かねてより かぜにさきだつ なみなれや あふことなきに まだきたつらむ
かねてより 風に先立つ 波なれや あふことなきに まだき立つらむ
よみ人知らず
風が吹くより前にそれに先立って立つ波のように、まだ逢ってもいないのに、早くも噂が立っているようだ。
いとしい人との仲が、実際に逢う前からもう噂になってしまったことを、風が吹くより先に立つ波に喩えての詠歌。うっかり見過ごしてしまいそうになりますが、第四句の「なき」が「無き」と「凪(なぎ)」の掛詞にもなっています。「まだき」は「早くも」の意の副詞で、なかなか印象的な語。この語を見るとすぐに思い出されるのが次の名歌ですね。百人一首(第41番)にも採録されています。
こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
壬生忠岑
(拾遺和歌集 巻第十一「恋歌一」 第621番)