感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

薬剤性筋障害について、特にスタチン

2014-03-05 | 免疫
2週間前からの全身の痛み、四肢筋力低下、血清CK値7700と上昇あり、多発性筋炎など膠原病疑いにて当科紹介あり入院されました。しかし膠原病を示唆する他の所見に乏しく、近医から胃腸薬、NSAIDs、Ca拮抗薬とスタチン(プラバスタチン)が処方されており、薬剤性筋障害について調べてみました。 スタチンは大規模に使用されている薬ですので筋障害の頻度は高くないと思われますが注意は必要です。 処方開始前のCK値確認、CYP阻害剤との併用注意、筋症状出現時の鑑別診断、などが大事なところ。



まとめ

・薬剤性筋疾患をおこす薬として、スタチン、ダプトマイシン、イマチニブ、ヒドロキシクロロキン、および高活性抗レトロウイルス薬など
・筋毒性薬は、直接ミトコンドリア、リソソーム、および筋原線維タンパク質などの筋肉の細胞小器官に影響を与える、または筋肉抗原を改変および免疫または炎症反応を生成、または電解質または栄養バランスを乱す、などによって様々なメカニズムを通じて筋障害を引き起こす
・筋障害の症状は一般的に、薬物の投与後数週間または数ヶ月に発生

・CKレベル上昇は毒性筋障害の診断に十分ではなく、筋生検は、筋毒性の根拠の記録、筋力低下やCK上昇の他の原因の鑑別のためしばしば必要、 薬剤性筋障害は他の筋症状をきたしうる原因を鑑別しての、除外診断である。

・薬物誘発性ミオパチーの主要な病理学的種類
•壊死性ミオパチーと横紋筋融解症(スタチン、フィブラート、ε-アミノカプロン酸、アルコール)
•ミトコンドリアミオパチー(ジドブジン、クレブジン、スタチン)
•リソソーム/オートファジーミオパチーとneuromyopathy(クロロキン、ヒドロキシクロロキン、アミオダロン、ペルヘキシリン)
•微小管ミオパチーとneuromyopathy(コルヒチン、ビンクリスチン)
•筋原線維筋障害(エメチン、急性四肢麻痺ミオパチー)
•タイプ2線維萎縮と筋症(グルココルチコイド)
•炎症性筋疾患(スタチン、インターフェロン-α、D-ペニシラミン)

・スタチンによる壊死性筋疾患は、筋線維の壊死を引き起こし、二次的にマクロファージなどの炎症細胞が関与
・スタチンは、臨床において筋関連の合併症を約10%で発症する。  ランダム化比較試験では筋肉痛の発生率は1.5%~3.0%の範囲の報告
・筋障害が 10万人年あたり5人の患者で、横紋筋融解症は10万人年あたり1.6人の患者で発生の報告
・スタチンは、筋肉痛および無症候性血清クレアチンキナーゼ(CK)上昇から、重度壊死性ミオパチー、まれに致命的な急性横紋筋融解症、ミオグロビン尿症、腎不全に至るまでの臨床スペクトラムを持つ
・診断基準は、スタチン関連筋痛の定義については、存在しない
・スタチンはまた、炎症性筋疾患または免疫介在性壊死性筋疾患の開始またはマスク解除につながることもある。薬剤中止のみでは改善せず、抗免疫療法を必要とする
・スタチンは、既存の代謝性ミオパチーや、重症筋無力症などの他の神経筋疾患を悪化させたりマスクを解除しうる。

・スタチン内でのリスク:セリバスタチン>アトルバスタチン>シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン>フルバスタチン
・スタチン誘発性ミオパチーの危険因子
ゲムフィブロジルとスタチンとの2剤併用療法
基本的な筋疾患(筋ジストロフィー、筋疾患、代謝、炎症性筋疾患)
遺伝的素因(例えば、SLCO1B1)
チトクロームP450[CYP3A4]阻害剤と薬物間相互作用

・シトクロムP450酵素CYP3A4:アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチンはこれで代謝される (プラバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチンはことなる) CYP3A4阻害薬物の同時投与は、これらスタチンの血清半減期に影響し筋毒性リスクを高める。
・スタチンとの干渉で筋障害を引き起こすことが報告されている薬剤は、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ミベフラジル、ベラパミル、ネファゾドン、シクロスポリン、ジルチアゼム、イトラコナゾール、シタグリプチン
・新規スタチン使用者の25%がスタチン療法の最初の年に併用してCYP34A4阻害剤を処方されていたことを示した

・スタチンとフィブラート系薬剤の併用投与は、横紋筋融解症のリスクを増加させる。特にゲムフィブロジルは、フェノフィブラートより10倍以上のリスク。

・クレアチンキナーゼ(CK)レベルは、スタチンを開始する前に全ての患者において測定されるべき
・臨床医は、スタチンを処方する前に、スタチン関連の筋症状の家族歴、甲状腺機能低下症の既往、血清CK上昇有無(潜在的な不顕性ミオパチーで)を知っておくべき。
・ベースラインで高CK血症は、基礎となる筋障害を示唆し、これら患者においてスタチン治療を注意深く監視するかまたは別の薬物を用いる。
・CKの正常範囲は、性別、運動、民族性に依存してさまざまであることにも注意する。基準範囲内の結果とともに患者が筋肉損傷を有することもありうる。CKの軽度の増加を検出するための方法としてベースラインの一連のCKテストで相対的な変化をみる。

・スタチン使用前のCK値が軽度上昇(250から2500 IU / L)で無症候性患者では、スタチン開始後筋障害をおこさなかったとのプロスペクティブ研究があり、この範囲の患者でスタチン開始を避けるべきではない

・スタチン使用中の、正常の3倍未満の高CKレベルを有する無症候患者は、スタチン継続できるがモニターするべき。正常の10倍以上、またはミオグロビン尿の患者は即時にスタチンを中止する。
・重度の筋肉痛および血清CKレベル上昇の発生時は、スタチンは停止するべき、患者はミオグロビン尿、腎機能悪化のため厳密にモニターする。
・筋肉痛の発生では、線維筋痛症、甲状腺機能低下症、既存の筋障害、ビタミンD欠乏症などのCK上昇の有無にかかわらない筋肉痛の他の原因を除外すべき。

・ビタミンD欠乏症は、スタチン誘発性の筋肉痛のリスクを増大することが示されている

・スタチン治療を中止すると2から3ヶ月以内に、症状の改善、 CKの正規化、および筋生検の変化の逆転をもたらす
・症状が改善しなかった患者、 または継続的な筋力低下があるときは、 筋生検は自己免疫性筋疾患または炎症性壊死性筋疾患かどうかをみるため検討。これらではコルチコステロイドや免疫抑制薬(例えばメトトレキサート)による治療を必要とする。

・症状改善後に、スタチンを低用量で再投与するかどうかに関するコンセンサスはない。
 選択肢として
 プラバスタチンやフルバスタチンなどの筋毒性のリスクが低いと考えられている別のスタチンにする
 比較的長い半減期のアトルバスタチンまたはロスバスタチンの非連日投与(週2~3回)




参考文献:
Curr Neurol Neurosci Rep. 2012 Feb;12(1):54-61.
Neurol Clin. 2011 Aug;29(3):679-87.
Curr Rheumatol Rep. 2010 Jun;12(3):213-20.

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