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あるスキャンダルの覚え書き

2014年11月21日 23時50分29秒 | 洋画2006年

 ☆あるスキャンダルの覚え書き(2006年 イギリス 92分)

 原題 Notes on a Scandal

 staff 原作/ゾー・ヘラー『あるスキャンダルについての覚え書き』 監督/リチャード・エア 脚本/パトリック・マーバー 撮影/クリス・メンゲス 美術/ティム・ハトレー 衣装デザイン/ティム・ハトレー 音楽/フィリップ・グラス

 cast ジュディ・デンチ ケイト・ブランシェット エマ・ケネディ シリータ・クマール

 

 ☆1997年2月26日、メアリー・ケイ・ルトーノー逮捕

 メアリー・ケイ・ルトーノーはアメリカ合衆国の元既婚女性教師で、児童レイプの罪で懲役7年の刑を受けたんだけど、結局、この生徒と結婚し、2人の娘を妊娠出産したことで知られてる。その顛末を記したのがゾー・ヘラーの原作なんだけど、どうも映画の中身とはかなりちがってる。というのも、メアリー・ケイ・ルトーノーはケイト・ブランシェットの演じた女性教師で、本編の主役はジュディ・デンチ演ずるストーカーといってもいいようなレズビアンの女性教師だからだ。

 冒頭、映画はおぞましい展開をまるで想像させない静かさから始まる。実に戒律的な模範教諭であるジュディ・デンチは、もはや老年ながらも周りから筋のとおりすぎた四角四面で禁欲的な勤勉教師として一目置かれている。けど、実は女性にしか興味をもてない性癖を抱え、常に相手とした女性を徹底的に束縛し、支配しなければ気がすまない。つまりは、レズビアンのストーカーだ。この餌食になりかけたのがケイト・ブランシェットなんだけど、彼女もまた誰にも知られたくない性癖があった。というより、不道徳な恋に落ちた。15歳の生徒との恋で、美術教室でセックスしてしまったところをジュディ・デンチに目撃されたことから、この複雑な関係が恐ろしい悲劇に向かって急な坂を転げ落ち始める。つまり、とんでもない醜聞が露見するわけだ。

 ジュディ・デンチもケイト・ブランシェットも、決して褒められることも尊敬されることもない女性像を生々しく演じてる。そのあたりはたいしたものだけど、そもそも役者というものは、こういう恐ろしいちょっとばかり精神の破綻した役どころを見事に演じてこそ、価値がある。ていうか、真価を問われる。やっぱり、欧米の俳優はたいしたものだ。

 性癖というのは底知れぬ恐ろしさを秘めていて、それは別に特別なことじゃなくて、誰にでも当てはまる。あるとき、自分でも知らなかった性癖に気づく者はまだしも、気づかない内にとんでもない性癖に溺れてしまっていることだってある。そうなると、もはや取り返しも引き返しもできず、どんどんと泥沼に嵌まっていく。ジュディ・デンチの性癖がまさしくそれで、職を失うことになろうとも、どんな手を使ってでも支配しようとした獲物を追い求めてやまない。ところが、いったんふられてしまうと、その熱情は狂気じみた憎悪に変わり、相手のすべてをとことんまで潰そうとする。ケイト・ブランシェットの場合、ジュディの怒りを買ったのが生徒との不倫というとんでもない醜聞だったから、なおさらだ。けど、ジュディの恐ろしさは、そんなケイトへの熱情が冷めるとまったくなかったことのように次なる獲物を追い求め始めることだ。

 ただ、こういう人間は決してめずらしくなく、それどころか誰にだって大小の差はあれ、あてはまる。

 だから、この映画はおもしろくて、なまなましいのだ。


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