感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

黄色ブドウ球菌菌血症マネージメント: 治療編

2013-01-30 | 感染症
前回の続き。

2つの重要な原則を強調している。 まず、すべての感染病巣が同定され、可能であれば除去する必要がある。第二に、長期間抗菌薬療法は、持続的菌血症または深部、除去不可能な感染巣のそれらのために必要とされる。
これら以外の、重要な臨床疑問に対する答えのほとんどは不明である、とのこと。
セファゾリン治療は、感染症の深部の感染巣を持ち、高い細菌負荷を有する患者において失敗することがある。
腎毒性作用のリスクは、SAB治療(±心内膜炎)のためにアミノグリコシド相乗効果の可能な利点を上回る可能性がある。
グリコペプチド感受性の減少した黄色ブドウ球菌は、より弱毒で、菌血症疾患を引き起こすのはより少ない、かもしれない。
などの意見が面白かった。





SABの治療のためグリコペプチドはβ-ラクタムと同等か?

・観察研究はバンコマイシンがβ-ラクタム剤ほどは迅速に殺菌せずその結果持続的SABが続くことを示唆。 SABへのバンコマイシン治療は、メチシリン感受性または抵抗性か否かのいずれでも、疾患再発や死亡の独立した危険因子である。
・静脈薬物使用者のメチシリン感受性SAE治療への経験的バンコマイシン療法の使用は、高い帰属死亡率と関連し、たとえ感受性が利用可能になってバンコマイシンから他へ切り替えた場合でも同様。
・米国のMRSA臨床分離株の20年間の研究で、hetero-VISAは2.2%(1986-1993年)から8.3%(2003、2007年)へ増加が報告。 国際的な症例シリーズで、心内膜炎患者から分離されたMRSAの29%(65中の19)にhetero-VISA発見。
・バンコマイシンMICが1-2μg/ mLの黄色ブドウ球菌分離菌は、 MICが1μg/ mLの以下の分離株より、持続的なSABと乏しい臨床転帰に関連付けられていると報告。
・一方、台湾、米国からの二つの大きな研究で、バンコマイシン感受性減少と転帰悪化を示すことはできなかった。それはバンコマイシン感受性減少が、毒性の低下に関連付けられている可能性もある。
・代替の抗菌薬(例えば、リネゾリドまたはダプトマイシン)がGISAの治療にバンコマイシンより優れていることを示すデータはない。実際、いくつかの研究では、 バンコマイシンへの感受性減少と これらの薬剤に対する感受性低下の関連性を報告している


セファロスポリンは、SABの治療のためにペニシリンと同様に有効であるか?

・SABの治療におけるセファロスポリン系の大幅な使用事例経験にもかかわらず、その有効性を確認するため出版された証拠はほとんど存在しない。
・比較RCTは全く行われていないが、前向き観察研究では、一般的に使用されるセファロスポリンのほとんどはSABの治療のためにペニシリンと同様に有効であることが示唆。
・最も堅牢な有効性データは、広く米国で使用される第一世代セファロスポリンのセファゾリンのために存在。
・セファゾリン治療は、感染症の深部の感染巣を持ち、高い細菌負荷を有する患者において失敗することがある。 それは、セファゾリン-加水β-ラクタマーゼが原因の可能性あり。 いくつかの専門家は、このような患者でセファゾリンを避けることを勧める。
・第三世代セファロスポリン(セフォタキシムやセフトリアキソン)はMICが高いめで、黄色ブドウ球菌に対する効果がペニシリンより低いかもしれないという懸念がある。 しかし限定された臨床データだが、これらの懸念は根拠がないことが示唆された。 重篤なブドウ球菌疾患を持つ90人の患者(主に呼吸器、皮膚および軟部組織感染症)のセフォタキシムの治療は97%の治癒が得られた。同様の治療成功(> 90%)はセフトリアキソンで報告されている。


テイコプラニンはバンコマイシンと同様に有効であるか?

