感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

脾膿瘍について

2017-03-09 | 感染症

左胸水、胸膜炎疑いにて当院呼吸器科に紹介され、CT検査にて脾膿瘍が疑われた例。外科に入院となり当科に診療相談ありました。背景基礎疾患の検索をどうするか、起炎菌はどんなものがあるか、治療方針は?

 

まとめ

・脾臓は微生物および粒子状物質の有効なフィルターであり、脾膿瘍の発生率が非常に低いことから分かるように、感染に対しては非常に強い。

・脾膿瘍はまれな存在であり、報告頻度は0.05〜0.7%

・解剖の研究において0.14%〜0.7%の割合で発生することが指摘

・脾膿瘍の発生素地には、既存の脾臓組織損傷や菌血症の存在が必要であることを示唆されている。 

・その機序として以下の 3つ

 これまでは正常な脾臓への血行性散布  例えばIV薬物を乱用した敗血症性心内膜炎患者や真菌血症を発症した化学療法施行者などが典型で、患者は免疫抑制されているか、または圧倒的な菌血症を有する

 以前から異常のある脾臓への血行性の広がり  例えば脾臓外傷や脾臓梗塞を有するものへ肺炎や胆嚢炎などからの菌血症、 脾臓の無血管領域にコロニーを形成し、膿瘍を形成しうる

 周辺からの連続的広がり  例えば膵膿瘍、胃または結腸の穿孔、または浅部膿瘍からの直接的な関与

 

・脾膿瘍の原因は、次の5つのカテゴリの1つ以上に分類される: 転移性感染症、 赤血球異常による虚血または梗塞後の重なった感染症、外傷、連続感染、 免疫不全。

・脾膿瘍は、一般に癌、免疫不全、外傷、転移性感染、脾梗塞または糖尿病の患者に生じる。 

・ヘモグロビン症(特に鎌状赤血球症)、白血病、真性赤血球症、または血管炎などの全身性疾患(下記画像参照)に起因する脾臓梗塞は、感染して脾膿瘍に進化する可能性がある

・脾膿瘍を生じさせたもとの他部位の感染巣として一般的なのは、感染性心内膜炎(脾膿瘍の10〜20%の発生率)で、その他の感染源には、腸チフス、パラチフス、マラリア、尿路感染症、肺炎、骨髄炎、耳炎、乳房炎および骨盤内感染など

・脾膿瘍に関連する微生物としては、ほとんどの報告で主にグラム陽性球菌Streptococcus、StaphylococcusおよびEnterococcusである。 その他、グラム陰性桿菌(Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、プロテウス、シュードモナス、およびサルモネラ、 ペプトストレプトコッカス、バクテロイデス、フソバクテリウムなどの嫌気性菌、カンジダなどの真菌、放線菌およびマイコバクテリアなど

・Anyfantakisらは免疫正常成人における孤立性脾膿瘍としてのネコひっかき病を報告、Bartonella henselae感染による。[Infez Med. 2013 Jun;21(2):130-3]

・Yilmazらはブルセラ症による脾膿瘍症例と文献の検討をしている。大半はBrucella melitensisによる。 [Int J Infect Dis. 2014 Mar;20:68-70.]

・Llenas-Garciaら18が脾膿瘍における結核菌Mycobacterium Tuberculosisのより高いパーセンテージを報告したように地理的な違いや人口の違いがある。

・Llenas-Garcíaらは、1施設で脾膿瘍22例のレビューを行った。8例がM.tuberculosisが原因で最も多く、患者の63.6%が免疫抑制が主要な素因。[Eur J Intern Med. 2009 Sep;20(5):537-9.]

・特殊事例として、Crohn病の初期症状として無菌性の脾膿瘍を呈した健常な若年女性の症例報告あり [Case Rep Med. 2014;2014:684231.]

