感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

リウマチ患者教育 -患者の薬剤知識について-

2016-05-27 | リウマチ

先日、この地方でのリウマチ診療に携わる各医療従事者のための定期的勉強会で、リウマチ看護とケアについてのお話をしました。看護とケアといっても膨大な文献があり、さまざまな角度もあって、なかなか講演スライドがまとまりませんでした。その文献的なまとめを今回から少しずつ書いていきます。今回は、患者教育- 患者の薬剤知識について です。当科でも定期的にリウマチ市民講座を行っておりアンケートもとっていますが、要望として一番多いのが、治療や薬剤知識、副作用についての情報です。リウマチ友の会の2015年リウマチ白書でも、医療への要望に治療法の確立、不安なことに薬の副作用が入っており薬剤知識に対するニーズは高いと思われます。文献ではどうでしょうか。


まとめ

・疾患に適応し治療の効果に対処するためそれらを可能にするよう関節リウマチRAなどの慢性疾患と共に生きる人々のための患者教育は非常に重要である。

・病気や治療に関する情報は、リウマチ専門医やかかりつけ医によりそしてますます専門看護師によって提供されてきている。

・RA患者におけるいくつかの研究は、疾患、医療ケア、薬物療法または医療専門家からの治療に関しての知識の欠如や情報ニードを実証した [Arthritis Rheum. 2005 Apr 15;53(2):249-55.] [Clin Rheumatol. 2009 Sep;28(9):1073-7. ]

服薬遵守性アドヒアランスを向上させるために、服薬の必要性の信念やその懸念に対処することの重要性を強調している。

・副作用への患者の恐怖は、薬剤治療開始や変更でキーとなる障壁である。その非アドヒアランスは多くの場合、彼らのいまの薬物療法に関連した副作用に起因することを示唆する証拠があった。[Rheumatology (Oxford). 2004 Aug;43(8):1034-8.]

・患者はますます自身の疾患の専門家とのオープンな通信チャネルを持つことを望んでおり、医療情報をインターネットで検索し、積極的に重要な医学的判断を行う際に参加を熱望している。

 

メトトレキサート(MTX)知識 

・フランスの病院でアンケートによる関節リウマチ患者におけるMTXに関する知識を評価した。 [J Clin Nurs. 2016 Mar;25(5-6):682-9.]  週ごとの投与方法(97%)、避妊が不可欠(出産年齢の女性の90%)、葉酸は治療毒性を低減すること(67%)、アルコール消費量は制限される(75%)、などは比較的良好であったが、 トリメトプリム併用が禁忌であること(21%)、血液学的リスクあり(50%)、過敏性肺炎の危険性(36%)、避妊が不可欠(男性で13%のみ)、などでは低かった。 低い知識スコアは年齢や低い教育レベルと有意に相関した。関節リウマチの治療の期間とは無関係。

  ※トリメトプリムとの併用;日本では禁忌ではないが、併用注意に。

表    :  正確な応答の割合(%)

  • MTXの薬効メカニズムは疾患修飾薬である   80%
  • 遅延作用である    43
  • 症状の消失しても停止してはいけない  97
  • 痛み度合いに応じて投与量調整してはいけない 80
  • 最大投与量は許可  43
  • 週1回の投与である  97
  • 葉酸はMTXの毒性を減少さる  67
  • その高用量ではMTX有効性を低下させる 14
  • それはMTXの有効性を増加させない  37
  • トリメトプリムと併用しない  21
  • 鎮痛剤との相互作用注意
  • NSAID 54
  • コルチコステロイド 39
  • DMARDs  55
  • 抗菌薬との相互作用注意 77

  • 副作用
  • 血算 50
  • 過敏性肺炎  36
  • 投与中止する副作用:癌  29
  • 梗塞  20
  • 消化性潰瘍  50
  • 血液検査監視スケジュール必要  81

  • ライフスタイル
  • 避妊の必要性  30
  • 男性で受胎3ヶ月前に服用停止する必要 39
  • アルコールは制限される  75
  • 不適用禁忌:ワクチン  66
  • 手術前2ヶ月前に停止するべきではない  39
  • 抜歯前に停止するべきではない 52

・米国Bartonらはアンケートを電話で実施。血球減少(27%)、肺過敏症(23%)、先天性欠損症危険(男性で22%)が知識不良だった。調査群のなかに、東洋人やヒスパニック系など非英語使用者が多く含まれ、語学的なハンディが調査に影響したと考察されていいる。 [Arthritis Res Ther. 2013;15(5):R157.]

