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ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

興奮

2023年02月15日 | 本を読んだで
ディック・フランシス    菊池光訳       早川書房

 読書好きの間で評判の良いフランシスの競馬シリーズ。なぜか小生は手にしなかった。競馬はやらないが、学生時代、阪神競馬場でアルバイトしてたから競馬とは全く無縁ではない。
 イギリスの障害レースで立て続けに大穴がでた。無印の馬が勝って番狂わせが多発した。馬になにか薬を使ったに違いない。ところが問題の馬をいくら調べても薬物を注射したり飲ませたりした痕跡がみつからない。イギリスの競馬界にとって大問題。理事会は真相を早急に究明する必要がある。理事のオクトーバー卿がオーストラリアに飛んだ。
 オーストラリアで種馬の牧場を経営する、ダニエル・ロークに調査を依頼した。厩務員となり、疑惑の厩舎に雇われて調査をする。
 教養もあり、それなりの男であるロークは下っ端厩務員として、さまざまな屈辱に耐え、横暴な馬主の罵倒暴力にも耐えて、馬はなぜ興奮したのか調べていく。
 ロークの調査と厩舎の仲間とのやり取りが読ませる。もちろん、この作品最大の謎、馬にどんな細工をしたのかが最後に判る。さて、どんな細工をしたのか?
 それにしても、ディック・フランシスと西村寿行がつながっているとは知らなんだ。ロークは最後には目的を達するのだが、報酬は全額オクトーバー卿に返してしまう。金が目的ではないのだ。ではロークはなぜこんな困難な仕事をしたのか。「スリルが欲しかった」

SFマガジン2023年2月号

2023年02月14日 | 本を読んだで

2023年2月号 №755  早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 家だけじゃ居場所になれない  L・チャン 桐谷知未訳
2位 仁義なきママ活bot 竹田人造
3位 伝統的無限生成装置      品田遊
4位 非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド 草上仁
5位 純粋人間芸術          安野貴博
6位 たべかたがきたない       斧田小夜
7位 The Human Existence 柴田勝家
8位 忘れられた聖櫃-ボットたちの叛乱- スザンヌ・パーマー 月岡小穂訳
9位 凍った心臓           小川哲
10位 開かれた世界から有限宇宙へ 陸秋槎

連載
戦闘妖精・雪風 第五部(第5回 対話と想像) 神林長平
マルドゥック・アノニマス(第45回)      冲方丁
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第15回)     飛浩隆
さわやかに星はきらめき(第7回)      村山早紀  
小角の城(第67回)            夢枕獏
幻視百景(第41回)            酉島伝法

特集 AIとの距離感
 編集長が替わってからSFマガジンは良くなった。前の編集長は、こいつほんまにSFが好きなのか、いや、その前にSFが判ってるのか疑問であった。日本で唯一のSF専門誌を創っているという自覚と責任感を感じなかった。確かに初音ミク特集とか百合特集をやって売り上げを伸ばしたかも知れんが、それは自分の会社を向いてやった仕事であって、「SF」を向いてやった仕事とは思えぬ。
 で、今号の特集だ。「AI」このテーマはSF専門誌としては避けられぬテーマであろう。
 巻頭にAIで作成したイラストを掲載。AIで作成した小説も2編掲載した。「The Human Existence」と「凍った心臓」の2編が柴田と小川がAIを使って執筆した小説である。あとAIをネタにした小説。この特集、着想はいいが、少し食い足らない感じがあった。 
 掲載された短編の小生の評価は上記の通りだが、印象に残った作品の小生の感想を記しておく。
「純粋人間芸術」ひねりがたらん。
「たべかたがきたない」混乱している。
「仁義なきママ活bot」だいたいは「ママ活bot」なんて言葉をワシは知らん。
「伝統的無限生成装置」世代宇宙船モノ。少しすべっているが面白いアイデアだ。
「The Human Existence 」つまらん。
「家だけじゃ居場所になれない」「あるじ」はいないけど「ホーム」はいる。家はつつがなくある。妙な哀しみがある。
「非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド」中途半端なSFになっている。   
 