・真菌性脾膿瘍は90%以上の患者で多嚢胞であるが、細菌性膿瘍は19~26%でのみ多嚢胞である。

・Sarr and Zuidemaによって、 発熱、左上腹部の痛み、圧痛のある腫瘤、の三徴が提案された。

・炎症を起こした脾臓は、隣接する横隔膜および左腎の局所刺激を引き起こし得る。

・脾膿瘍、特に上極に位置する膿瘍は、横隔膜を刺激し、左胸水、肺浸潤の増加、肺炎、または肺葉下部の無気肺を引き起こす傾向がある

・Lee WSらの18例の症例の検討では、発症時の一般的症状は腹痛(66.7%)、16.7%に膵炎がみられた、11.1%は心内膜炎に続発し5.6%は歯膿瘍であった、16.7%が共存する肝膿瘍を呈した。胸部X線撮影は88.8%で異常で最も頻度の高い所見は左胸水であった。Streptococcus viridansが最も一般的な病原体(27.8%)次がKlebsiella pneumoniae(22.2%)。単包性膿瘍が66.7%)に、多包性は33.3%。治療は22.2%が経皮的ドレナージ、44.5%が抗菌薬治療のみ、33.3%が脾臓摘出術。死亡率は3種の治療群間で差はなく、死亡率は患者の一般的な基礎状態とより関連しているようであった。[Yonsei Med J. 2011 Mar;52(2):288-92.]

・Grubor Nらの脾臓摘出9例で、脾膿瘍患者を観察し、4例で敗血症性心内膜炎の合併症、外傷2例、歯科感染1例、2例は骨髄増殖性疾患の化学療法で。[Srp Arh Celok Lek. 2005 Jan-Feb;133(1-2):46-51]

・Chiangらの脾膿瘍29例の検討では、発熱(90%)、悪寒(41%)、腹痛(31%)、白血球増加症(38%)などが良くみられた。膿瘍は21例(72%)で単包性、8例(28%)で多包性。血液培養陽性はわずか7名(24%)(内訳は、Staphylococcus sp 2名、Salmonella sp、Pseudomonas sp、Enterococcus sp、Enterobacter spは各1名)。ほとんどの患者は免疫不全で(72%)、関連する最も一般的な状態は白血病。ドレナージや脾切除をしない抗菌薬単独療法での成功率は75%。[Kaohsiung J Med Sci. 2003 Oct;19(10):510-5]

・Greenらの6例の脾膿瘍の報告。胸部XPでは左胸水が最も多く5例。原因菌は、2例では嫌気性菌であり、1例ではCandida albicans、Streptococcus viridans、Escherichia coli、Citrobacter freundiiであった。[Am Surg. 2001 Jan;67(1):80-5]

・脾膿瘍の診断は、腹部の超音波検査またはコンピュータ断層撮影法(CT)によって確立

・文献のレビューは、CTが96%の感度を有し、76%の感度を有するUSより優れていることを示した。

・CTは、数ミリメートルの小さな病変を局在化する能力が優れており、腹腔外領域や隣接臓器についてのより詳しい解剖学的情報を提供する。

・MRI検査では、T1強調画像では信号強度が低く、T2強調画像では信号強度が高い

鑑別診断には、脾梗塞、嚢胞、原発性および続発性腫瘍、血腫、およびリンパ腫性腫瘤 が含まれる。

・治療については、この病態のための無作為化研究の欠如があり決定的な臨床アルゴリズムを提供されない。

真菌膿瘍の場合、最初は内科的療法のみが適切である。これはamphotericin B療法で真菌性膿瘍の改善を示した一連のUSおよびCTスキャンを用いた研究で確認されている。 真菌性膿瘍患者の生存率は67%~75%。

・脾臓摘出術は依然として細菌性膿瘍の治療法であり以前の研究ではタイムリーな脾摘出と術後の抗菌薬療法による生存率の顕著な改善が見られ死亡率は大幅に減少した。

・その後USおよびCT検査の出現により、腹腔内膿瘍は経皮的穿刺ドレナージで治療されることが多く、治療成功はこの手法で報告されてきている。

・経皮的ドレナージ(PCD)は一部の患者には適切であると認識されているが、この手術では高い失敗率(14.3〜75%)が観察され、外科手術は依然としてゴールドスタンダードの治療法である。

・経皮的CTガイド下ドレナージは、安全で、低侵襲で、適切な治療オプションであり、脾臓を保存する代替手段として使用される

・この手順は膿瘍の貯留が単包性で、その内容物が十分に液化されてドレナージされた場合に、成功する可能性が最も高い。 

・PCDに対する禁忌は、多包性膿瘍、中隔形成、粘度の高い内容物および出血を伴う膿瘍破裂である。

・脾膿瘍に対する腹腔鏡下脾臓切除術から得られる結果は有望

 

参考文献

Yonsei Med J. 2011 Mar;52(2):288-92.

Kaohsiung J Med Sci. 2003 Oct;19(10):510-5.

 


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