院内でのグラム染色勉強会の資料作りのためこの論文を読んだ。市中肺炎での痰のグラム染色の有用性に関しては、賛否両論あるがなぜなのか。どういった条件下であれば有用なのか? ディスカッションでは過去文献のおさらいもあり知識の整理になった。
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J Infect. 2009 Aug;59(2):83-9. Epub 2009 Jun 6.
A prospective study of the diagnostic utility of sputum Gram stain in pneumonia.
Anevlavis S, Petroglou N, Tzavaras A, et.al
研究目的
細菌性肺炎(CAP)において病因診断と最初の抗菌薬治療選択で、痰のグラム染色の診断精度と診断的価値を決定するため
デザイン手法
2002年6月 - 2008年1月の間に我々の機関に認めた1390人のCAP患者の前向き研究。 1390人の患者のうち、178(12.8%)がこの研究に含めるための以下の基準を満たした: 良質の痰が得られ、血液や痰の培養で同じ微生物が検出された例、 痰のグラム染色の診断精度と診断価値を評価するためのゴールドスタンダードとして使用した
結果
喀痰グラム染色の感度は、肺炎球菌性肺炎0.82、ブドウ球菌性肺炎0.76、インフルエンザ菌肺炎0.79、グラム陰性桿菌性肺炎0.78 であった
喀痰グラム染色の特異性は、肺炎球菌性肺炎0.93、ブドウ球菌性肺炎0.96、インフルエンザ菌肺炎0.96、グラム陰性桿菌性肺炎0.95 であった
陽性尤度比(LR+)は、肺炎球菌性肺炎11.58、ブドウ球菌性肺炎19.38、インフルエンザ菌肺炎16.84、グラム陰性桿菌性肺炎14.26 だった
陰性尤度比(LR-)は、肺炎球菌性肺炎0.20、ブドウ球菌性肺炎0.25、インフルエンザ菌性肺炎0.22、およびグラム陰性桿菌性肺炎0.23だった
ディスカッション
・肺炎の痰のグラム染色の感度と特異度は研究施設ごとに異なる
・研究対象とする基準も異なり、施行するスタッフの経験度も異なる。 本研究では基準は血倍と痰培養の結果を含み、経験豊富なスタッフにより施行された。
・Rein et al.,[16]らの研究で痰のグラム染色の感度が肺炎球菌菌血症性肺炎の患者では31%であったが、 無痰あるいは不十分な痰を有する患者は除外されたときに63%に増加した。事前の抗生物質使用の患者は除外した時の感度は80%であった。
・Roson et al.,[18]の研究では肺炎球菌とインフルエンザ菌肺炎の診断のための痰のグラム染色の感度は低かったが、特異度はそれぞれ100%、99%であった。この研究で感度が低かったのは膿性サンプル取得が困難だったこと、膿性痰でなかった例を陰性と設定したこと。 しかし、この研究で、化膿性の痰サンプルの得られた患者では、グラム染色の感度が80%に増加し、我々の研究の結果と一致した。
・Ewig et al.[21]らの研究では喀痰グラム染色は肺炎診断ツールとして低い診断率としているが、研究はプライマリケアの病院で実施され、微生物施設をもたず、痰の処理や染色の経験はなかった。
・Boerner and Zwadyk.[7]らにより喀痰グラム染色の結果と臨床データ及び治療への反応との間の相関が示されている
・2007年、成人のCAPの管理に関するアメリカ感染症学会/米国胸部学会のコンセンサスガイドライン[23]では、喀痰の前処理グラム染色と培養を行うべきであると述べられているが、それは良質の標本を得ることができ、収集、輸送、およびサンプルの処理のための品質性能対策を満たすことができる場合に限られる。
16. J Am Med Assoc 1978;239:2671e3.
18. Clin Infect Dis 2000;31:869e74.
21. Chest 2002;121:1486e92.
7. J Am Med Assoc 1982;247:642e5.
23. Clin Infect Dis 2007;44(Suppl. 2):S27e72.
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有用性を出すためには、精度管理が大事(サンプルの品質、細菌検査室設備、輸送手段、手技を行う人の熟練度、など)、先行抗菌薬の影響がないこと、などの条件が必要なのだろう。 この研究でも 厳格な研究対象としているので、全CAP例で基準に合致したのは1/8しかいなかった。
IDSA/ATSガイドラインにもあるようにこういった条件が整わないのならグラム染色はやらないほうがいい。逆に可能なほどの病院施設なら、これだけ感度特異度が良いなら、がんばってやるべきか。
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J Infect. 2009 Aug;59(2):83-9. Epub 2009 Jun 6.