お家さん

2023年01月26日 | 本を読んだで
玉岡かおる   新潮社

 5年前神鋼記念病院で前立腺の手術を受けた。その神鋼記念病院の入り口に黒御影石の碑がある。ここが神戸製鋼発祥の地だ。明治のころ、この地に小林製鋼所という小さな鉄鋼会社があった。その小林製鋼を神戸の商社が買い取って現代の神戸製鋼に育て上げた。その商社は鈴木商店という。
 かって神戸に三井三菱をしのぐ日本一の巨大商社があった。鈴木商店という。小さな砂糖問屋鈴木商店に嫁いだよね。当主の夫に死なれ店が残された。たたもうと思ったが店を存続させることを決意した。よねはお家さんとなって店の代表を務める。高知の田舎から少年が丁稚として鈴木商店に就職する。金子直吉という。若いが優れた商才を発揮する。
 お家さんよねは金子に絶対の信頼を寄せて店の経営を一任する。金子もよねの信頼に応えて、次々と新規事業を興し鈴木商店を総合商社へと育てていく。
 主人公はあくまでお家さんよねだが、脇役ともいう人物が物語の幅を広げている。大番頭金子直吉もさることながら、よねのお付き女中で、よねの前夫の娘、珠喜、金子の右腕ともいうべき存在で、鈴木商店にとって大切な地台湾へ先遣隊となって出向く田川、米担当の棚倉、珠喜、田川、棚倉、3人とも若い。珠喜は元気で、魅力的な娘。その珠喜は田川に恋心、棚倉はどうも珠喜が好きみたい。この3人だけでも物語ができそう。明治、大正、昭和と実業の世界をおさえつつ、女性として妻として母親として実業家としてのよね。すべてを事業にささげた金子。金子は大企業の重役でありながら家は借家。金子が亡くなった時、遺産はゼロだった。そして3人の若者の波乱万丈の生涯。これだけの要素がありながら1本の太い流れを持った小説となっている。見事な大河小説であった。

2022年に読んだ本ベスト5

2023年01月17日 | 本を読んだで
 読書の最凶の外来種はスマホである。電車に乗れば判る。ほとんどの人がスマホとにらめっこ。本を読んでいる人は1車両に数人。時には小生一人ということもある。電子書籍を読んでいる人もいるかもしれないが、ほとんどの人はゲームをしているのだろう。あんな非生産的なことをして、人生のムダ使いだと思うのだが。小生は電車や寄席の仲入りなどのすきま時間は必ず本を読んでいる。
 小生もスマホを持っているがゲームはしない。メールと通話、必要な時にちょっと検索。それに目覚ましをよく使う。
 で、昨年2022年に読んだ本ベスト5だ。順不同。

へうげもの
 クリエイティブとはなんだ。偉大なクリエイター古田織部が問う。

同志少女よ敵を撃て
 一粒で何度もおいしい。出色の冒険小説、戦争小説、アクション小説、お仕事小説でもある。

クララとお日さま
 機械であるクララは何も想ってない。感情を持ってない。でも読んでてクララに感情移入する。出色のロボットSFだ。

カムイの剣
 国産冒険小説の大傑作。英国製冒険小説の名翻訳者矢野徹が自ら冒険小説を書いた。

男は旗
 小生にとっては宝石のような一冊。

 あとベスト5には入れなかったが、上記5冊には決して劣らず、小生の記憶にとどめたい本だから、ここに記しておく。
鷲は舞い降りた
プロジェクト・ヘイル・メアリー
地図と拳
女王陛下のユリシーズ号
黒牢城