・重篤な黄色ブドウ球菌感染症患者21例(13名のSAB患者; 6名は深部感染巣)のRCTで、テイコプラニン(400 mg毎日)とバンコマイシンと(1g1日2回)を比較して、治癒率は同様であることを報告。
・重篤なグラム陽性感染症に対するVCMとの比較試験では、RCTが早期に中止(TEIC12 mg /kg最初の24時間、次から6 mg / kg、VCM15 mg / kg12時間毎)。 なぜなら、複雑性血管内黄色ブドウ球菌感染症に対して治療失敗は、VCM群で4名中 1人と比較し、TEIC群で8名中6人の患者が失敗したため。
・1994年に、公表•未公表データの分析からは、 TEIC 6 mg /kg 24時間毎 は、おそらくほとんどの黄色ブドウ球菌感染症に対しVCMと同程度に有効、と結論。 ただし 心内膜炎および敗血症性関節炎を除いて、その場合はTEIC 12 mg /kgを24時間毎、が必要になる可能性がある。
・投与前(トラフ)血清TEIC濃度が20 mg / L未満であるとき、心内膜炎とSABで治療失敗と関連している。  そして治療薬物モニタリングは、深部で除去不可能な感染巣を伴うSABを治療するためTEICを使用している場合に推奨されている。
・様々なグラム陽性菌感染症に対するVCMに対するTEICの有効性と安全性を比較した最近のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、全死因死亡率と臨床的または微生物学的失敗を比較するときは、TEICはVCMに対して非劣性であると結論。


SABのための療法の最適な期間とは何ですか?

・50年前はSABの2/3は心内膜炎と関連し、長期(≥4週間)点滴療法が必須とされてきた。 現在は血管内カテーテルがSABの最も一般的な原因であり、心内膜炎や感染症再発のリスクは感染源(カテーテルなど)が抜去されていれば低くなっている。
・ただ一つ発表されたRCTでSABの成人11名は静脈内治療2週間または4週間のいずれかに割り付けされ、2週間群で1名のみ心内膜炎発症(4週間群で0)
・残りの根拠は観察研究からのみ。1992年に、公表されたデータおよびレトロスペクディブ症例シリーズの分析は、抗菌薬静脈内投与の10未満の日数は再発リスク増加と関連しているかもしれないと結論したが、静脈内療法の10-14日間はカテーテル関連SABのほとんどのケースで安全だった。
・FowlerらのSAB治療ガイドラインでは、合併症のないカテーテル関連SABの治療に、抗菌薬静脈内7日間、の勧告が含まれていた。同様のテストし他の研究者はこの群の悪い結果を報告せず。 また静脈内療法の7日は、合併症を伴わないカテーテル関連SAB持つ49人の患者のレトロスペクティブレビューでも安全かつ有効であることが報告。
・2つの研究では、静脈内療法14日未満を受けた患者で合併症増加が報告され、カテーテル関連SABとがん患者の検討では、 このグループは高い合併症率を持っており、長期的な治療を必要とするかもしれないことが見出された。
・長期の静脈内治療(>4週間)は、 左側SAE、除去不可能な原発巣が存在、転移性感染、またはカテーテル抜去後の持続性菌血症の存在、の患者のための標準的な慣行のまま。このような患者は治療失敗、疾患再発、そして高い死亡リスクにさらされている。しかし、長期的な治療法(>4週間)が短いコースよりも優れていることを証拠はほとんどない。
・いくつかの研究では、2週間静脈内コースは右心系心内膜炎の治療に適切であることが示唆された


経口療法は、静脈内療法と同じくらい効果的か?

・2つのRCTは、いくつかの経口抗菌薬は静脈内抗菌薬と同程度に有効であることを示している。
・1つ目はSABの104名の成人で(カテーテル関連感染症55名、骨関節感染症35名、左心内膜炎患者は除外)、経口フレロキサシン+リファンピシンと、β-ラクタムまたはグリコペプチドの従来の静注療法に対する比較。 2つ目は静脈内麻薬常用者の 右心系心内膜炎患者85名で(65%がHIV感染)、静脈標準療法と経口シプロフロキサシン+リファンピシンを比較。
・初期期間の静注療法の後の経口抗菌薬法が、静脈内療法の継続法と比較して非劣性であるかどうかはまだほとんど試験されていない。
・2つのケースシリーズで、SAE35名とSABがん患者18名で、静脈内投与後に経口抗菌薬を続けての方法で治療成功を示した。 別の研究では、平均10日間の抗菌薬静脈内投与後、プロベネシドを伴う経口ジクロキサシリン4週間を続けて、SAEの9人の患者の治療成功を示した。


組み合わせ抗菌療法は、単剤療法よりも優れている?

