とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

『ディーン&ミー(ラブ・ストーリー)』(仮)プロローグ前編

2011年12月28日 02時57分51秒 | 『ディーン&ミー』翻訳出版企画


ジェリー・ルイス!の記事でもふれた通り、現在『ディーン&ミー』(原題 ”Dean&Me~A Love Story” )を翻訳中です。

この本は2005年にアメリカで出版され、ベストセラーになりました。“キング・オブ・コメディ” ジェリー・ルイスが、かつての相方ディーン・マーティンとの出会い、成功、確執、解散にまつわる真実を、率直に、かつ感動的に語った回顧録です。

ディーン・マーティン&ジェリー・ルイスは、1946年から56年までの10年間、アメリカのショウビジネス界のトップスターに君臨したコンビ芸人です。ショウビジネスの歴史上もっとも成功したコンビとも言われ、ラジオ、映画、テレビバラエティで大活躍。ルックスの良さとアナーキーな芸風、そして熱い絆でむすばれたコンビ愛が、戦後アメリカの大衆の心をとらえました。

日本では「底抜けコンビ」の名で知られ、ほぼすべての主演映画が公開されて、加藤茶、志村けん、萩本欽一をはじめとするたくさんのコメディアンたちに多大な影響を与えました。


訳者はこの本の邦訳出版をめざしています。ご興味を持たれた出版社様・編集者様は、メールアドレス eyanfire@gmail.com までご連絡ください。よろしくお願いいたします。

なお、当ブログ掲載の翻訳の一切の著作権はいいをじゅんこ(飯尾純子)に帰すものとし、無許可転用・転載を固く禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。
(訳者 いいをじゅんこ)


Dean and Me: (A Love Story)
クリエーター情報なし
Three Rivers Press


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『ディーン&ミー(ラブ・ストーリー)』(仮)


プロローグ  別れ



 僕らふたりのあいだをへだてる深い溝に、気づいていた人はほとんどいなかった。僕らはそのころ、まだアメリカの造幣局なみに莫大なカネを生み出していたからだ。でも、もうごまかすことはできなかった。ゲーム・オーバーの時がちかづいていた。いちばん格好よく、いちばん現実的なやりかたで、ディーンと僕はトップの座から降りることを決めた。
 1956年7月24日---アトランティック・シティのスキニー・ダマートの店「500クラブ」で、はじめてふたりでネタをやった日から、きっかり10年後の夜---マンハッタン東16丁目のナイトクラブ「コパカバーナ」で、僕らはコンビとして最後の活動となるラスト3回のショウをやることになっていた。
 その夜のショウはたちまちビッグ・イベントとなり、世間の注目を一気にあつめた。結局のところ、10年間にわたって、マーティン&ルイスは全米を、そして世界を笑わせてきたのだ。愛され、偶像視され、追いかけられた。だが僕らはいま、長いパーティを終わらせようとしていた。
 歴史に残るこの宵にかけつけようと、招待客のリストに名をつらねるセレブリティの数はどんどん増えていった。一回目のショウの開演まで30分をきった。ディーンと僕は、おたがい、何も言うべきことはなかった。荒れる夜になるだろう。だが、プロらしからぬヘマだけはできないと、ふたりともわかっていた。僕らは、できるかぎりその夜を楽しむことにした---そして、他の誰にもできない、僕らにしかやれない最高のショウをみせよう、と、心に決めた。

 午後7時35分。氷が欲しい、それだけの口実で、廊下をはさんだ向かいにある相棒の控え室のスイートルームへ、僕はのそのそと歩いていった。ディーンのところには、いつだって氷があった。部屋に入り、バーのところへ行って、氷をいくつか自分のグラスに落としこんだ。ディーンが、意味ありげな視線をちらっと僕になげてよこした。彼も僕とおなじ感情にかられていたのだ。僕らはそれをいちいちことばに出す必要すらなかった。僕は力をふりしぼってドアのところまで歩いてゆき、暗い声でどうにかこう言った。
「がんばろうぜ、ポール」(ポールというのはディーンのミドルネームだ。僕はいつもこう呼んでいた)
 彼は答えた。
「そうだな、坊主」
 廊下に出た時、心臓がはりさけそうだった。理由もわからぬまま、僕は親友を失おうとしていた。だが、もし理由がわかっていたとしても、結局おなじことだったんじゃないだろうか?いまになって思えば、どうしても別れるしかなかったのだとすれば、その時が早くきてむしろ良かったのだろう。たとえ夫婦でも、別れるのに何年もかかることだってある。別れずにいたとしても、長く苦しみつづけることになってしまうのだ。
 ディーンと僕にはわかっていた。自分の人生を自分ひとりで切りひらいていかねばなならない、ということが。コンビとしての僕らは、もううまくいかなくなっていた。センチメンタルに聞こえるだろうが、僕らをずっと祝福してくれていた神様でさえ「もうこれ以上は無理だ!」と言ったのだ。