気まぐれコンセプト 完全版

2023年01月04日 | 本を読んだで

ホイチョイ・プロダクションズ        小学館

 ホイチョイ・プロダクションズはバブル時代を代表するクリエイター集団だろう。バブルの時代。日本が最もうかれてた時代だ。お金がありあまり、能天気に遊びほうけてても許される時代であった。SFもんの小生にとってもSF大会のいいだしっぺになったりして、いちばん楽しく活発にファンダム活動をしてた時代だった。そして、小生はそのころコピーライターをしてた。若いころ広告業界にいたのである。この漫画は、その広告業界に生息するアドマンなる人種の生態を描いたモノ。小生も短い間であったが、この業界にいたのである。
 広告はクライアントがいて成り立つ仕事だ。小説や絵画などの芸術はクライアントがなくても創作する人もいるが、広告は芸術ではなくビジネスである。だから、この漫画も仕事の発注もとのクライアントと受注者の広告会社の騒動がネタになっている。発注元は自動車メーカーのカブト自動車の宣伝部長ザイゼン。受注者は広告会社の白クマ広告社。そこの営業部長のクマダ、営業部員のヒライ、クリエイターのナオエ、マツイ、媒体担当のホソカワ。これなるめんめんがドタバタを繰り広げる。彼らはいとおう広告制作はまじめに取り組みが、それと並行、いや、それ以上の熱心さで取り組むのは、若いかわいい女性とのナニ。だからクライエントへのプレゼン以上の情熱で合コンのセッティングに取り組み。食欲、金銭欲、出世欲、性欲、これらの欲望で特に性欲が発達している。特にホソカワなるおっさんはセクハラおやじもいいとこ。そっちの方に特化して過激な接待でお得意のご機嫌をとる。
 ともかくバブル能天気絶好調な漫画である。その漫画が今も連載が続いているから驚きだ。

男は旗

2022年12月25日 | 本を読んだで

稲見一良      新潮社

 うう。ワシにとっては宝石のような1冊である。ワシはこないなおじんになってしもうたけど、ワシの中には盲腸にように「少年」が残っている。そのワシの「少年」の心をくすぐりまくられた1冊だ。
「宝探し」古地図に記された財宝を求めて、気の合った仲間で冒険の旅に出る。ずいぶんと古典的な物語であるが、稲見の筆にかかると現代の「少年」をワクワクさせる作品となる。このあたりの塩梅は、「不良老年」のまま彼岸へと旅立った稲見一良がワシら「少年」の残滓を体内に宿す大人たちへの贈り物なのだ。
 シリウス。美しい船だ。かっては「七つの海の白い女王」と呼ばれ、豪華客船として大海原に君臨していた。
 それは昔のこと。今は港につながれホテルとして余生を送っていた。そのホテルの支配人安楽はかってはシリウスの船長だった。古い地図を持っている。
 ホテルの料理長は、シリウスのコックだったカナダ人。アメリカ人のパイロットとその彼女。捕鯨船の銛撃ち。売店の店員の女性二人。フリーターの若い男とその先輩。船客だった作家で医者。レストランのワイン係。これらの人たちはみな一芸に秀でた人たち。そしてみんな、この船シリウスが大好き。安楽をリーダーとする、この面白い面々が宝探しに旅立つ。ホテルから船としてよみがえったシリウスに乗って。彼らは海賊、ギャング、シリウス買収をたくらむ商社らを撃退できるのか。これでワクワクしなければ「少年」じゃない。

陰翳礼讃・文章読本

2022年12月17日 | 本を読んだで

谷崎潤一郎           新潮社

「陰翳礼賛」と「文章読本」谷崎の2大エッセイが読める。
 日本の美は陰翳にある。こうこうと明るいところには、西洋の美はあっても日本の美はない。秘すれば花ということか。裏も表も上も下もあそこもここも、なにもかも丸見えというのはよろしくないということか。しかし、ま、それはそれで美もあると思うのだが。谷崎のいってるのは、あくまで「日本の美」であって、人類普遍の「美」ではないと思うのだが。
「厠のいろいろ」で吉野川の厠で谷崎が体験したことが書いてある。高い所に便所があって、下の川に排泄物を落とすのだが、高い所から何十尺の下に落とす。実に気持ちがいい。桂米朝師匠の「地獄八景亡者戯」のマクラで、船場へんのだんさんが高野山へ行ったときに、高いところの便所からはるか下に排泄物を落とす。実に気持ちがいい。だんさん気に入って二階に便所を作った。そこを通りかかる通行人の会話「気つけなあかんで。このへん上からババが降って来る」米朝師匠が谷崎のこのエッセイから考えたマクラだろうか。
 文章読本は、ようするに良い文章とは、判りやすく記憶に残る文章だ。と、いうこと。さすがに今読むと古さは否めないが、谷崎のいってることは理解できる。  

