エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

「エコポイント2.0」(シリーズ;エネルギー基本計画と新成長戦略の不整合を補完する役割)

2010-12-14 07:19:19 | Weblog
新成長戦略では、グリーンイノベーションにより20年でGDP50兆円、120万人の雇用を創出するとしていますが、地球温暖化に関する新中期目標(20年で「90年比25%減」)やエネルギー基本計画の目標(30年で「90年比30%減」。真水ベース)という経済に対する“キャップ”の下で、いかに目標を実現するのかを明らかにしていません。
このような経済に対する“キャップ”は、それ自体は、経済成長に対してマイナス要因となります。現に、09年11月~12月政府の「地球環境に関するタスクフォース」の場に提出された国立環境研究所、日本経済研究センター、慶応義塾大学いずれのモデル計算結果においても、新産業・製品の登場を考慮しても、20年にはGDPはマイナスになると試算されています。そうすると、限界低減コストが低い海外から排出クレジットを購入してきたほうが、クレジット購入費が海外に流出するとしてもまだましだということになります。
このことは本当なのでしょうか。実は、必ずしもそうではありません。20年で「90年比25%減」、30年で「90年比30%減」(真水ベース)という経済に対する“キャップ”の下でも、追加的な財政出動をすることなく経済成長をプラスにするという「超難題」を解くツールが4つあります。このことは政府もエコノミストも触れていませんが、整理すると、次のようになります。

 第1のツールは、発想の視点を供給サイドから需要サイドに転換してオンディマンドの「エネルギーウェブ」を構築することです。そうすれば、技術の力だけではなく需要サイドから省エネ、CO2排出削減ができるようになります。「プロシューマー」(生産消費者)である数多くの「賢い需要家」の選択が集合して確実にCO2を削減できるようになります。また、長距離送電をしなくてすむようになり、送電ロスの節減、電力供給の平準化等に伴うCO2排出削減も実現できます。家庭やオフィスという最小単位に着目して「エネルギーウェブ」を構築するためには家庭やオフィスにおいて創エネ・省エネのハードや関連するネットワークを整備することが必要となりますが、これは膨大な需要を喚起することになり、第2のツールにおける需要創造につながります。

第2のツールは「スマートレギュレーション」と需要創造の組合せです。この点に関しては、1991年ハーバード大学教授のマイケル・ポーターにより「ポーター仮説」が提唱されています。これは、「適切に設計された環境規制は、費用低減・品質向上につながる技術革新を刺激し、その結果国内企業は国際市場において競争上の優位を獲得し、他方で産業の生産性も向上する可能性がある」との主張であり、それまでの「環境規制は企業にとっての費用増加要因となり、生産性や競争力にネガティブな影響を及ぼす」という通説的見解に真正面から異議を唱えるものとして、一躍脚光を浴びました。日本では、当時世界で最も厳しい規制を設けた1978年の自動車排ガス規制法(通称日本版マスキー法)がアメリカに先立って施行されたことが、80年代に日本の自動車産業の北米進出に有利に働いたという事例が語られます。
しかし、その後「ポーター仮説」に関してさまざまな検証がなされ、すべての規制の強化が、中長期的に市場生産物の生産性向上と利潤の増加をもたらすものではないことが実証されています。厳しい規制をかければ自動的にイノベーションを起こすわけではなく、「ポーター仮説」が実現するための条件整備が必要です。この条件整備で最も必要なのは需要創造であり、拡大する需要の中で“スマートな規制を創る”ことが必要なのです。日本版マスキー法の成功に関しても、排ガス規制が技術開発を促進した側面があったことは確かですが、北米に巨大な消費市場が生まれたこと、アメリカの消費者が低燃費車へニーズを移したことの影響も大きいと考えられます。
われわれが直面していることで言えば、「スマートレギュレーション」とそれを支える需要創造は、家庭・オフィスのネット・エネルギーゼロ化に向けた段階的な規制の強化とアメリカの「PACE」やイギリスの「PAY AS YOU SAVE」の日本版の創設ということになり、「スマート国民総発電所構想」はそれを踏まえたものです。

第3のツールは、第1の組合せを有効に機能させるための炭素の価格付けです。この炭素の価格付けにより、経済全体として効率的に「90年比25%減」、30年で「90年比30%減」(真水ベース)という目標を実現することができます。この家庭・オフィス部門のCO2削減を進めるために導入するのが、国内クレジット制度を活用した「家庭・オフィスCDM」です。この場合、排出権価格を変動させると、相場変動により価格付けのシグナルが有効に機能しない事態が出てきますので、排出権価格は合理的なレベルで固定することが必要です。

第4のツールは、消費サイドからの成長戦略として、エコポイント2.0を活用することです。この点は、別の記事で詳しく述べていますので、ここでは繰り返しません。

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