感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

結節性紅斑のレビュー

2012-10-12 | 内科
先日当科外来に皮膚科より下肢の結節性紅斑の反復例の紹介があり、内科的な原因精査のため受診された。すでに皮膚生検は施行されており脂肪織炎であったのは分かっている。多岐にわたる原因鑑別疾患があり、ほとんど不明熱原因リストと同様であることが分かる。このかたはHCV抗体陽性と分かっているので、まずはこのあたりを考慮するが、さて…。



Etiology
・病因のリストは、感染症、薬剤、悪性疾患、など多種雑多であり、スペインでは小児は溶連菌感染が、成人では他の感染症、薬物、サルコイドーシス、自己免疫疾患、炎症性腸疾患などが頻繁な病因である。
・溶連菌関連のENは、咽頭感染後2-3週で発症、ASO高値伴う、溶連菌抗原に対する皮内テスト陽性。EN発生時の咽頭培養では通常は菌を検出しない。
・結核は南欧では珍しい原因、ほとんど小児、ENは原発性肺感染を示す。
・薬剤は頻繁に原因となる。サルファ、臭化物、経口避妊薬が一般的に認識。しかし可能性のある薬剤は非常に多い。
・ENと両肺門リンパ節腫脹が頻繁にサルコイドーシス初期症状(Löfgren's症候群)と認識される。しかしこの組み合わせは、リンパ腫、結核、連鎖球菌感染症、コクシジオイデス症、ヒストプラスマ症、およびクラミジア肺炎などにも関連しうる。
・炎症性腸疾患ではENは先行発生よりは疾患再燃と相関。クローン病よりは潰瘍性大腸炎により頻繁に関連。
・ベーチェット病の患者の多くでEN様皮疹を発生、病理組織ではかなりの割合で白血球破砕またはリンパ性血管炎の所見と小葉生脂肪織炎を示す
・Sweet's症候群と結節性紅斑の同時発生はまれではないかも知れない
・徹底した精査でもENの原因診断は37-60%で未確定のまま

Pathogenesis
・ENは多様な要因により惹起される過敏反応である。
・おそらく皮下脂肪の結合組織隔壁の細静脈とその周辺における免疫複合体やその堆積物の形成に起因する。循環する免疫複合体及び補体活性化が記録されている。直接免疫蛍光法の研究では皮下脂肪隔壁の血管壁に免疫グロブリンの沈着を示している。遅延型過敏反応の機序が示唆されている。
・早期病変は、皮下組織織隔壁への好中球浸潤を伴う炎症である。

・サルコイドーシス関連の結節性紅斑では、病原遺伝子促進多型に起因する変化型TNFα生産に関連しているかもしれない
・一方で、感染症や非感染性疾患に関連した紅斑結節性で、血清中IL-6濃度増加を示した

・病変はなぜ脛に多いか? 理由は不明であるが、静脈系の重力の影響、比較的まばらな動脈供給、不十分なVolume負荷のリンパ系、などの要因。

Clinical features
・発症は全年齢で可能性あるが、20-50歳で発生、ピークは20-30歳代(おそらくサルコイドーシス発生率が高いから)
・女性で3-6倍、男性より多い、 小児では男女同じ
・左右対称性の突然の発症で、圧痛、発赤、熱感のある結節と隆起した斑で構成され通常は脛、足首、膝に位置する
・最初は結節は明るい赤色を示し、若干皮膚より隆起。数日以内に青黒い赤や紫がかった色となり平坦となる。最後にはしばしば深いあざ(挫傷様紅斑contusiformis)の外観、contusiform色への変化はENに特徴的。潰瘍化はみられない。
・ENの急性発作では、38℃~39℃の熱、疲労、倦怠感、関節痛、頭痛、腹痛、嘔吐、咳、下痢など伴う
・一般的に3~6週間続くが、超えることも珍しくない、再発も珍しくない
・遊走性結節性紅斑、亜急性移住性結節性脂肪織炎、慢性結節性紅斑結節性紅斑は、同じスペクトル内に含めることができる臨床変種

Laboratory anomalies
・病因診断は広範囲であり、合理的かつ費用効果の高いアプローチが望ましい。完全な病歴聴取(既往歴、投薬内容、旅行歴、動物接触、趣味、家族歴、など)
・初期評価は、血算CBC、ESR、ASO価、尿検査、咽頭培養、皮膚ツ反、胸部X線 など
・ESRは多くの場合、非常に高く、発疹が消えてきた時に正常に戻る
・ADO価は、2-4週間隔での検査で有意な変化(少なくとも30%)があれば最近の連鎖球菌感染を示唆

Histopathology
・病理組織学的には、結節性紅斑は血管炎を伴わず、ほとんどが隔壁脂肪織炎である。皮下脂肪の隔壁は肥厚し脂肪小葉の傍隔壁野に及ぶ炎症性細胞が浸潤。真皮上層で浅部および深部の血管周囲に炎症細胞浸潤がみられる。
・浸潤するものは病期により異なり、初期病変では、浮腫、出血、および好中球が隔壁肥厚に責任があり、後期病変では、線維化、傍隔壁肉芽組織、リンパ球、組織球、多核巨細胞が主な所見。
・時に炎症細胞が脂肪小葉の周囲にまで及ぶこともあるが、真の小葉性脂肪織炎(硬結性紅斑)とは対照的に脂肪小葉の中心にある脂肪細胞の壊死はみられない。
・ENの病理組織学的特徴は、いわゆる "ミーシャのラジアル肉芽腫Miescher's radial granulomas "の存在。 初期病変では、ミーシャのラジアル肉芽腫が隔壁に散在表示され好中球に囲まれている。ENが進行すると組織球は癒合して多核巨細胞を形成し、この細胞質内にミーシャのラジアル肉芽腫の中心の星型の裂け目構造は保持されている。
・最近の免疫組織化学的研究で、ミーシャのラジアル肉芽腫の中央裂はミエロペルオキシダーゼを発現していることを実証した。これは骨髄細胞がミーシャの肉芽腫形成のいくつかの段階で存在していたことを示唆。

Prognosis
・EN症例の大部分は3~4週間で自然に退縮。 合併症はまれ。

Treatment
・病因が識別されれば、治療はそれに向けられるべき。 安静はしばしば十分な治療法。
・アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬を鎮痛や回復向上に。 病変が長期化すれば、1日400~900 mgのヨウ化カリウム投与、2~10滴の水へ滴下のヨウ化カリウムの飽和溶液、やオレンジジュース1日3回は、有用であることが報告。
・ヨウ化カリウムの作用機序は不明であるが、それは肥満細胞からヘパリン放出を惹起、ヘパリンは遅延型過敏反応を抑制すると推測。 またヨウ化カリウムは好中球走化性を阻害する。
・全身性コルチコステロイドはめったに結節性紅斑に指示されない
・一部で、コルヒチンやヒドロキシクロロキンの有用性を報告



参考

Dermatologic Clinics Volume 26, Issue 4 , Pages 425-438, October 2008

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