黒牢城

2022年12月13日 | 本を読んだで
 米沢穂信 KADOKAWA

 小生はあまりミステリーは詳しくないが、安楽椅子探偵というのがある。自分は一か所にじっとしたまま、話を聞いて事件を解決する。この作品は安楽椅子というより牢内探偵といっていいだろう。
 摂津の国の領主荒木村重が織田信長に反旗を翻して伊丹の有岡城にたてこもる。説得に来た織田方の黒田官兵衛を捕らえて地下牢に閉じ込める。
 織田の大軍に包囲された有岡城。武器食料は充分にある。毛利の援軍が来れば勝算あり。地下牢の官兵衛は織田方だが切れ者。城主村重は完全には家臣を掌握していない。その上、高槻衆、雑賀衆といった外様の軍団をかかえている。と、いう設定。で、有岡城で不可解な事件が勃発。そのまま捨て置けば家臣兵の士気にかかわる。ひいては落城につながる。側近の家臣は少しはマシな者もいるが、もひとつ頼りない。困り果てた村重は地下の官兵衛に相談する。官兵衛は敵方の武将。親切に謎解きをするわけではない。ポツとヒントをいう。それで村重が考えて解決する。
 織田方の軍勢の動き、有岡城内の人心の動き。官兵衛の意志。これらを総合的に村重は判断するわけ。現代の企業の不祥事なら「まことに申し訳ございません」と三つほどのハゲ頭を下げるだけが、なんせ戦国のこと、頭は下げるより胴体から離れる。命がけである。全編を通じて緊張感が漂う。そして荒木村重はある決断をする。どんな決断かは歴史が示す通り。決して悪い殿さまじゃなかった村重がなぜ、あの決断をしかかはラストで明らかになる。
 有岡城は今のJR伊丹駅の前に少し石垣が残っている。小生もよく知っているがそんなに大きな城とは思えない。往時は壮大な城だったんだな。

夏への扉

2022年12月02日 | 本を読んだで

 ロバート・A・ハインライン 福島正実訳       早川書房

 ずいぶん久しぶりに読んだ。たしか世界SF全集のハインラインの巻で読んだと記憶する。もう50年ほど昔のことだ。この全集、別巻が広告されていたが、まだ出ないな。どうしたんだろう早川さん。
 この「夏への扉」いろんなSFの人気ランキングで1位になることが多い。SFファンの心の琴線に最も触れる作品といっていいだろう。小生もSFファンとなってずいぶん経つ。ここでもいったように若いころ読んだ名作を読みなおしているしだい。
 さて、「夏への扉」だ。おおまかなプロットは覚えているが、細かいストーリーは忘れている。ほとんど初読みといっていい。うん。面白い。冷凍睡眠とタイムトラベルの複合ワザだが、時間モノSFが苦手な人(小生もそのうちかも)でも判りやすく複雑なタイムパラドックスはない。ようするに30年眠って未来に行き、30年タイムスリップする。
 主人公は世間知らずのエンジニアおたく。画期的な家庭用ロボットを開発して会社を興すが経営には全く関心がない。新たなロボットを造ることだけが楽しみ。会社の実務は全くダメ。で、経営は親友に、事務は若い女性を雇う。この女性がたいへんに有能で、会社の株も持たして、さらには婚約までする。
 ところが・・・。という話し。悪と善が判りやすいから楽しめる。善も悪も女性である。とくに悪の女性は強烈な悪女。この悪女っぷりは爽快ですらある。ハインラインの小説のうまさが堪能できる。

