エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

ナガサキ、ヒロシマ、そしてフクシマに思う:「節電文明のつくり方」

2011-08-11 06:40:41 | Weblog
ナガサキ、ヒロシマ、そしてフクシマ。これらは我々に対して文明のつくり方そのものを問いかけているように思われます。6月に放映されたNHKのETV特集「暗黒のかなたの光明~文明学者 梅棹忠夫がみた未来~」<梅棹忠夫の未完の著『人類の未来』をテーマにしたもの>を再び見返して、次のような詩を書いてみました。拙著『節電社会のつくり方―スマートパワーが日本を救う』のモチーフを発展させたものです。拙いもので恐縮ですが、お読みいただければ幸いです。

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「節電文明のつくり方」―節電による「闇」のかなたの「光明」へ    加 藤 敏 春 

梅棹忠夫の未完の著『人類の未来』の最後の言葉は、「暗黒のかなたの光明」。
逆説的だが、節電による「闇」のかなたに「光明」があるかもしれない、と思った。

ナガサキとヒロシマでは「過ちは再び繰り返しません」と誓った。
しかし、今私たちが遭遇しているのは「人災」とも言えるフクシマ。子供たちが日々放射能の恐怖にさらされている。
チェルノブイリでも、子供たちの甲状腺がんが急増したのは事故から4年後。その子供たちが今、結婚適齢期を迎えている。
今必要なのは、うすっぺらな「脱原発」ではなく、考えに考え抜いた「縮原発」ではないか。

文明とは、科学技術により産み出される制度と装置。
一旦できれば、文明はそのほころびを自ら繕うことはできない。
原子力発電も同様だ。
梅棹は、それを「文明との競走」と表現。
「理性」によりひた走る文明は、地球の限界を超え、ときに地球や人類を破壊しようとさえする。

文明とは、「知的生命体」である人間の業としての科学技術が産み出す人類の活動の総体。
文明なき人類は存在しない。しかし、その「文明に未来はあるのか?」。
梅棹は、「理性」に代わる「英知」が必要としている。
40年以上にわたる思索の最後で梅棹が問いかけたと同じ命題に、我々は直面している。
私は、チェルノブイリを訪れた3年前に痛烈にそのことを認識した。

「英知」とは何か。ヒントになるのは「プロシューマー」。
生産活動は最も創造的な活動だ。
情報のみならずエネルギーについて、消費するのみならず生産もする「プロシューマー」。
「情報革命」に次いで必要なのは、「エネルギー革命」。真の「プロシューマー」は情報だけでは出現しない。
「英知」とは、情報とエネルギーの生産活動の過程で「プロシューマー」が陶冶するもの。

国民一人一人が発電所になる「スマート国民総発電所」は、「プロシューマー」が創り上げる社会。
バーチャルな「スマート国民総発電所」は、何十ギガワット=原子力発電所何十基分にも相当するエネルギーを草の根で産む。
電気だけではなく熱。再生可能エネルギーも必要だが、まずコジェネで6割捨てているエネルギーを利用することが必要。
しかも、対象となるのは、ポジワット(創エネ)のみならずネガワット(省エネ)。
「スマート国民総発電所」では、エネルギーが個人やコミュニティの間で相互融通される。それは、「ユーチューブ」の先にある「ユーエネルギー」の世界。

ずっと私は、「情報革命」、「エネルギー革命」に続く「思想革命」の到来について考えてきた。
その「思想革命」は、ルター、カルヴァンなどによる宗教改革に匹敵するマグニチュードのもの。
「プロシューマー」は、「思想革命」の担い手ではないか。この1月、それを「美へのイノベーション」と呼んだ。
マイケル・サンデルの「正義」=「善」の世界を超えたものが「美」の世界。
日本人の美的感覚、善悪意識とも相通ずる。
「プロシューマー」が「美」の世界を創る。日本人の感性が活かされる。

梅棹は、『アマチュア思想家宣言』という小文を発表し、「思想」をもっと気軽に使おうと呼びかけている。
「思想」という言葉は、今は死語に近いが、本来「思想」はアマチュアのためにある。
アマチュアこそが「光明」である、アマチュアこそが文明を変えることができる。
梅棹はそう主張したかったのではないか。

梅棹のアマチュアを私なりに問題設定し直すと、「プロシューマー」。
東日本大震災と福島第一原発の事故の後、文明の舵を切るのは今しかない。
「暗黒のかなたの光明」を目指して。
歴史は、私たち自身が作るもの。「私たち自身が歴史」と梅棹は言っている。

節電こそが「光明」の始まりなのではなのか?
節電による「闇」の中に何を見るか。
「ユーチューブ」の先にあるのは「ユーエネルギー」。真の「プロシューマー」は情報だけでは出現しない。
「プロシューマー」による「思想革命」に期待したい。    (2011年8月9日記す)