ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

死戦期帝王切開術

2013年09月08日 | 周産期医学
Perimortem cesarean section

死戦期帝王切開術とは、心停止に陥った妊婦に対して、母体蘇生処置の一つとして実施する緊急帝王切開術である。児を娩出することにより子宮を小さくして下大静脈と大動脈の圧迫を解除し、母体血行動態を改善することが目的である。腹の大きな(およそ妊娠20週以降の)妊婦が心停止に陥った場合、ただちに死戦期帝王切開術の準備を始める。母体心停止後4分の時点で死戦期帝王切開術開始の判断をする。児の予後も考慮すると、心停止後5分程度のうちに娩出が行われることが望ましいが、心停止後15分までの母体生存例もある。死戦期帝王切開術は、子宮底が臍に達していない(およそ妊娠20週未満)場合や、母体救命の可能性が全くない場合には適応にならない。一方、胎児の生死は問わない。死戦期帝王切開術はAHAのガイドライン2000においてすでに推奨されているが、日本における施行数はきわめて少ない。これを施設で実際に施行するためには、施設において死戦期帝王切開術を行う体制を構築する必要があり、施設内の関係科でよく話し合い、シミュレーションを行っておくことが非常に大切である。

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妊産婦が突然心停止に陥った場合は、子宮を左方に圧排しつつ、まずは一般成人におおむね準じた蘇生措置(胸骨圧迫、人工呼吸、急速輸液、AED、アドレナリン投与など)が行われますが、一次蘇生に反応しない場合には、母体蘇生措置としての帝王切開術(死戦期帝王切開術)を考慮する必要があります。

「産婦人科診療ガイドライン-産科編 2011」には妊産婦の心停止に対する対応の項目はなかったんですが、2014年4月に刊行予定の「産婦人科診療ガイドライン-産科編 2014」では、新たに「妊産婦の心停止への対応」に関するCQ&Aの項目が追加され、そこで死戦期帝王切開術に関しても記載されるようです。

しかし、目の前で妊婦さんが心停止に陥った時に、ただちに大勢の人員を集めて、胸骨圧迫、人工呼吸、AEDなどの蘇生措置を実施しつつ、ただちに死戦期帝王切開術の準備にとりかかり、心停止後5分以内に無麻酔で緊急帝王切開術を施行するのは、実際には非常に困難と考えられ、日本国内ではまだほとんどの施設で死戦期帝王切開術の経験がないと思われます。

実際問題、死戦期帝王切開術を産婦人科の判断だけでいきなり実施することは無理なので、まずは、産婦人科、麻酔科、新生児科、救命救急科などの関係する診療科でよく話し合い、施設として妊産婦の心停止時にいかに対応するのか?について事前によく検討しておくことが重要だと思います。

妊産婦の心停止が突然院内で発症した時に、多くの診療科が一つのチームとして迅速に対応できるようにするためには、常日頃より、ALSO、ACLS、NCPRなどを院内で定期的に開催して、緊急時のチームとしての対応のシミュレーションを繰り返しておく必要があると思います。

****** 参考

妊婦の心停止
 妊婦の心停止における心肺蘇生は、一般成人における方法におおむね準ずるが、以下のようないくつかの相違点がある。
 ①子宮左方転位を行う。
 ②胸骨圧迫部位をやや頭側に置く。
 ③早期に確実な人工呼吸を確立する。
 ④急速輸液を考慮する。
 ⑤死戦期帝王切開術を考慮する。

死亡と判断された米国女性が赤ちゃんを出産 その後、蘇生 (CNN)
 米テキサス州ミズーリシティーで心臓疾患に突じょ襲われ、医学的に一時死亡と判断された妊娠中の32歳女性が、緊急の帝王切開で女の子を出産した後、蘇生を果たす出来事がこのほどあった。

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