 その頃、僕らのあいだで何が起きていたか、おおよそ理解はできていたつもりだ。ふたりとも、こわくてたまらなかった。そして、こわがっていることを、誰にも知られたくなかった。どこへむかっているのか、これから何をしたらいいのか、なにもわからず、ビクビクしていたのだ。華やかなライフ・スタイルに、僕らは慣れきってしまっていた。サインを欲しがる追っかけファンたちは、コンビを解散してもまだ追いかけてくれるだろうか?相方なしで、ひとりきりで、いったい何ができる?いままでふたりで築いてきたものとまるでちがう何かになっても、世間はまだ僕らを受け入れてくれるだろうか?
 ディーンには、彼にしかない特別な才能があった。どんなひどいトラブルが起きても、たいしたことじゃないと思わせる才能だ。むきになってトラブルを否定するとか、そういうんじゃない。彼はけっしてあわてないのだ。どんなに想定外の事態が起きても、あたかもずっと前からそうなるはずだったと言わんばかりに冷静だった。
 かたや僕ときたら、感情がもろに顔に出てしまう・・・喜びも、しあわせも、かなしみも、みんな。親父は僕のことを「ミスター・ネオン」とあだ名したが、まさにそのとおり。僕はいつだって自分の感情をさらけださずにはいられなかった。そうしないと、自分が嘘つきのような気がした。真実だけが僕の武器だった。ラクな生き方ではないが、その生き方しか僕は知らなかった。ディーンはといえば、誰かを傷つけないようにするためなら、嘘をつくこともいとわなかった。僕には、それがどうしてもできなかった。

 そんなことは、どうだっていい。相棒と僕には、コパカバーナでのあと3回のショウが残されるのみだった。開演の時間だ。
 いつも僕がディーンより先にひとりでステージに登場することになっていた。ちょっとしたネタをやって、ディーンを紹介する役目だ。僕がステージで前説をしているあいだ、ディーンは桟敷席でくつろいで、ゲストにあいさつしたり愛嬌をふりまいたりする。だがその夜、「おまちかね、僕の相棒、ディーン・マーティンの登場です!」と言う段になって、言葉がのどにひっかかってうまく出てこなかった。観客にはわかっていた、僕がそのお決まりのセリフを言うのも今夜が最後だということが。キラ星をちりばめたように華やかな観客席には、するどい痛みのこもった熱気が満ちみちていて、死刑執行の瞬間がちょっとでもさきのばしされますように、とねがっているようだった。
 なんともいえない、奇妙な雰囲気だった。コパカバーナのステージを包むそのパワフルな空気の波動が、その夜の僕らにとってはたして有利なのかどうか、僕はきめかねていた。一回目のショウをやり終えてみないと、なんともいえなかった。
 その時、ディーンがいつものようにかるがるとステージにあらわれた。クールで、リラックスした様子で---でも、彼がほんとうは僕とおなじ痛みと不安を感じていることは、彼の目をみればわかった。相棒のことなら、僕はなんだってわかった。


(後編につづく)

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出版関係者様 
ご連絡はメール(eyan_fire@mail.goo.ne.jp)、コメント欄またはサイドバー左上にあるメッセージよりご送信願います。(訳者いいを)







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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おお! (FUJIWARA)
2011-12-28 12:07:54
翻訳、着々と進んでいるようですね!
頑張ってください~
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FUJIWARAさん (ファイアー)
2011-12-28 13:24:21
ありがとうございます!!!
よければまた感想などもお聞かせくださいね~
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初めまして (nori)
2014-02-22 20:52:39
フランク・シナトラから始まりサミー・デイヴィスJr.、ディーン・マーティンときてジェリー・ルイスと言う喜劇王にを知り、こちらのブログに辿り着きました。

マーティン&ルイスについては、動画サイトで出演番組を見た程度ですが、英語が解らなくても面白さが伝わってきて更に興味を抱きました。

自伝を翻訳されるのは大変な事だとは思いますが、現物を持たない上に英語が殆ど理解できない私のような者にとっては非常にありがたく、出版される事を心から望んでおります。頑張って下さい。
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noriさん (ファイアー)
2014-02-23 11:38:14
はじめまして!
励ましのコメント、本当にありがとうございます。
そう言っていただけると、またがんばるぞという思いがわいてきます。
興味を示してくれる編集者もちらほらといたりして、
何とかあきらめずに実現を目指しているところです。

ラットパックはまだまだ見ていないので、おすすめなどありましたら教えてくださいませ。
特にフランク・シナトラはマーティン&ルイスにとっては大事な人物ですね。
コンビ解散したふたりをテレビで再会させたのもシナトラですし、
ふたりともシナトラを崇拝していました。

いつになるかわかりませんが、出版が実現したら真っ先にこのブログでお知らせいたします。
どうぞ今後ともよろしくお願いします!
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