感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

HIVと好中球減少症

2015-02-05 | 感染症

当科にてHIV感染を診断後、腹腔内に腫瘍がみつかり悪性リンパ腫と診断がつき化学療法中ですが、好中球が下がったままなかなか回復しない、HIV感染との関連はどうかと血液内科より相談ありました。まだART開始後数カ月ですが、開始前は好中球数は極端に減っていなかったので化学療法の影響はあるとは思われましたが、もともとCD4も低くHIV-RNA量も多くHIV関連数値としては悪い状態でした。HIVといえばCD4+リンパ球数減少が有名ですが、HIV患者に好中球減少はまま見られます。その原因も様々と思いますが、病態の整理や鑑別疾患リスト作成のため文献をまとめてみました。

 

 

まとめ

 

・HIV感染中の好中球減少症の原因は、造血組織へのウイルスの毒性、骨髄毒性を治療するための薬剤の使用、合併症の二次感染症及び悪性腫瘍、並びに骨髄造血を損なう交絡因子を有する患者の関連付けを含めて、多因子である。

 

・米国女性におけるHIV感染の症状と経過を調べる最近の多施設前向き研究では1729名のHIV感染女性で、7.5年間の追跡期間中に、79%は好中球数が2000未満をカウントし、31%が1000未満の数を少なくとも1回以上経験したことを報告した

・好中球減少の回復は、貧血や血小板減少症も存在していた例にて有意に低い可能性が高かった。 >500/μLのCD4細胞数患者と比較して CD4数< 200/μLでは好中球減少症の回復は32%少なかった。

 

 

・好中球減少症の有病率の増加と重症度は、一般的にHIV疾患の進行期に見られる。

・ 減少した血液の好中球数は、密接にCD4+ T細胞の喪失に関連しており、循環中のHIVウイルス量と逆相関している

・244 名の好中球減少症を伴うHIV感染患者の研究(絶対好中球数<1000)では、好中球減少症は平均CD4+細胞数が30で発生が示された。

・低CD4+細胞数は、好中球減少症のより長いエピソードと、より深いnadirに関連

・好中球減少のエピソードの3分の2は2週間未満の持続。絶対好中球数の最低値はエピソードの45%で<500。

・好中球減少症は、しばしば、特にHIVに感染した患者に汎血球減少と一緒に開発

 

・骨髄所見は、 骨髄球系列の左シフトと骨髄異形成、顆粒球系列に沿って細胞成熟の異常、リンパ球浸潤、および形質細胞増加、 が含まれる

 

 

・HIVは、顆粒球系列及び/又は祖細胞に対する細胞毒性を有し得ることを示唆。 造血幹/前駆細胞の機能(HSPCs)はHIV感染の間に損なわれる。 gagコーディングされたHIV-1タンパク質はHIV-1感染患者からのCD34+前駆細胞で同定されている。

・HIV及びHIVタンパク質のgp120はまた、内因性の増殖阻害性サイトカインTGF-β誘導を介してCD34+細胞の増殖を抑制する。

・好中球減少症に加えて、好中球機能の異常は、HIV感染患者で観察されている。 減少した殺菌能力、脱顆粒プロセス障害、走化性、無効な食作用、異常な表面接着分子の発現および毒性酸素産生減少を含む。

・HIVに感染した患者における骨髄間質細胞によるサイトカイン産生の変化は、 インターロイキン-2(IL-2)の減少、および  腫瘍壊死因子α(TNF-α)、マクロファージ炎症性タンパク質-1アルファ(MIP-ラ) 、MLP-1ベータ(MIP-ly8)の上昇、 そして発現および分泌(RANTES)レベル活性化正常T細胞上の規制、 を特徴とする。サイトカインプロフィールのこの変化は、骨髄クローン原性活性の低下と関連している。

 

・HIV感染患者での骨髄間質細胞によるG-CSFの産生が著しく減少する。好中球減少症は、循環中のG-CSF産生を刺激することができない。

・ポリクローナルB細胞活性化および抗好中球自己抗体の生成は、HIV疾患の一般的な臨床所見である。特定の抗好中の自己抗体(抗MAC-1)活性は、HIV感染症を有する個体のような多くの45%に存在することが報告されている、それは 高度好中球減少症の発症と相関する。現時点では、しかしながら、これらの抗好中球細胞質抗体の臨床的意義は不明。

 

 

・重篤な二次感染が最も頻繁に絶対好中球数のnadirで発生している。サンフランシスコ総合病院HIV外来の2047人の患者での評価で、細菌感染による入院は絶対好中球数に関連しており、<750で有意に高いリスクが、より低い<500で特に高いリスクを示した。

 

