感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

メトロニダゾール誘発性脳症

2013-11-06 | 内科
昨日の当院のCPCでは、長引く意識障害後に亡くなられた方の当科症例を検討した。側頭動脈炎の診断後、高容量ステロイド開始、その後CMV感染、腹腔内膿瘍を発生、メトロニダゾールを使用、CMVはガンシクロビルで軽快、その後痙攣が発生、意識障害が遷延化していた。髄液検査では細菌性髄膜炎所見なく、クリプトコッカス抗原や単純ヘルペスDNAは陰性、JCウイルスは国立感染症研究所にて検査いただきDNAは陰性。
MRI検査で小脳歯状核と白質に高信号あり、メトロニダゾールを中止、その後画像的に所見は改善していたこと、などからこれによる脳症を疑っていた。 意識は残念ながら改善に乏しく、それでも状態は安定し退院を探っていた所、急に血圧低下などで死亡された。病理所見でも膿瘍やCMV肺炎の治療後痕跡はあったが、明らかな脳の病理所見はなかった。
文献は症例報告しかないが、調べてみた。


まとめ


・メトロニダゾール誘発脳症(MIE)は長期間のメトロニダゾール使用の悪影響とされている。しかし発生はまれで報告は限られている。
・この薬の最も一般的な副作用は、吐き気、味覚異常、食欲不振、腹部けいれんを含む
・神経毒性はめったにしか報告されない、頭痛、協調運動障害、運動失調から痙攣発作、視神経症、末梢神経障害や脳症に至るまである。
・メトロニダゾール誘発性脳症の正確な発生率とメカニズムは知られていない。文献のほとんどのケースでは、メトロニダゾールの長期的な、高累積用量治療後に発生している。
・薬物動態研究ではメトロニダゾールは血液脳関門を通過して脳脊髄液中治療濃度を達成することが実証されている
・MRI所見は、ほとんどの場合、毒性代謝過程を推測させる水分含量増を有し、両側軸索の腫脹の関与を証明する。
別の示唆されるメカニズムは、血管攣縮の可能性で、軽度の可逆的局所的虚血を生じる可能性がある。 小脳および前庭システム内γ-アミノ酪酸(GABA)受容体の調節が、メトロニダゾール誘発脳症のためのメカニズムとして また提案されている。

・RaoとMasonは、 カテコールアミン神経伝達物質が、メトロニダゾールなどの5-ニトロイミダゾール薬の効果を低減し、セミキノン基及びニトロアニオンラジカルの両方を生成することを報告。これらの物質は神経組織の損傷を引き起こすことが提案されている。
・その他の提案されたメカニズムは、 リバーシブルなミトコンドリア機能障害 とビタミンB1作用の減損 が含まれる

・動物試験では、イヌにおいてメトロニダゾール誘起プルキンエ細胞損傷、ラットでタンパク質合成阻害が軸索変性をもたらす、マウス小脳で炭素ラベルされたメトロニダゾール取り込み、を認めている 
・ラットにおけるメトロニダゾールの研究では、脳幹や小脳病変からの組織標本におけるメトロニダゾール毒性を示しており、これはウェルニッケ脳症患者からのものと類似。

・メトロニダゾール脳症のMRI所見の報告で高信号強度のDWIと減少したADCマップ値が、細胞傷害性浮腫の存在を示した。ADCマップ値を用いて間接的にメトロニダゾール誘発性脳症の重症度および可逆性を予測することができるとしている。
・しかし、高ADC値と高DWIを示す小脳歯状核が血管原性浮腫の関与を示すケースもある

・メトロニダゾール誘発性脳症の臨床症状は報告したケースで様々であった。ほとんどの場合、運動失調や構音障害を提示。 他の徴候と症状は、精神状態の変化、末梢神経障害、脱力感、めまい、吐き気、嘔吐、感覚損失、視覚障害、または発作が含まれる。
・症状の発症は、21~182gまでの累積用量で、2~4週間を超える治療期間後に報告されている。より短い期間で発生した報告もある。
・ほとんどの場合、症状やMRI所見は、メトロニダゾール中止後に改善するが、永続的な感覚異常も報告されている。
・T2高信号の不完全な改善、と制限された拡散、 が それぞれ8ヶ月目と15日目に実行されたフォローアップイメージングで報告

・メトロニダゾール毒性で最も一般的な病変部位であるのは、頻度順に、 歯状核、中脳、脳梁の膨大部(SCC ) 、橋、延髄、下丘、皮質下白質、大脳基底核と中小脳脚 である
・Ahmedらはまず小脳の歯状核dentate nuclei、脳梁、基底核、及び前頭葉と皮質下白質の病変としてメトロニダゾール誘発性脳症のMRI所見を記載。 両側性の歯状核の関与のMRI所見は、メトロニダゾール誘発性脳症の非常に特徴的な所見であり、脳症のMIEと他の可能性のある原因を区別するために使用されるべき。

・肝疾患患者におけるメトロニダゾール誘発性脳症の報告が3例ある。
・メトロニダゾールとその代謝物は主に尿中に排泄されるが、メトロニダゾールは最大60%がグルクロン酸抱合によって肝での酸化を介して代謝を受ける。 中等度の肝機能障害を有する患者では投与量減量は必要とされないが、その肝代謝産物の蓄積は重度の肝機能障害を有する患者において明らかである。


文献

Case Reports in Hepatology Vol 2012 Article ID 209258, p4
Arch Neurol. 2003 Dec;60(12):1796-800.
Can J Neurol Sci. 2011 May;38(3):512-3.

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