感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

白血球破砕性所見はどこまで血管炎を示唆するか

2015-11-05 | 免疫

前回の続きで不明熱精査の症例ですが、紅斑の部分を皮膚生検を行ったところ、血管周囲など好中球浸潤はあまり認めず白血球(単球?)の一部は核崩壊からの核断片を認め、白血球破砕性血管炎が疑われるとの病理コメントでした。臨床的にはSweetなどを疑っており、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病などの小型血管炎は想定していませんでした。生検施行した紅斑もやや時間が経っておりステロイド軟こうも数日使っていたのも考慮しないといけません。 白血球破砕所見からどう考察を進めればいいのか。文献をまとめました。

 

まとめ

皮膚小型血管炎(CSVV)

 

・血管炎の分類に一般的に使用されるのは2つで、米国リウマチ学会(ACR)の分類基準[Arthritis Rheum. 1990 Aug;33(8):1065-7.] とチャペルヒルコンセンサス会議(CHCC)命名システム[Arthritis Rheum. 2013 Jan;65(1):1-11. doi: 10.1002/art.37715.] である。皮膚の小型血管炎(CSVV)では、CHCC 2012命名システムは、皮膚の白血球破砕性血管炎(LCV)として、一方で、1990年のACR基準は過敏性血管炎としてこの疾患を分類した。

・CSVVは影響を受けた血管において免疫複合体の沈着により媒介されこれは補体を活性化し、血管の破壊および赤血球の血管外遊出をもたらす炎症反応を誘発する。

・CSVVは主に表在性の皮膚の後毛細管細静脈に限定した好中球性炎症を特徴とする。血管壁のフィブリノイド破壊、内皮細胞の腫脹、および赤血球の血管外漏出を特徴とする。 白血球破砕性血管炎所見。

・免疫複合体はその産生後8〜24時間の間に初期の病変で見られる可能性が最も高いため生検部位の適切な選択は非常に重要。後続の炎症カスケードは免疫複合体を破壊してしまう。

・この組織学的パターンは動的で、生検は18〜48時間存在している病変が理想的であり、48時間後組織病理学は好中球ではなく単核球優勢な炎症反応を示し非特異的である。

・より真皮深部の病変は、悪性腫瘍または結合組織病などの全身疾患と関連しうるので、生検標本で皮下組織を得ることが不可欠

・関連する基礎要因を持つ組織病理学的バリアントがある。 例えば、肉芽腫性血管炎は、より頻繁に全身性血管炎や全身疾患と関連(多発性血管炎好酸球性肉芽腫など)、一方で リンパ球性血管炎は、自己免疫性結合組織病、ウイルス感染、または薬物反応に関連。

・中から小型の血管を含むCSVVは抗好中球細胞質抗体または結合組織疾患関連の血管炎を示唆

・皮膚間質性好中球浸潤は低補体蕁麻疹血管炎を示している、より一般的にSLEに関連

・組織好酸球増加は、薬剤誘発性CSVVを示しているかもしれない

・好酸球の不在は、IgA血管炎(HSPサブタイプ)を有する成人患者における腎疾患のリスクを予測

・可能な限り、第二の生検は、直接免疫蛍光研究のために行われるべき

・直接免疫蛍光法では、IgA優位の病変はHSPを提案し腎障害の高リスクと関連、著名なIgMの沈着はクリオグロブリン血症またはリウマチ性血管炎を示唆、基底膜領域の免疫反応(C3および免疫グロブリン)の連続した強力な粒状堆積はループスバンドと呼ばれ(lupus band test陽性)HUVおよびSLE発症率が高い

 

・CSVVは45~55%は特発性である(1次性;すなわち、感染、薬物、または他の特定できる原因の証拠なし)

・また、感染症(15-20%)、自己免疫性結合組織疾患または炎症状態(15-20%)、過敏性薬物反応(10-15%)、またはリンパ球増殖性疾患または悪性疾患(<5%)によって引き起こされ得る[Dermatology. 2nd ed. Vol. 1. St. Louis (MO): Mosby Elsevier; 2008. p.347-67.]

・CSVVに関連する固形癌としては、Mayo Clinic での研究では、肺癌が最も多く、他に乳癌、前立腺癌、大腸癌、腎癌などであった。癌治療せずに血管炎への免疫抑制剤だけで寛解が53%で発生した。[J Am Acad Dermatol. 2012 Feb;66(2):e55-65. ]

皮膚小型血管炎の一般的な原因 [ Int J Dermatol. 2006 Jan;45(1):3-13.]