・好中球減少の病因として、HIV感染自体、HIV関連の自己免疫障害、二次感染、悪性腫瘍治療剤、HIVおよび日和見感染症を治療するために使用される薬剤、およびHIV感染に罹患している患者に関連付けられた交絡因子をなど多くの原因がある。

 

・特定の偏性細胞内微生物は、骨髄の直接浸潤による骨髄抑制を引き起こす。マイコバクテリウム·アビウムコンプレックス、および結核菌により引き起こされるもの等マイコバクテリア感染はしばしば骨髄を障害する。

・ クリプトコックス·ネオフォルマンス、ヒストプラズマ・カプスラーツム、コクシジオイデス、カンジダとニューモシスチスを含む日和見真菌病原体による感染は、骨髄損傷および骨髄抑制に関与する。

・サイトメガロウイルス(CMV)感染は好中球減少症を悪化さうる。CMVは、HSPCsおよび間質細胞の両方に感染する。

・HBV病原性の影響の主な部位は肝臓であるが、骨髄造血細胞および間質細胞への関与ならびに末梢血顆粒球減少は、HBV感染の間に観察されている。HBsAgがしばしばHBV感染中に骨髄芽球を含む未成熟造血細胞の核において検出される。

・トキソプラズマ症などの原虫感染は、骨髄に関与しうる。汎血球減少症を有するHIV患者で、マクロファージ、顆粒球及び巨核球を含む骨髄性系統に属する骨髄細胞の細胞質内のトキソプラズマ原虫が実証されている。

・細菌性病原体でも、サルモネラ症は、骨髄造血細胞に感染し、顆粒球の発達を抑制することにより、好中球減少症を引き起こす。

 

・血球貪食症候群は組織球と骨髄造血前駆体の貪食細胞の増殖によって特徴づけられる。好中球減少症を含む汎血球減少症と脾腫はその典型的な症状の一つ。HIV感染自体がこの症候群を引き起こす可能性があるが、EBV、CMV、単純ヘルペスウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスV、パルボウイルスB19、結核菌、ニューモシスティス、トキソプラズマまたはカンジダ·アルビカンスなどの感染症、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、およびカポジ肉腫などの悪性腫瘍とも関連して生じうる。

 

・HIV感染のための治療薬、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤のジドブジン(AZT)、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤delavirfine(DLV)、プロテアーゼ阻害剤(PI)のリトナビル(RTV)及びネルフィナビル(NFV)の使用が原因で好中球減少症をきたしうる。ガンシクロビル、シドフォビル、ホスカルネットおよびペグ化インターフェロンなどの抗ウイルス剤も起こしうる。

・二次感染のための薬、アンホテリシンBおよびペンタミジンなどの抗真菌薬、リファブチン、トリメトプリム·スルファメトキサゾール、ダプソンも骨髄毒性を示しうる。

・HIV関連の悪性腫瘍を治療するために使用される特定の化学療法剤は好中球減少症、骨髄毒性の様々な程度を引き起こす

・HIV感染者は多くの場合、交絡因子、特に過度のアルコール摂取や薬物乱用を示す。

 

・好中球減少症の回復は、高活性抗レトロウイルス療法での治療後のCD4+細胞数の回復とHIVウイルス量減少と関連して達成しうる。

・臨床的および実験的研究からは、G-CSFおよびGM-CSFなどの造血成長因子の使用は、HIV、または、多くの治療薬によって誘発される骨髄抑制を克服するのに有用であり得る

・G-CSF製剤の治療は血液好中球数の即時かつ持続的な増加を提供することができることを示し、かなり重度の好中球減少症、細菌感染、または死亡の発生率を低下させるとの根拠は蓄積されてきている。

 

 

 

 

参考文献

Int Rev Immunol. 2014 Nov-Dec;33(6):511-36.

Arch Intern Med. 2006 Feb 27;166(4):405-10.

 

 


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2 コメント

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他に原因がない場合 (motoyasu)
2015-02-09 15:52:22
健康診断やルーチン検査などで、HIV感染症を頭に入れる血液検査異常として、要因のない白血球減少、血小板減少、好酸球上昇、ZTT上昇、Alb低値などがあげられるというお話が、先日の西部内科医会でありました。基礎疾患のある方は別でしょうが、はっきりした原因のないこうした異常には、日常臨床でも注意が必要と感じています。
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HIVをみつける (志智)
2015-02-10 08:09:12
コメントありがとうございます。
当院でのHIVはいきなりAIDS例が多いですが、なかには毎年検診を受けてこられていた方もいて不思議と引っかかっていなかったりします。ちょっとした白血球数減少や貧血としても軽度なんでしょうね。若くして上気道炎を反復するとか帯状疱疹を起こすとかの病歴のほうがひっかけやすい印象は私にはあります。
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