A prospective study of the diagnostic utility of sputum Gram stain in pneumonia.
Anevlavis S, Petroglou N, Tzavaras A, et.al
研究目的
細菌性肺炎(CAP)において病因診断と最初の抗菌薬治療選択で、痰のグラム染色の診断精度と診断的価値を決定するため
デザイン手法
2002年6月 - 2008年1月の間に我々の機関に認めた1390人のCAP患者の前向き研究。 1390人の患者のうち、178(12.8%)がこの研究に含めるための以下の基準を満たした: 良質の痰が得られ、血液や痰の培養で同じ微生物が検出された例、 痰のグラム染色の診断精度と診断価値を評価するためのゴールドスタンダードとして使用した
結果
喀痰グラム染色の感度は、肺炎球菌性肺炎0.82、ブドウ球菌性肺炎0.76、インフルエンザ菌肺炎0.79、グラム陰性桿菌性肺炎0.78 であった
喀痰グラム染色の特異性は、肺炎球菌性肺炎0.93、ブドウ球菌性肺炎0.96、インフルエンザ菌肺炎0.96、グラム陰性桿菌性肺炎0.95 であった
陽性尤度比(LR+)は、肺炎球菌性肺炎11.58、ブドウ球菌性肺炎19.38、インフルエンザ菌肺炎16.84、グラム陰性桿菌性肺炎14.26 だった
陰性尤度比(LR-)は、肺炎球菌性肺炎0.20、ブドウ球菌性肺炎0.25、インフルエンザ菌性肺炎0.22、およびグラム陰性桿菌性肺炎0.23だった
ディスカッション
・肺炎の痰のグラム染色の感度と特異度は研究施設ごとに異なる
・研究対象とする基準も異なり、施行するスタッフの経験度も異なる。 本研究では基準は血倍と痰培養の結果を含み、経験豊富なスタッフにより施行された。
・Rein et al.,[16]らの研究で痰のグラム染色の感度が肺炎球菌菌血症性肺炎の患者では31%であったが、 無痰あるいは不十分な痰を有する患者は除外されたときに63%に増加した。事前の抗生物質使用の患者は除外した時の感度は80%であった。
・Roson et al.,[18]の研究では肺炎球菌とインフルエンザ菌肺炎の診断のための痰のグラム染色の感度は低かったが、特異度はそれぞれ100%、99%であった。この研究で感度が低かったのは膿性サンプル取得が困難だったこと、膿性痰でなかった例を陰性と設定したこと。 しかし、この研究で、化膿性の痰サンプルの得られた患者では、グラム染色の感度が80%に増加し、我々の研究の結果と一致した。
・Ewig et al.[21]らの研究では喀痰グラム染色は肺炎診断ツールとして低い診断率としているが、研究はプライマリケアの病院で実施され、微生物施設をもたず、痰の処理や染色の経験はなかった。
・Boerner and Zwadyk.[7]らにより喀痰グラム染色の結果と臨床データ及び治療への反応との間の相関が示されている
・2007年、成人のCAPの管理に関するアメリカ感染症学会/米国胸部学会のコンセンサスガイドライン[23]では、喀痰の前処理グラム染色と培養を行うべきであると述べられているが、それは良質の標本を得ることができ、収集、輸送、およびサンプルの処理のための品質性能対策を満たすことができる場合に限られる。
16. J Am Med Assoc 1978;239:2671e3.
18. Clin Infect Dis 2000;31:869e74.
21. Chest 2002;121:1486e92.
7. J Am Med Assoc 1982;247:642e5.
23. Clin Infect Dis 2007;44(Suppl. 2):S27e72.
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有用性を出すためには、精度管理が大事(サンプルの品質、細菌検査室設備、輸送手段、手技を行う人の熟練度、など)、先行抗菌薬の影響がないこと、などの条件が必要なのだろう。 この研究でも 厳格な研究対象としているので、全CAP例で基準に合致したのは1/8しかいなかった。
IDSA/ATSガイドラインにもあるようにこういった条件が整わないのならグラム染色はやらないほうがいい。逆に可能なほどの病院施設なら、これだけ感度特異度が良いなら、がんばってやるべきか。