自己免疫性結合組織病:SLE、RA、SjS、炎症性疾患、IBD、クリオグロブリン血症(IIおよびIII型)、ANCA関連血管炎、ベーチェット病

感染症:溶連菌(S.pyogenes)、HBV、HCV、HIV

薬剤:抗菌薬(β-ラクタム系、サルファ剤、ミノサイクリン)、NSAIDs、GSCF製剤、プロピルチオウラシル、TNFα拮抗薬

悪性疾患:血液学的、固形臓器

 

・抗菌薬およびβラクタムは一般的な犯人だが、ほぼすべての薬物または薬物の添加剤は血管炎を引き起こす可能性がある

・感染症の原因のうち上気道感染症(例えばA群β溶連菌)やC型肝炎は一般的に関与。しかし多数の感染症トリガーが記録されている。

・CSVVはまたSLE、シェーグレン症候群、RA、または皮膚筋炎などの結合組織病にて発生し、このような疾患の提示徴候である可能性もある。また触知できる紫斑や蕁麻疹様病変などの小血管の血管炎の皮膚症状は 中小型皮膚血管の重複病変を伴う抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の特徴としてもありうる。

・成人では、腫瘍随伴性のヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)も報告されており、圧倒的に男性が多い(94%)。頻度の高い腫瘍は肺(非小細胞)、多発性骨髄腫、前立腺、非ホジキンリンパ腫。[ J Am Acad Dermatol. 2006 Nov;55(5 Suppl):S65-70. ]

 

・CSVVのほとんどの症例で、有意な全身症状があまりない。関節痛はかなり一般的だが、明らかな滑膜炎や関節炎はまれ。

・便潜血検査は全ての患者において考慮されるべきで、腹部症状または胃腸出血がある場合は必ず行わなければならない。

・各種CSVVサブタイプには、 免疫グロブリン(Ig)A血管炎(HSP)、蕁麻疹血管炎、クリオグロブリン血症性血管炎

・CSVVの評価としては、CBC、尿検査、HBV/HCV検査、ASO、ANA、RF、そして血清蛋白電気泳動、C3/C4レベル、ANCAs、クリオグロブリン測定

・HSPは、皮膚症状、消化管(65%)、関節(63%)、および/または腎臓の関与(血尿など)(40%)によって特徴づけられるIgA媒介症候群

・最も一般的な臨床症状は、下肢に対称性に分布する触知できる紫斑である。

 

白血球破砕性血管炎(LCV)について

 

・LCVは、一般的に臨床症状、血清学、および病理組織学に基づいて診断され小型血管炎を示すために使用される組織病理学的な用語。

診断基準は、 1)16歳以上、2)疾患発症時に投薬あり、3)触知できる紫斑、4)斑点状丘疹、5)生検にて血管周囲や血管外での顆粒球の存在。 5つのうち3つの存在に基づく診断は、71%の感度および84%の特異性。[Arthritis Rheum. 1990 Aug;33(8):1108-13.]

・LCVの一般的な組織学的特徴は、好中球浸潤と血管の変化、核崩壊からの核断片、直接蛍光免疫にて免疫グロブリンまたは補体の沈着、血管周囲出血およびフィブリン様沈着。

・Hsu CYらはワルファリンを服用した後大規模な皮膚の発疹をきたした症例を報告し皮膚生検では白血球破砕性血管炎の所見であった。ワルファリン停止後に改善し再開後に再発した。また彼らは過去の文献レビューを行い13例を検討している。[Intern Med. 2012;51(6):601-6.]

・これらの組織学的パターンは任意の血管炎症候群で見られるし任意の特定の疾患に特異的ではない。節足動物刺症、好中球性皮膚病(Sweet症候群、壊疽性膿皮症)や他の原因による潰瘍はすべての 一次性過程への二次的な白血球破砕性血管炎を示すことができる。臨床と病理学的相関はいつも最終診断に落ち着く前に必要である。

用語「白血球破砕性血管炎」は、時々、血管壁浸潤またはフィブリノイド壊死を欠いて、血管周囲の浸潤物のみを記述するため、組織学報告にて不適切に使用されている。(初期の小型血管炎を表しているかもしれないが) 直接免疫蛍光法など詳細に病理報告書を読むことが重要であり印刷された診断書のみに依存してはいけない。

 

 

参考文献

Am J Clin Dermatol. 2014 Aug;15(4):299-306.

Rheum Dis Clin North Am. 2015;41(1):21-32,

 

 


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