Danchoのお気楽Diary

高校3年間応援団だった「応援団バカ」の日記。スポーツ観戦や将棋等の趣味の他、日常感じる事を、「ゆるゆる」綴ります。

インフルエンザ治療薬『タミフル』に感じること

2007-04-02 22:10:56 | 健康・福祉
小生自身、薬剤師免許を持っています。

なので、非常に勇気が要ることですが…どうしても気になる、インフルエンザ治療薬『タミフル』の問題について、勉強不足は否めませんが、現時点で感じていることを綴ってみようと思います。


『タミフル』…化学物質名『リン酸オセルタミビル』は、スイスのロシュ社が製造したものを、日本ではその傘下にある中外製薬が輸入し、医師の処方箋がある者に対し販売される、中外製薬のブランドで上市されているインフルエンザ治療薬です。

作用機構は、小生が昨年末から今年の初めにかけて、学術論文紹介の会議で紹介した文献にも実は登場しましたが、『インフルエンザノイラミニダーゼ』という、インフルエンザウイルスの感染とその発症に関係する、酵素タンパク質の活性部位に『タミフル』が結合し、その活性を阻害することで、インフルエンザウイルスを死滅させ、結果的に発症を抑制するところにあります。
(本当は、もっと詳しい機構ですが、若干省略しています。『タミフル』についてはこちらもご参照下さい。)

『タミフル』は、A型,B型,さらには新種のインフルエンザウイルスに対しても効力があるために、医師達からも「画期的」かつ「特効薬」としての高い評価が得られた医薬品…と、小生は見ています。

そんな背景から、『タミフル』の大量製造の観点から、近年では合成研究も旺盛です。
というのも、現状『タミフル』は、香辛料として用いられる、トウシキミの果実である「八角」中に含まれる「シキミ酸」を出発原料に製造されているからです。
すなわち、原料が極めて「有限的」な、小生の専門分野でもある天然物化学的な知識の基に、製造されているのです。

天然物由来の医薬品は、原料に限りがありますから、「有限的」であったとしても、資源的に大量に存在していることが、非常に重要なファクターとなります。

東京大学・柴 正勝 教授らのグループは、そんな背景を充分調査し、現時点で地球上の資源として豊富に存在している、石油化学由来の『1,4-ジシクロヘキサジエン』という化学物質を原料に、柴先生らが既に開発した特殊な触媒を用いて、効率的に『タミフル』を合成することに成功しました。
(詳細は、日本薬学会の会誌『ファルマシア』3月号で述べられています。)

この業績も、実は凄く画期的なことと、小生は見ています。

なぜならば、天然物由来の原料では、非常に長いスパンで眺めた場合、結果的に『タミフル』の製造が逼迫し、市民権を得ても、結局は姿がなくなることになるからです。
その点、柴先生らの開発した合成法は、少なくともトウシキミよりは豊富に存在する原料からの合成ですから、『タミフル』の逼迫が、結果的に先延ばしされることになります。
これは薬品製造の観点からは、多大な貢献といえると、小生は考えています。


ところが…です。


10代の若年層を中心に、『タミフル』の服用による異常行動により、死亡例まで表れている状況です。
この状況を踏まえ、患者側も『タミフル』に対し、疑心暗鬼になっている状況で、厚生労働省も、事態を重く見て、「10代以上への未成年者への処方を控えること」と添付文書で注意喚起する制限指示を出しました。

もっとも、この指示を出す前は、『タミフル』の服用と、こうした異常行動との因果関係を「否定する立場で考えている」と発表したにも拘わらず、突如急転回しましたし、『タミフル』の副作用を研究する学者に助成金を献金していたなど、こうした厚生労働省の「魑魅魍魎が跋扈している役所」的な態度にも、多分に問題ありなのですが…。

もっと悪いことに、一部では、10歳未満でも異常行動がみられるとの報道も現れ、情報が錯綜している状況にあることは否めません。
処方する医師側も、服用する患者側も、それこそ「大混乱」に陥っています。


そこで、考えてみます。


以前、小生自身が『原理原則』という記事を、納豆ダイエット捏造発覚時にエントリーしました。
この『原理原則』にしたがえば、『タミフル』のケースでは、どちらかといえば医師側に問題がありそうです。

