感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

関節リウマチとタクロリムス

2014-10-17 | リウマチ

タクロリムスなどの免疫抑制剤はRA治療の主役ではないが、前回取り上げましたミゾリビンのように、他の抗リウマチ薬や生物学的製剤が使用できない状況、間質性肺炎、腎障害、などで選択肢となりうる。 

タクロリムス(プログラフR)と有害事象とくに感染症について主に文献からまとめてみました。

有害事象は移植患者などでの高用量でTAC濃度≥10 ng/ mlあたりなら増加するが、RAで使用されるような用量で濃度が5 ng/ mlあたりまでであれば発生率増加はわずかで、感染症の大半は軽微と思われる。高齢者には1.5→3mgの漸増導入でより安全に使用できるようだ。

 

添付文書から、注意すべき点は

 

・副作用の発現を防ぐため、およそ投与12時間後の血中濃度を測定し、投与量を調節する

・腎障害の発現頻度が高いので、頻回に臨床検査(Cre,BUN,CCr,尿中NAG,尿中β2MG等)を行う

・高血糖、尿糖等の膵機能障害の発現頻度が高いので、頻回に臨床検査(空腹時血糖、アミラーゼ、尿糖等)を行う

・高カリウム血症が発現することがあるので、頻回に血清カリウムの測定を行う。なお、カリウム保持性利尿剤(スピロノラクトン、カンレノ酸カリウム、トリアムテレン)の併用は禁忌。

・薬物代謝酵素CYP3A4で代謝されるので併用薬に注意

 

 

まとめ

 

・タクロリムスは、ヒトT細胞増殖の強力な阻害剤であり、そしてTリンパ球タクロリムス結合タンパク質に結合し、カルシニューリンを阻害することにより、活性化T細胞における細胞核因子の核転座を阻害する。カルシニューリンの阻害は、抗原刺激されたインターロイキン-2(IL-2)T細胞上のT細胞産生およびインターフェロン-γ、腫瘍壊死因子、およびIL-2受容体発現の減少をもたらす。

・T細胞活性化およびRAの病因におけるその役割、およびその免疫調節作用のために、 タクロリムスは、臨床的利益を有することが期待される。

 

・Lee YHらのTACのRA治療のRCTのメタアナリシスでは、タクロリムス群では、すべてのシステムの有害事象を経験する患者の発生率は、プラセボ群よりも高かった(RR 1.214, 95% CI 1.066–1.384, p = 0.004)。プラセボ対照群の患者の9.4%と比較して、治療は有害事象によって1.5~2 mgと3 mgのタクロリムス群の患者の12.6~14.1%にて中止された。

3mgのタクロリムスはプラセボよりも有害事象をより引き起こしたが、これは統計的有意性には達しなかった (RR 1.475, 95% CI 0.895–2.187, p = 0.053)

・1.5-2 mgのタクロリムス誘導毒性が原因による中止は比較的低かった、そして タクロリムス1.5-2 mg とプラセボ の間で安全性の面で、有意な差は観察されなかった(RR 1.306, 95% CI 0.751–2.213, p = 0.321)

 

 

・Kawai Sらの≥ 65歳歳の高齢患者のRAでの研究で、タクロリムスはすべての患者でまず1.5mg/日で開始し用量漸増基準を満たした患者のみに3 mg /日まで増量した(最終的にほぼ半数が1.5mg)。タクロリムスの平均血中濃度はそれぞれ1.5と3.0mgの毎日を受けている患者において3.3と5.3 ng / mlであった。その濃度と副作用の間には関係が認められなかった(血清Creデータ)。

・本研究では、タクロリムスによる治療を受けた患者で感冒を発症した2名と、食道カンジダ症を発症した1名は薬物中止を必要とした。

・25/ 57名の患者で臨床的有害事象が発生(46.3%)、 そして10名(18.5%)は感染症を発症。内訳は感冒やインフルエンザは7名で報告され、3名は上気道感染症に分類された。9名はタクロリムス投与を継続しながら感染症が解決され、1名のみがタクロリムス中止後解決した。

・本研究では、  腎機能障害は、8人の患者で血清クレアチニン増加、と11人の患者で血中尿素窒素増加、によって示された。これらの患者のうち2名はタクロリムスの中止につながった。

 

・Takeuchi TらのRA患者のTAC市販後調査(PMS)プログラムでの3172名(平均62.2歳)の評価では(52%がTAC単独、28%はMTXと併用)、有害事象(AEs), 重症AEs (SAEs), 薬物有害反応(ADRs) と重症ADRsの発生率は、それぞれ41.2、6.4、36.0、および4.9%であった。 最も頻繁な重症ADRカテゴリは、感染症および寄生虫症だった。

・年齢≥65歳、腎機能障害併存、および糖尿病併存は、ADRのための重要な危険因子として同定された。

 

 

・タクロリムスの血中濃度は、腎移植レシピエントにおける有害事象と密接に相関することが以前に報告されている; 有害事象の高い発生率は、より高いタクロリムス血中濃度(≥10 ng / ml)の患者において観察された。

 

・Kelly Dらの小児の肝臓レシピエントでの研究では、全体的な感染症発生率は、タクロリムス(88%)とシクロスポリンME(82%)で類似、しかしEBウイルス感染の発生率は、シクロスポリンME群と比較して、タクロリムス群において高かった(26% vs. 11%; p = 0.0048)。

 

・Shepherdらの2291名の小児肝移植レシピエントのデータ分析からは、感染は死亡の46%に直接/間接的に寄与し、主に細菌性敗血症に起因する死亡の最も一般的な原因であった。感染症リスク(relative risk 1.49; p < 0.0001) がタクロリムスと比較してシクロスポリンによる治療を受けた患者の方が高かった 。

 

・Asamiyaらのループス腎炎のためTACの研究では、副作用は5/17例で観察されたが、副作用発生率と血中タクロリムスレベル間で何の関係も認められなかった(平均タクロリムス血中濃度3.9_2.1/ ml)。.14

 

 

・タクロリムスのランダム化コホート研究やRCTでは一般的に、ステロイド漸減中止戦略がHbAc1や感染症リスク(BKウイルスおよびCMV疾患)を低下させる利点を有することを示した

 

・移植レシピエントにおけるタクロリムスの経験に基づき、およびRA患者における日米の臨床研究の結果から、腎機能障害がタクロリムスを受けている患者では問題になると思われる。

・腎機能障害を有する患者でこの薬物を投与する場合は注意が必要で、血清クレアチニン上昇が発生した場合にその減量が考慮される。

・薬剤の主要消失臓器は消化管と肝臓なので、腎機能による投与量調節は必要なく透析患者でも通常量を使用できる

 

・タクロリムスは、通常、移植レシピエントに推奨されるものよりも低い用量でRA患者に投与されているので、感染症は以前の研究によって示唆されるように、RAの治療におけるタクロリムスの使用に安全上の懸念が少ない可能性が高い

 

・タクロリムスはまた、薬剤耐性に関与しているP-糖タンパク質の機能を阻害する。MTXを含む抗リウマチ薬に耐性のRAに対する追加治療として有用である可能性がある。

 

 

参考文献

Rheumatology (Oxford). 2006 Apr;45(4):441-4.

Pediatr Transplant. 2011 Feb;15(1):19-24.

Lupus. 2011 May;20(6):636-40.

Scand J Rheumatol. 2010 Aug;39(4):271-8.

Rheumatology (Oxford). 2006 Apr;45(4):441-4.

Mod Rheumatol. 2014 Jan;24(1):8-16.

J Rheumatol. 2010 Mar;37(3):512-20.

 


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