  • 1.週1回投与80
  • 2.アルコール消費53
  • 3。 血液検査モニタリングの頻度 84
  • 4a。 催奇形性(女性<50)81
  • 4b。 催奇形性(男性)22
  •  
  • 副作用の可能性
  • 5.吐き気42
  • 6.血球減少症27
  • 7.口内炎43
  • 8.過敏症肺炎23
  • 9.肝毒性57
  • 10。葉酸の役割 64
  • 11。メトトレキサートは疾患修飾剤 64
  • 12.計算:1週間の総投与量66
  • 13.計算:同じ日に分割用量 60

 

生物学的製剤知識

・これまでに、生物製剤治療における知識やスキルを評価するための充分なツールはなかったがフランスリウマチ学会が指導的に、生物製剤によって治療されている患者のために、その薬剤に関する知識とスキルを測定するためのアンケートを実施。 

生物製剤の安全性:患者のセルフケアの安全のスキルを評価するアンケートの精緻化と検証。リストは24スキルがあり、発熱、計画された外科手術、歯科医療、旅行、マイナー外傷、および予防接種に対処する方法例えば含まれている。 55問のアンケートを構築 [Joint Bone Spine. 2013 Oct;80(5):471-6. ]   →表は、元論文をご覧ください

・患者の能力のスコアは0-100スケールのうち、平均72、および中央値76。最低スキルは子受胎計画48と予防接種65のドメインにのために認められた。

・安全スキルアンケートを使用して、生物学的製剤により治療されたRA患者の安全意識とスキルに関する教育プログラムの効果を評価した。 [Joint Bone Spine. 2016 Mar;83(2):233-4.]  疾患や薬、関節保護、自己注射を学び、患者は続いて1、3、6ヶ月後にフォローアップされた。年齢、疾患および生物学的治療期間は、スコアに影響を与えず。皮下注射で治療された患者は最初の評価ではより良いスコアを持っていたが、6か月目に維持されなかった(p=0.03)

このスコアは、教育的介入の有効性を評価するため、さらなる教育ニーズを検出するため、有用であり得、また、教育的介入中の補助教材として使用することができる。

  

・薬剤に関する情報は、診断と同時に与えられた場合は特に患者の知識や情報の評価は、定期的に繰り返す必要がある。ある研究は、医師によって口頭で提供される情報の40~80%は、すぐに忘れられ、保持されている情報の半分が不正確であることを示している.薬剤に関する情報は、診断と同時に与えられた場合は特に患者の知識や情報の評価は、定期的に繰り返す必要がある。 [J R Soc Med. 2003 May;96(5):219-22.]

・アイルランドの研究で、メトトレキサート情報冊子を使用しその価値を評価するため簡単なアンケートを実施した。 6ヶ月の時点で、葉酸を飲むわけ、なぜ生物学的モニタリングが行われるか、避妊の必要性、副作用などよりよい知識を示した。口頭での指導だけでなく情報を記録した冊子などでの教育効果の持続を示唆。  [Clin Exp Rheumatol. 2009 Jul-Aug;27(4):649-50.]

・日本でのメトトレキサート情報冊子例として、日本リウマチ学会の「メトトレキサートを服用する患者さんへ」がある。 上記、米国やフランスの文献に取り上げられたMTX関連の知識は、この冊子でもほとんどは盛り込まれていたが、主治医によって判断の分かれそうな、相互作用で注意すべき具体的薬品名、手術前や抜歯前に停止しない、などは記載なし。この辺りは、主治医よりある程度 患者説明しておく方がいいのかもしれない。

・生物学的製剤に関しては、患者向けには各製薬会社のホームページたとえば 「オレンシアによる治療を受ける方へ」があるが、上記の、フランスリウマチ学会の生物製剤を受けている患者のためのスキルチェックアンケート表と比べると、 自己判断でBioを停止しない、発熱のあるときには注射しない、受胎は計画的に、外科的介入時注意、生ワクチンは禁、通常予防接種は更新する、などが記載なし。 やはり医療現場指導では既成の冊子などをそのまま使うのではなく、主治医によりこのあたりの情報を補っておく必要がある。

※医療者向けにはリウマチ学会の「関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドライン (2015年3月12日改訂版)」などがあり妊娠や周術期などに関して詳しい記載がありますが、予防接種とのことがらについては記載ありません

 

 


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unintentional non-adherence (Dr.M)
2016-05-31 22:26:43
先日はありがとうございました。
いつも大変勉強になります。
アドヒアランスに関しては、いつも深く考えさせられます。
Unintentional non-adherenceなどの言葉のチカラで医療者側のバイアスを除いて、よりよい対応を考えてゆきたいと思いました。
http://bmchealthservres.biomedcentral.com/articles/10.1186/1472-6963-12-98

Internet of Things や Internet of Everything の技術革新でアドヒアランスも新たなステージに向かっているようです。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27071892
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わざとではないミス (志智)
2016-06-01 08:33:45
DrM、コメント有難うございます。アドヒアランスに関して、Unintentional という言葉があるのですね。確かに、医療者側はわざと飲んでくれなかったと思いがちですが、ミスの要因をいろいろ検索すべきですね。服薬タイミングを助けるアプリなどの登場もありこういった情報も提供すべきですね。
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