すなわち、医師側が、『タミフル』を「インフルエンザ治療の特効薬」という過大評価をしすぎ、とにかくインフルエンザの疑いのある患者に、深く、慎重に、冷静に考えないまま、不特定多数の患者に処方したことが問題ではないかと、小生は見ています。

これと同じケースは、実は今回が初めてではありません。

小生が大学院の学生の時の、研究のターゲットだった抗癌剤である、化学物質名『カンプトテシン』(実際は、プロドラッグである『塩酸イリノテカン』に誘導体化したもの)が上市されたときに、新薬としての興味から医師達がこぞって癌の患者に処方し、重篤な下痢の副作用が多数現れて問題となった前例があるのです。

しかし、疾病に関しては、患者は医師に縋るしかありません。

だからこそ、DI(Drug Information:医薬品情報)を慎重に検討し、精査し、処方にあたっても、慎重かつ冷静な判断が、医師側に要求されます。

ところが、今回のような大問題が起こる度、傲慢な医師ほど、こう決まって口にします。

「DIが、しっかりしていないからだ…。」

『カンプトテシン』の時は、実はDIはしっかりしていたのに、医師達が聞く耳持たずに、大問題となりました。
薬剤師側にしてみれば、ある意味、「起こるべくして起こった」問題で、医師がこんなことを口にするのは、薬剤師に責任転嫁している心理状態を物語っている最たるものといえます。

確かに、DI業務を請け負う小生達薬剤師にも、重要な責務は当然あります。
しかし、それでは、「患者の生命」を全く無視した、レベルの低い争いに過ぎません。

治験データーに本当に問題や「甘さ」がなかったのか…
治験の方法に、問題となるべき点が、本当になかったのか…
その他の問題点はないのか…

ここは、厚生労働省と、医師、薬剤師、さらには、製造元のロシュ社も巻き込み、これらが三位一体となって、確実で、患者が納得できる信憑性高いデーターを提示することが、『原理原則』ではないでしょうか?

この『原理原則』がうまく回れば、柴先生らの業績も、改めて画期的なもので、素晴しいことが再認識できると、小生は考えています。


薬剤師免許を持っていながら、非常に「乱暴」かもしれませんが、極端な「発想の転換」をしてみます。


疾病を治療せしめる医薬品は、その使用量が「治療域」にあるから「医薬品」であって、その量を超えてしまえば、ただの「厄介な毒」です。
医薬品は、それほどの「諸刃の剣」の要素を多分に含んだ化学物質なのです。
これも残念ながら『原理原則』…もっと正しく表現すれば『自然の摂理』なのです。
いくら多量に使っても、全く問題ない医薬品は、「皆無」といっても過言ではありません。
したがって、『タミフル』も、その観点から、疑ってかかって良いわけです。

また『タミフル』は、服用しても、僅か「1日」しか、高熱状態を避けることができません。
発症から48時間以内でないと、服用しても全く意味がない医薬品です。

しかし日本では、例えば、社会人は「長期病欠は、現業や査定に影響する」とか、学生であれば「早く治って、学校へ行きたい」とか、学生の親であれば「早く治して、学校へ行かせたい」という心理が蔓延しています。そういう風土の国でもあります。
全世界の市場に存在する『タミフル』の約70%を、日本のその「風土」が備蓄させている…これはデーターが証明しています。
語弊はありますが、ロシュ社にしてみれば、日本は「マーケットの絶好なターゲット国」なのです。

朝日新聞の3月22日の社説の最後の一行に、良いことが書かれていました。

それは、「大人は病気の時くらい、ゆっくり体を休めてみては?」ということです。

この行間を読むとすれば、「自分の身体と、医薬品とも、上手に付き合って、健康を取り戻しましょう」ということではないかと、小生は感じています。

TBS系列の学園ドラマ『3年B組金八先生』の第7シリーズのテーマは、「ドラッグ問題」でした。
そこでも、「依存」という言葉にも、「良い依存」と「悪い依存」があることが取り上げられています。医薬品への「依存」は、間違いなく後者に当たります。


「悪い依存」から脱却し、病気とも、医薬品とも上手につきあう…。
これが、健全な健康体を疾病から取り戻す、『原理原則』ではないかと小生は感じますが、読者の皆さんは、いかがお考えでしょうか?
Comments (2)
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