先日、総合内科外来からの紹介で不明熱を精査中で、CRP上昇と手背と足背の圧痕性浮腫pitting edema を伴った関節痛の方が受診されました。MMP3は高値、RFやACPAは陰性で、まっさきに RS3PE (Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema:圧痕性浮腫を伴う寛解性血清反応陰性対称性滑膜炎) Syndromeを思い浮かべましたが、どう精査をすすめていくか。あまりまとまった文献もないため、まとめてみました。
炎症の主座は伸筋腱鞘炎であること、エコーやMRI所見も有用であること、約半数が腫瘍随伴であること、その続発は10数年先かもしれないこと、トリガーとして一部の薬剤はありえること、などが興味深かったところ。
まとめ
・1985年に初めてMcCartyらにより記載された
・RS3PE患者は典型的には著明な圧痕性浮腫と、および握力と可動域減少を持つ、突然の発症の多発性関節炎
・50歳以上の者のうち、 PMRの有病率は10万人あたり739人 (ミネソタ州、USA の研究)
・日本の外来での研究で、PMRと比較すると、RS3PE症候群の頻度は、約3分の1であった(Rheumatol Int. 2012 Jun;32(6):1695-9.)
・血沈ESRは、通常は高い
・ANA 、 ANCA 、 RF、およびACPA、は陰性
・血管内皮増殖因子(VEGF)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP-3)の血清レベルの上昇は、潜在的に、病因に関与 として または少なくとも、症候群の可能性のある診断マーカーとして、報告されている
・滑膜組織は、RS3PEの主要な炎症性源
・磁気共鳴イメージング( MRI)によって明らかにされるようRS3PEの解剖学的要因は、主に伸筋腱鞘炎である。
・高周波超音波検査( USG )による遠位腱の腱鞘炎の証明も有用である (Clin Rheumatol. 2005 Sep;24(5):476-9.)
・MRIやUSGを正確に局所的な炎症プロセスを表示するために有用であるのに対し、 GA- 67シンチは、全身性滑膜炎の分布を検出することができる。
・正確なメカニズムは依然として不明であるが、上昇した血管内皮増殖因子(VEGF)活性がRS3PEの病因における重要な因子として記載。 VEGFは強力な血管新生性および血管原性分子でおそらく滑膜過多および皮下浮腫の原因に。(Ann Rheum Dis. 2005;64(11):1653–55.)
・1997年、Olivéらの RS3PE診断のための提案された基準は:(J Rheumatol. 1997;24(2):333-336)
1 )手の圧痕浮腫; 2 )急性発症; 3 ) 50歳以上の患者年齢; 4 )リウマチ因子陰性所見
・手の浮腫を見たとき医師は幅広い鑑別診断を考慮すべき。肝臓および腎疾患、うっ血性心不全、リンパ管閉塞、や蜂巣炎を考慮すべき。脂肪腫、および粘液水腫、なども。
・全身性硬化症、混合性結合組織疾患、痛風および偽痛風などのリウマチ性疾患や、関節リウマチおよびリウマチ性多発筋痛を常に考慮しなければならない
・以前は複数のリウマチ疾患とRS3PEの関連付けが文献に記載されていたが、八尾らは、臨床、検査所見に基づいて異なる実体、および遺伝的差異としてRS3PEを記述した。(Arthritis Rheum. 2010;40(1):89–94.)
・RS3PEは明らかにHLA-DR抗原に関連していない
・RS3PEは時折腫瘍随伴症候群を表すことが、関節リウマチと異なった、リウマチ性プロセスと考えられている
・RS3PE症候群は、いくつかの固形癌および血液学的疾患に起因する腫瘍随伴症候群として知られている
・最大の症例シリーズでは患者の多くは54 %が最終的に癌を発症し、そしていくつかの小さなシリーズでがんの診断はRS3PEの診断後15年まで行われていることを示す。
・このため、年齢に応じたがん検診をお勧めされる
・胃癌、リンパ腫、および前立腺癌などの悪性腫瘍との相関が報告されている
・前立腺、胃、大腸は、最も頻繁に関与臓器
・非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、 Tリンパ腫、肝細胞癌、子宮内膜腺癌または未分化肺癌との関連付けも報告されている
・血清マトリックスメタロプロテアーゼ3は、腫瘍随伴RS3PE患者における( MMP-3 )のレベル(中央値437.3 ng / ml)は、腫瘍形成のない患者に比べて有意に高かった (中央値114.7 ng/ml) (p< 0.05). (Mod Rheumatol. 2012 Aug;22(4):584-8.)
・症候群の可能性のあるトリガーとして、いくつかの薬剤および感染症因子、がある。
・しかし感染に関連した例があるが、単一で検出された感染症因子はこれまで同定されていない
・RS3PE症候群はめったに感染症や結晶誘発性関節炎を含む炎症性疾患にて続発して発生しないが、痛風に誘導されるRS3PE症候群の症例報告はある(Med Princ Pract. 2013;22(3):307-10.)
・RS3PEは薬物に関連することが示唆されている。
・山内らは、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤による治療に関連するRS3PEの2例を報告 (Diabetes Care. 2012;35(2):e7.)。
・基礎に悪性所見を有する患者においてインスリン療法に関連したRS3PE発症のまれなケースについて報告(Am J Case Rep. 2014 Mar 21;15:119-22.)
・低用量ステロイドの経口投与は原疾患に関係なく、RS3PE症候群のための選択治療
・悪性腫瘍に関連しない限りRS3PEは通常、低用量コルチコステロイドまたはヒドロキシクロロキンに非常によく反応する
・RS3PEおよびリウマチ性多発筋痛(PMR)の患者した患者の臨床的特徴を比較した論文(J Rheumatol. 2012 Jan;39(1):148-53.)
・年齢、併存疾患、赤血球沈降速度、持続時間と症状の進行、低用量ステロイド当初、治療応答、およびステロイド合併症率は両群で同等
・RS3PEの患者は男性である( 41%対79%、p= 0.001 )、喫煙歴あり(15 %対39% 、p= 0.008 )、診断時うつ病率が高い(2%対11%、p= 0.044 )ことが多かった
・RS3PEでは、PMR群よりも股関節痛があまり一般的でない( 39%対74% ,p= 0.001 )
・フォローアップ中に別のリウマチ性疾患を発症したのは、RS3PEの0名と純粋PMRの6名 ( 4.9% )
・同時に癌を持つ9名中7名の患者(78%)が癌でない患者に比べて、全身症状をより頻繁に提示( 48%,p= 0.098)、特に疲労感(56%対22% p= 0.037)、食欲不振(9.0 %対33% p= 0.047 )
参考文献
Am J Case Rep. 2014 Mar 21;15:119-22.
Acta Derm Venereol. 2013 Jul 6;93(4):491-2.
Arch Dermatol. 2012 Oct;148(10):1217-8.
Med Princ Pract. 2013;22(3):307-10.
J Rheumatol. 2012 Jan;39(1):148-53.