感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

パルボウイルスB19と関節炎

2014-06-02 | 感染症

多関節炎、リウマチ疑いにて近医から紹介いただき受診された方。5月の中旬以降から急激に全身の関節の痛み、腫れ、発赤もあり動けないくらいでした、しかし5月下旬に当科外来にきたときはほぼ症状は消失し触診でも関節炎所見は認めませんでした。“孫の世話をして疲れがでたのかしら”といわれたため、お孫さんの最近の病歴を尋ねましたところ“5月の連休ころ、熱をだして小児科にいっておたふくかぜといわれた”とのこと。ほっぺは赤くなかったかを尋ねると“そうです。そのうち顎も腫れるといわれたけど結局腫れなかった”ということでしたので、パルボウイルス感染症(いわゆるリンゴ病)を疑いました。結果、血清IgMが陽性で診断できました。 パルボはウイルス性関節炎の原因としてしられています。まとめてみました。



まとめ

・パルボウイルスB19 は1975年に偶然発見された
・1981年に慢性溶血性貧血を持つ患者での再生不良性危機の原因として、1983年に伝染性紅斑の原因として認識、1985年にはじめてこのウイルス関連の関節症状が記述(Lancet 1985; 1: 419-421)
・B19感染関連の関節症状は通常、手、手首、膝の小関節に影響し、自然軽快性の、急性対称性多発性として提示され、成人に最も頻繁に発生する。 少数の患者では、関節リウマチを模倣した慢性多発性関節炎が持続する。
・感染は呼吸経路によって広がり、約50%の家庭での感染伝播率を有している
・成人におけるB19血清有病率は、80%を超える
・自然感染では、潜伏時間は、典型的には 6~18日。
・ナイーブ被験者ではウイルス血症期にウイルスは鼻および口腔咽頭分泌物にみられる(尿や便はない)、この時期は25%~68%において無症候性であるが、一過性の発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛などの感冒様症状を伴いうる。
・感染後15~18日の、抗体応答期においては発疹、関節痛、関節炎が生じる。この段階の症状は一時的な抗B19 IgM産生に関連している。B19 IgM抗体応答は感染後10~12日で存在し、通常は感染後3~4カ月以内に消える。
・B19感染に関連する関節痛は、感染小児の約5%および成人の80%で発生。同様に関節腫脹は小児の10%、成人の60%に記載されている。
・小児では関節症は、ほとんどの場合、非対称性かつ少関節(主に膝)で、B19感染の最も一般的な臨床症状(伝染性紅斑の「平手打ち頬」発疹、または第5病)に先行されるかまたは付随する
・成人では、この風疹様発疹(約50%)はより少ない頻度で3~4日間持続し軽度のかゆみを起こす、などより微妙である
・成人において最も一般的に影響される関節はPIP、MCPで、膝、手、足関節が続く
・関節症は女性や若者では一般的で、感染の唯一の臨床症状かもしれない
・急性B19関節症は、風疹感染または予防接種に続く関節症状とその疫学、分布、および持続時間が類似しており、免疫複合体媒介であることが示唆されている。
・興味深いことに、一部の患者は急性感染時の自己抗体の低~中程度の力価の一過性の発現を示すことがある(リウマチ因子、 抗DNA、抗好中球細胞質抗体、および抗リン脂質抗体)
・明瞭な無網状赤血球症はウイルス血症ピーク(感染後10~12日)と一致して、特異的抗ウイルスB19 IgM抗体の出現後数日間まで続く。
・ウイルスに対する十分な免疫応答を開始できない免疫不全宿主においては、赤芽球におけるB19ウイルスの継続的複製があり、慢性の赤芽球癆につながる。

・B19ウイルス感染は急性反応性関節炎71名の患者を調べた調査で患者の3.3%で検出
・RA発症時に患者における抗ウイルスB19 IgMの報告された発生率は約2%~6%
・B19関節症は、関節症状、その対称性、および朝のこわばりの発生など早期関節リウマチに似ている可能性がある。さらに、持続B19関節炎は関節びらんおよびリウマチ因子産生を続けておこしうる。 (B19関節炎は、多くの場合、関節リウマチの臨床診断基準を満たしている)
・血球減少、多発性関節炎、およびANAや抗DNA抗体所見は同様に、SLEを模倣しうる。
・B19関節症の明確な徴候は通常、患者の小集団(別の調査によると、0%-17%)(関節炎は数ヶ月または数年間持続しうる)を除いて2週間以内に軽快する。
・炎症性関節炎の発症に関連しているウイルスとしては、肝炎ウイルス(B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス)、HIV、パルボウイルスB19、ヒトT細胞リンパ球向性ウイルスI型、およびチクングニア熱などのアルファウイルスなど



参考文献

Rheum Dis Clin North Am. 2009 Feb;35(1):95-110.

Semin Fetal Neonatal Med. 2009 Aug;14(4):218-21.

Arthritis Res Ther. 2008;10(5):215.


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4 コメント

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私も・・・ (motoyasu)
2014-06-03 14:52:07
自分の子供がりんご病になった後、夫婦で下腿浮腫、皮疹、関節痛になり、入浴すると増悪といった症状を経験しました。恥ずかしながらそれがパルボウイルス感染の症状だと理解したのは後のことでした。それからリンゴ病の小児の家族に同様の症状があるのを数例経験しています。まさに身を以て知るでした。
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シックコンタクト-小児 (志智)
2014-06-04 07:54:54
ご体験、大変なことだったと思います。急に全身の関節が炎症を起こすとおつらいでしょう。
私もこれまでパルボIgM証明までいたった関節炎例を数例みていますが、もっと多いのかもしれません。当科初診はたいてい関節症状でこられますので、小児に接触歴がないかは聞くようにしています。
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りんご病による関節炎か初期リウマチか、、 (スマイル)
2015-05-11 01:38:46
記事を興味深く拝見しました。
私自身、子供からリンゴ病がうつり、子供は頬の赤みのみで元気でしたが、私は発熱とひどい関節痛が二日続き、その後手足に発疹がでました。その三週間後に手指の朝のこわばりと膝関節の痛みを発症し、現在6週間続いております。
この間に、内科→リウマチ科と受診、血液検査では
RF定量43,抗CCP抗体500以上、抗SS-A抗体ELISA500以上、CRP定量27
という結果でした。

医師からは、早期リウマチの疑いという所見でパルボウイルスによる関節炎というのも捨てきれないといわれ、経過観察中という状況です。

関節痛は消えることはなく、朝の手指のこわばりで子供と手をつないだり、お世話が思うようにできず、これからもこの痛みが続くと思う不安です。

こうした症状が一ヶ月以上も続く場合はやはりリウマチかと覚悟したり、
将来リウマチになる可能性はあるけど、ウイルスによる一過性の症状であることに、小さな望みをかけたり、揺れながら日々過ごしております。

先生の記事とても参考になりました。
ありがとうございます。
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コメントありがとうございます (志智)
2015-05-11 08:03:01
コメントありがとうございます。
私もそう多くはみてきたわけでもないので、偉そうなことは言えませんが、この感染症は多関節痛やリウマチ反応など初期リウマチとそっくりになるようですね。おっしゃるようにこの感染症後ならいずれ良くなることが多いので期待したいですね。
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