・β-ラクタムとゲンタマイシンの相乗効果は、実験的に示されているがしかし、人での臨床効果についての証拠は、SAEの78人の患者の1報告に限られている。 この報告では、ナフシリン治療の最初の2週間にゲンタマイシンを添加すると菌血症の解熱及び期間に時間を1日短縮した。
・β-ラクタムの4つのメタ分析で、生体弁SAEの治療のためにアミノグリコシド系の有無にかかわらず、 死亡率または治療成功 は、アミノグリコシド添加の利益は認められなかったが、アミノグリコシドは著しく腎毒性と関連した。
・ゲンタマイシンはもはや日常の黄色ブドウ球菌生体弁心内膜炎の治療に推奨されていない。
・フルオロキノロン、リファンピシン、フシジン酸などこれら薬剤の日常的な使用を支持する証拠はほとんどないが、一般的にSABの併用療法で使用されている。
・様々な形態のSAB(87%は深部感染巣)のRCTで、標準静注療法とレボフロキサシン併用法を比較し、併用法は、全体的にも、またはいずれかのサブグループでも転帰を改善しなかったことがわかった。 予備的サブグループ解析で、リファンピシンを受けた人の深部感染巣を持つ患者の間で、改善された結果を見つけたが、しかし確証試験は不足している。


SABの治療における新しい抗菌剤の役割は何か?

リネゾリド

・SAB治療のために特別にリネゾリドの比較試験は行われていない
・SAB患者サブセットを含めグラム陽性菌感染症の範囲にていくつかの研究でLZD使用を検討。2つのメタ分析が含まれる。
・一つ目は、SAB 99人の分析で、重篤なブドウ球菌感染症に対するVCMとLZDの5つの比較試験に登録、両方の薬剤の結果相違の証拠は発見されず。 二つ目は6093人(255名はSAB)を含む12のRCTで、LZDはSAB治療のためβ-ラクタムまたはグリコペプチドよりもより治療成功に関連(OR 2•07 [95% CI 1•13–3•78])が、生存率改善と関連せず。
・リネゾリドはSAEの治療に有効であるかどうかは、依然として不透明。
・カテーテル関連血流感染症の726人(94名はSAB)で、無作為にLZDまたはVCMを割り当て、LZDは、同様の反応を示した (hazard ratio for death 0•70 [95% CI 0•34–1•44])

ダプトマイシン

・SAB治療におけるダプトマイシンの役割についてのデータは症例報告、治療登録、および1件のRCTから来ている
・2006年、Fowlerらの246名のSAB例(39%は心内膜炎)で、ダプトマイシン群(6 mg/kg every 24 h; n=124)(左心内膜炎ではGM併用4日間)とVCM or抗ブドウ球菌ペニシリンの標準療法群(N=122)(最初の4日間はGM併用) に無作為割り付け。2群間の治療成功に有意差なし(44•2% vs 41•7%, absolute difference 2•4%)。 有害事象は、標準治療群でより多くGM関連の腎機能変化がほとんど。 ダプトマイシン群において微生物学的失敗の非有意な増加あり(16% vs 10%; p=0•17)  以前VCMを受けたすべての人の持続的または再発性MRSA感染症の19名中6名の患者にてダプトマイシンMICは非感受性範囲に増加した。

・米国で1227人の患者の市販後レトロスペクティブデータベース、黄色ブドウ球菌感染症(30%はSABまたはSAE)でダプトマイシンのSABとSAEのための臨床的な成功は、それぞれ、88%、81%。 多変量解析では、ダプトマイシン治療失敗の予測因子が、心内膜炎、菌血症、重篤な腎機能障害、糖尿病。 事前バンコマイシン治療、VISA、ヘテロVISA、とダプトマイシンMIC増加との関係は不明。

・MIC増加に関連付けられているダプトマイシン治療失敗は、主に黄色ブドウ球菌感染症の深部感染、除去不可能な病巣と関連して報告。

・動物性心内膜炎モデルは、ダプトマイシン6 mg / kgを24時間毎、に満たない用量は感受性低下の出現と関連。また、10 mg/ kgを24時間毎 は、6 mg / kgを24時間毎 より優れた殺菌活性を有する。
・健康なボランティアで、12 mg / kgを24時間毎14日間、の用量を容認している。
・薬物登録データからは、少なくとも8 mg / kgを24時間毎の投与量は、忍容性と有効であることを示唆。

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