とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

コンビとは(6)テレビか映画か 下

2011年05月13日 22時47分16秒 | マーティン&ルイス
ジェリー・ルイスは、すばらしいコメディアンであり、それ以上にすばらしい映画監督ですが、もうひとつ、慈善活動家という顔もあります。

テレソンというものをご存じでしょうか。スタジオに電話とオペレーターをずらっとならべて、視聴者から電話で寄付を募るテレビの生放送のことです。最近はあまり見ないけど、日本でも昔はちょくちょくやってた記憶があります。

このテレソンを最初に考案したのが、ジェリー・ルイスでした。

彼は筋ジストロフィーの患者を支援するチャリティを1950年代、つまりキャリアのごく初期から始めました。1964年からは、毎年9月のレイバー・デイ(勤労感謝の日みたいなもの?)の休日に、「MDAテレソン」と呼ばれるチャリティ番組をやっています。

21時間あまりの生放送で、ジェリーがホストをつとめ、たくさんのスターがノーギャラで出演して芸を披露する。この番組で、毎年莫大な額の募金をあつめてきました。

近年はさすがにでずっぱりではないようだけど、2010年のテレソンでも、84才のジェリーは10時間あまりにわたってしっかり生出演したそうです。

長年の貢献によって、ジェリーは過去に2度ノーベル平和賞候補にもなっています。
彼のこの活動に影響を受けて、欽ちゃんは24時間テレビを始めたといいます。

ジェリーのMDAテレソンは、まず第一にタレントによる慈善活動の文脈で語るべきものですが、今回は「テレビの力」という視点から考えてみたいのです。

『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)のなかで、著者の峯尾耕平氏が、

「とんねるずほど、テレビに偏り、テレビを題材にした芸を披露した芸人はいない」

と書いています。

まさにその通りで、とんねるずがテレビというメディアとどう戯れてきたのか、というテーマは、いずれきちんと検証されるべき重要なテーマだと思っています。

そして、とんねるずと同じことが、マーティン&ルイスについても言えるんじゃないか、という仮説を、わたしは長らくあたためているわけです。

マーティン&ルイスの場合は、アメリカのテレビ草創期である1950年代初頭に活躍しました。だから、もしかしたら日本についても、テレビ草創期に活躍した芸人さんと比較するほうが本当は妥当なのかもしれない。

「おとなの漫画」や「ゲバゲバ90分」や「てなもんや三度笠」で、すでにテレビを題材にしたコントは放送されていたでしょう。このあたりは、今後の大きな課題ではあります。

ただ、単純な比較として、テレビの第四の壁を平気でやぶったことや、テレビという媒体のありかたそのものをネタにしたという意味で、マーティン&ルイスととんねるずは非常に似ているんです。

マーティン&ルイスがテレビでやっていたコントは、おそらくほとんどジェリー・ルイスが主導権をにぎって作られていたと思われる。このコンビでは、ボケ担当のジェリーがタカさんのようなプロデューサー的役割を果たしていたからです。

したがって、テレビをメタ的にネタにするそのセンスはジェリーのものだった、というのはほぼ断言していい事実だと思う。



2003年に映画批評家のクリス・フジワラ氏がおこなったロング・インタビューのなかでも、ジェリーはこんなことを語っています:

「舞台裏をのぞき見したいという欲求がいつもあるんだよ。僕は舞台裏というものを常に意識してる。それに、舞台裏を見せると観客がかならず興奮してよろこぶってこともよくわかってた」
(『Jerry Lewis』Chris Fujiwara 2009 Univ.of Illinoi Press)

こういうセンスというのは、ユダヤ系のコメディアンによく見られるもので、ジェリーもやはりある面ではユダヤ系コメディの伝統を受け継いでいるのでしょう。奇妙なことに、とんねるずの笑いもまた、なぜかこのてのジューイッシュ・コメディに近いセンスを感じることがあります。

それはともかく、ジェリー・ルイスは、アメリカにおいて、テレビを徹底的にネタにしたおそらく最初のコメディアンだったのではないかと思う。

それは、ブレイクした頃の彼がまだ非常に若く、下積みの苦労もそれほどないままに、一夜にして人気者になったという、これまたとんねるずによく似たシンデレラ・ボーイだったことも、あながち無関係ではない気がします。

頭の良いジェリーは、テレビというメディアの作られ方のおもしろさに気づきました。そして、じっくり冷静に観察して、テレビが発揮するパワーの大きさに気づいたのだろうと思う。その結果うまれたのが「テレソン」だった。

わずか数時間のあいだに、全米の何百万、何千万の視聴者が、家から電話1本かけるだけで簡単に寄付ができる。短い時間で莫大な金額を集めるという離れ業は、ラジオでも映画でもなく、テレビにしかできないことです。効率的だし、教育的効果もけたちがいなのです。

MDAテレソンを見て、寄付をして、募金額が刻々と上がっていくのを見つめるという行為が、全米の国民をひとつにする共通体験にもなったでしょう。これこそまさに、テレビの力。

MDAテレソンと、24時間テレビと、とんねるずのハンマープライス/ハンマーオークションを比較してみるのは、おもしろいかもしれません。テレビというメディアが、芸人と慈善活動をどう結びつけたのか。

ハンマープライスは、テレソンほどテレビの力を最大限利用した試みだったとは言えないかもしれないけれど、でもあきらかに、テレビにおける慈善活動にあたらしい地平を開いた番組でした。

ジェリー・ルイスや欽ちゃんのように、さっきまで冗談を言ってた芸人が急に真剣な顔で「ヒューマニズム」を訴えたりしなくても、チャリティをすることは可能なのだ。ハンマープライスは、そのことを証明した、実験的な番組でもありました。


やはりとんねるずは、テレビで生まれ、テレビで育ち、テレビと戯れて輝くタレントです。

萩本欽一は「テレビはダメを言わない」と語りました。
太田光は「テレビはなんでもありだと思う」と言った。

ひたすらテレビを見て育ったわたしも、どんなにつまらなく感じても、うんざりさせられても、地デジ化しても、悔しいことに、テレビなしの生活は、やっぱり考えられません。

テレビは、楽しいものばかり映し出すわけじゃないけれど・・・それでも、テレビが大好きなんです。

これからのとんねるずが、テレビでまた何を見せてくれるのか。
それが、とっても楽しみです。


最後に蛇足なトリビアを。
毎年、MDAテレソンのフィナーレで、ジェリー・ルイスがかならず歌う曲があるんだそうです。
インテルサポーターも東日本大震災の被災者のために歌ってくれた、あの“You'll never walk alone”。

今年のテレソンでも、ジェリーは歌うのかな・・・









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