交通誘導員ヨレヨレ日記

2022年11月25日 | 本を読んだで

  柏耕一   三五館シンシャ

 交通誘導員。路上でよく見かける人たちだ。工事現場などで赤い誘導灯を手に、車や通行人を誘導している。実は小生も、交通誘導員にでもなろうか、交通誘導員にしかなれない、との考えが頭をよぎったことがあった。リストラされ扶養家族をかかえなかなか再就職ができなかった時のことだ。「誰でもなれる」「最底辺の職業」と自嘲ぎみにこの本のこしまきにも書いてあるが、とても誰にでもなれるわけではないことが本書を読めば判る。もし、あの時小生が交通誘導員になっていたら三日ともたなかっただろう。イラチでこらえ性のない小生なら、同僚か通行人かドライバーとイザコザを起こしていただろう。それをなんとかガマンできても胃に穴をあけてただろう
 交通誘導員にとっての絶対のご法度は、通行人や地域住民、運転者とのトラブルだ。いかに理不尽なことをいわれても、口ごたえせず平身低頭。でも歩行してはいけない所、車が通ってはダメなところを通すことは許されない。そこを理解してもらうのが交通誘導員の仕事である。
 また、世の吹き溜まり的職場だから先輩同輩後輩にはいろんな人間がいる。上等な人間もいるが、ろくでなしや人でなしも多い。本書に登場する人物も著者もふくめて、あまりほめられない人たちである。威張りちらす先輩上司、仕事をしない同輩、無能な後輩、などなど。これらの人たちを折り合いよくする必要がある。絶対に「誰でもなれる」職業ではない。少なくとも小生にはできない。

その裁きは死

2022年11月24日 | 本を読んだで

アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳      東京創元社

メインテーマは殺人」に続くホーソーン&ホロヴィッツコンビの第2作。離婚訴訟専門の弁護士が殺された。凶器はワインの瓶。ワインの瓶で頭を強打され破片でのどを斬り咲かれている。第一容疑者は日系人の高名な作家アキラ・アンノ。日系イギリス人作家というとカズオ・イシグロを思い起こすがアキラ・アンノは全くキャラが違う。アンノは女性で魅力的だが攻撃的で傲慢。とても温厚な紳士イシグロとは似ても似つかわしくない。
 アンノと元夫エイドリアン・ロックウッドの離婚をアンノに不利エイドリアンに有利に離婚を成就させた弁護士リチャード・プライスはレストランでアンノにワインをぶっかけられ「ワインでたたき殺してやる」といわれた。その通りに殺されたわけ。さて、プライス殺しの犯人はだれか。第一容疑者はアンノだが、そんな単純なモノではない。
 ホロヴィッツはどうもミスディレクションがお好きなようだ。この作品も大きなミスディレクションが仕掛けてある。この作品中の死者は3人。一人はワインの瓶でたたき殺されたリチャード・プライス。数年前、洞窟探検中事故死したチャールズ・リチャードスン、プライスの事件の数日後ホームから転落して電車にひかれたグレゴリー・テイラー。この3人の死は何か関係があるのか。ホロビッツの仕掛ける大きなミスディレクションにだまされよう。
 

ボッコちゃん

2022年11月22日 | 本を読んだで

 星新一                新潮社

 ゴホゴホ。9月にコロナにかかってから、どうもせきが止まらんのじゃ。イテテ。肩も痛いし、目もうとくなった。ワシも年じゃで。SFもんもずいぶん長いことやってきた。小松さん、星さん、光瀬さん、眉村さん、おなじみの人たちも死んでしもうた。
 こんな年になると、昔が懐かしいもんじゃ。ヤマトの沖田艦長やないけど「昔か。なにもかも懐かしい」
 と、最近は、ワシがSFもんになりたての若いころ読んだ本を読みなおしておる。こないだは「銀河パトロール隊」を読みなおしたぞ。で、今回は星さんじゃ。ワシもご多分にもれず若いころは星さんのショートショートはようけ読んだわ。
 とっつきやすく手軽に、つぎつぎカッパえびせん状態で読める。星さんのショートショートはたくさんあるが、この本の表題作「ボッコちゃん」と「おーい ででこーい」が代表作だろう。
「ボッコちゃん」は結末は悲惨なものになるが、ユーモラスと残酷という星ショートショートの南極と北極を併せ持った傑作。「おーい ででこーい」はなんともすっとぼけた突き抜けた傑作だ。星さんって、決して暖かい目で人間を見てなかったんではないかな。

