ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

同志少女よ敵を撃て

2022年06月28日 | 本を読んだで

 逢坂冬馬         早川書房

 アーモンドチョコの広告だったかな、「一粒で二度おいしい」というキャッチコピーがあった。そのデンでいえば、本書は「一冊で何度もおいしい」である。アガサ・クリスティー賞やら本屋大賞を受賞して大変に売れているとのこと。版元の早川さんにはまことにご同慶の至りである。
 冒険小説であり、戦争、アクション小説でもある。お仕事小説でありつつも、少女の成長の物語でもある。師匠と弟子の絆と葛藤、複数の女子がチームで行動する。百合小説の側面もある。まさに「一冊で何度もおいしい」本だ。
 ロシアの農村の少女セラフィマの母は猟師。小さなころからライフルをおもちゃがわりに育った。そのセラフィマの村にナチスが侵攻。ゲリラの疑いをかけられ母をはじめ村人は皆殺し。セラフィマ一人生き残る。ソ連軍の女兵士に救われる。その女兵士イリーナはセラフィマに問う。「死にたいか。戦いたいか」イリーナは戦略的な考えから、母たちの遺体と村を焼く。セラフィマは決意した。村に来たドイツ軍人とイリーナは絶対に殺してやる。イリーナは実在の名狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの盟友にして練達の狙撃手。女性専門の狙撃手訓練学校の主任教官を務めている。こうしてセラフィマは仇のイリーナの弟子となった。
 狙撃手訓練学校には、モスクワの射撃大会優勝者、カザフ人の猟師。ウクライナ出身のコサックの少女。教官のイリーナより年長でママと呼ばれる子持ちの女性。こういった同級生とケンカをしつつも仲直りしつつも一人前の狙撃手として成長していく。そしてイリーナを隊長とするセラフィマたちは独ソ戦の激戦地スターリングラードの前線へと向かう。
 作中でウクライナ人の少女オリガがウクライナの人がロシアに対してどういう感情を持っているかを語っている。本書の初版は2021年11月。ロシアのウクライナ侵攻の前だ。ウクライナの人たちが、なぜあんなに強大なロシア軍に対して勇敢に戦うか判る。
 出色の戦争冒険活劇小説であり青春小説、お仕事小説である。強くお勧めする。