会社なの!」、「直ぐに会社を辞めて帰ってらっしゃい!」、・・・・・

 実家で寝起きし始めて、とりあえず落ち着きを取り戻した。何日か休んだあと、父親の伝手で、ある産業医(精神科医)を紹介してもらいカウンセリングを受けることになった。先生は彼の症状から、「対人障害(対人恐怖症)・コミュニュケーション障害」だと診断する。「今の症状は《人》が起因して起こってしまった。しかしこの症状を癒してくれるのも《人》である。だから苦手な相手とはなるべく話さず、自分が話しやすいと思う相手と積極的に話すようにしなさい。仕事も徐々に元に戻れるように、単純な作業からはじめたたほうが良いでしょう」、そんなアドバイスを受けたようだ。

 会社に出てきて社長と話し、当面は休みや休みに出社し、仕事も対外的なものはなるべくせず、単純作業を優先にしてもらうようになった。以前であればなんでもない作業、しかし精神的に疲れてヘトヘトになりながらもその日1日を乗り越えた。仕事中ふと気づくと、伝票を持ってすくんでいる自分に気がつく、「自分はこの伝票をなぜ持っているのか?」、「この伝票をどうしようとしていたのか?」、考えても思い出すことができない。やがて何十秒かを経過して、伝票を束ねるだけだったことを思い出す。そんな感じに自分の意識が飛んでしまうようなことが何度かあったそうである。この不甲斐ない自分をまた自分が責めてしまいそうになる。しかしカウンセリングの先生に、「自分を責めることは絶対やめなさい」、と言われた事を思い出す。「そうだ、今は仕方がないんだ」と思うようにする。
 ※この文章は彼の言葉をつなぎ合わせて書いたもので、必ずしも彼の内面を正確に表記するものではありません。

 さて、これから彼はどうなって、否どうして行くのだろう。私が思うに、今のギスギスとした環境(人)が彼の一番弱い部分に作用して「抑うつ症状」をおこしてしまったわけである。だからといってこの対人障害という弱点を今の環境の中で癒し克服していくのは無理なように思ってしまう。やはり彼に合う環境を探し、回復を待つ方が懸命だろう。だから1日も早く今の職場を離れ、彼にあった職場を見つけ、再び活動して欲しいと願うのである。



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