エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

『ブラックスワン』の不確実性とは?

2009-10-09 00:00:15 | Weblog
 『アニマルスピリット』については、以前その”意味”についてご連絡しましたが、今回は同じく「不確実性」をテーマにした『ブラックスワン』です。
 サブプライム問題に端を発した世界金融危機において、誰もが疑問を持ちました。アメリカの金融工学は最先端で、徹底したリスク管理ができているはずなのに、なぜこれだけの破綻が起きたのか、と。
 『ブラックスワン』はサブプライム問題が顕在化する前の2006年に出版されましたが、それなのに、現代の金融工学や経済学の誤りを鮮やかに指摘しているのが、デリバティブ・トレーダーにして研究者のナシーム・ニコラス・タレブです。
 本書においてタレブは、世の中は標準的な統計学の正規分布曲線で表現されるよりも、予期せぬ出来事に遭遇する可能性が高いことを様々な分野の幅広い話題を縦横無尽に駆使して説明しています。
 また、現在の経済学やファンナンス理論を数学モデルの精緻化と標準的な統計学をベースとして「首尾一貫した理論を構築するのに都合の良い諸前提 (それが現実から乖離していようが関係ない)を設定し、出来上がった理論に則って現実を解釈しようとする科学」として批判しています。タレブが繰り返し激しく攻撃するのは、自閉する学問や学会での権威付けの競争にのみ用いられる複雑な数理モデルを駆使する経済学です。
 本書はただの経済書ではありません。むしろ、複雑化する社会における人間の認知と思考の限界を示す重要な哲学書とも言うべきものです。
 表題である「ブラック・スワン」とは、オセアニアで発見された黒い白鳥のことで、それまで黒い白鳥は存在しないとされていた学説が、その発見によって覆されました。ブラック・スワンが象徴するのは、理論というものを「検証」することは非常に難しく、「反証」することは非常にたやすい、ということです。
 そして、この点が非常に重要なのですが、我々は常にブラック・スワンを発見してからしか、ブラック・スワンを含む理論を作れないということです。そうすると、サブプライム問題に代表されるような、ファイナンス理論が想定していない事態は、そもそも理論で管理することが不可能だということになります。
 リスクとは計測できるリスクに過ぎず、私たちが現実に直面する現実は、計測自体が不可能な不確実性(「ナイトの不確実性」)の方が圧倒的に多いのです。
 ブラック・スワンとは極めて稀な出来事の象徴です。たった一羽の黒い白鳥が舞い降りただけで、それまですべてのことが崩壊してしまう。しかも、世間は判りやすい講釈のついたブラック・スワンには過剰反応する一方で、講釈になじまないブラック・スワンの存在可能性は無視されている。それが重大な結果をもたらすにも関わらずに・・・・・。
 リスクをコントロールする戦略が不可能ならば、不確実性を積極的に活用するしかない、とタレブは説きます。専門であるトレーディングの例としては、ポートフォリオの大部分はアメリカ短期国債のような超安全な資産に投資しつつ、残りの10~15%をあらん限りのレバレッジを効かせたハイリスクな資産に投資するという「バーベル」戦略を説明します。
 こうすることで、悪いブラック・スワンによる破綻のリスクを避けながら、良いブラック・スワン=大穴を引いたときには大きく資産を増やすことができる、という考え方です。
 タレブの議論は、現代社会における不確実性の増大を説明するための複雑ネットワーク理論、ギリシャ哲学における経験主義、行動経済学からフラクタル数学、カール・ポパーの政治理論にまで広範に及びます。
 余りの知的刺激に圧倒される本です。ご一読をお勧めします。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