SFマガジン2022年12月号

2022年11月16日 | 本を読んだで
2022年12月号 №754  早川書房

雫石鉄也一人人気カウンター
1位 ミネルヴァ・ガールズ ジェイムズ・ヴァン・ペルト 川野靖子訳
2位 不滅         斜線堂有紀
3位 炎上都市       津久井五月
4位 帰郷は昇華の別名にすぎない イザベル・J・キム 赤尾秀子訳
5位 貧者の核兵器        草上仁
6位 ロボットヴィルとキャスロウ先生 カート・ヴォネガット 大森望訳

連載
戦闘妖精・雪風 第五部〈第4回(承前)内省と探心〉 神林長平
さやかに星はきらめき(第6回)    村山早紀
小角の城〈第65回〉          夢枕獏
幻視百景(第39回)          酉島伝法
戦後初期日本SF・女性小説家たちの足跡
第5回 香山美子、久保村恵、浜田けいこ子-児童向けSFの系譜 伴名練
人間廃業宣言 特別篇
ジャワの格闘技ヒーロー、世界に飛び立つ      友成純一

カート・ヴォネガット生誕100周年記念特集
 と、いうわけでヴォネガット特集やったけど、ワシはヴォネガットにはあまりなじみはなくて、いままで読んだことがない。SFもんとして一冊ぐらいは読まなあかんと思うとる。ワシが読むんやったら、世評に高い「スローターハウス5」ではのうて「プレイヤーピアノ」かな。
 さて「ミネルヴァ・ガールズ」を1位にしたけど、これは昨今のSFとしては、素直で読後感のさわやかな作品であった。機械設計、機械工作、部品調達の得意な女の子3人が特技を生かして月に行こうというお話し。「遠い空の向こうに」の女の子版といったところか。  
 2位にした斜線堂有紀さん。いま一番有望な若手女性作家ではないだろうか。

仕事ください

2022年10月22日 | 本を読んだで

眉村卓    日下三蔵編            竹書房

 眉村さんの初期のショートショート集である。個々の作品を紹介はしないが、日常の中にひそむ不思議不可思議奇妙奇天烈なアイデアをあつかった作品が多い。宇宙だのロボット、異次元といったSF方言は表には出てきてないが、奥の方にあって表層に放射線を放っている。このあたりは、眉村さんはやっぱり、なんといってもSF作家なんだなあと、感慨を新たにする。

女王陛下のユリシーズ号

2022年10月21日 | 本を読んだで

 アリステ・マクリーン 村上博基訳         早川書房

 苦労、苦難、困難、不幸、苦闘。たいていの人はかようなモノは自分にはふりかかって欲しくない。中には山中鹿之助のようなヘソ曲がりもいるが。
 でも、これが他人にふりかかっているのを見るのは、大きな楽しみとなる。映画や小説といったエンタメはそんな話が多い。自分は観客読者といった安全な所に身を置いて、登場人物にふりかかる苦労困難不幸苦闘を見て読んで楽しむのである。特に冒険小説などはその傾向が強い。なんの苦労も困難もなしで、楽々余裕で目的を達成する話を読んで面白いだろうか。
 で、冒険小説の作家は、あの手この手で登場人物たちに、苦労困難を背負わせるのである。いかなる苦労困難を考えつかが腕の見せ所である。
 この本は冒険小説の巨匠アリステア・マクリーンのデビュー作である。さすがマクリーン、苦労困難はゲップがでるほど満喫させてもらった。