ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師人口比:日本、20年に最下位へ OECD30カ国中 (毎日新聞)

2007年05月29日 | 地域医療

大野病院事件にしても、大淀病院事件にしても、広い地域の唯一の基幹病院であるにもかかわらず、産婦人科医がたった一人しか勤務してませんでした。これらの事件は地域の医療システム不備に起因する問題であるにもかかわらず、できる限りの対応をした担当の医師個人が、最高の医療を提供できなかった責任を厳しく追及されています。こういう現状では、地方から医師たちがどんどん逃げ出してしまい、地方の医療崩壊が進行していくのも、当然の現象だと思われます。

医師不足対策の一つとして、医学部を卒業したばかりの若手医師たちを、研修環境の整っていないへき地の医療崩壊地域に強制的に配置して、医師数の地域間格差を是正しようという構想もあるようです。しかし、よくよく考えてみると、その構想って、第二次世界大戦末期に神風特攻隊で多くの若者達の尊い命を犠牲にしたのと全く同じ発想だとは思いませんか? もしも、その政策が本当に実行に移されたとしたら、全国的に大混乱に陥ってしまうのではないか?と危惧します。

現状では、地方病院の研修環境は不十分の場合が多いと思います。若手医師を地方に強制的に配置するのであれば、その前に指導医を地方に十分配置し、若手医師が、地方でも、安心して満足できる研修を受けられる環境の整備が先決だと思われます。

医師数を、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中の最低ランクの低い水準に抑制したままで、医師不足の問題を一時しのぎの政策だけで解決しようとしても、長期的には根本的解決に至るのが難しい気もします。

****** 毎日新聞、2007年5月28日

医師人口比:日本、20年に最下位へ OECD30カ国中

 人口1000人当たりの日本の医師数が、2020年には経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中最下位に転落する恐れがあることが、近藤克則・日本福祉大教授(社会疫学)の試算で分かった。より下位の韓国など3カ国の増加率が日本を大きく上回るためだ。日本各地で深刻化する医師不足について、国は「医師の地域偏在が原因で、全体としては足りている」との姿勢だが、国際水準から懸け離れた医師数の少なさが浮かんだ。

 OECDによると、診療に従事する03年の日本の医師数(診療医師数)は人口1000人あたり2人。OECD平均の2.9人に遠く及ばず、加盟国中27位の少なさで、▽韓国1.6人▽メキシコ1.5人▽トルコ1.4人--の3カ国を上回っているにすぎない。

 一方、診療医師数の年平均増加率(90~03年)はメキシコ3.2%、トルコ3.5%、韓国は5.5%に達する。日本は1.26%と大幅に低く、OECD各国中でも最低レベルにとどまる。各国とも医療の高度化や高齢化に対応して医師数を伸ばしているが、日本は「医師が過剰になる」として、養成数を抑制する政策を続けているためだ。

 近藤教授は、現状の増加率が続くと仮定し、人口1000人あたりの診療医師数の変化を試算した。09年に韓国に抜かれ、19年にメキシコ、20年にはトルコにも抜かれるとの結果になった。30年には韓国6.79人、メキシコ3.51人、トルコ3.54人になるが、日本は2.80人で、20年以上たっても現在のOECD平均にすら届かない。

 近藤教授は「OECDは『医療費を低く抑えると、医療の質の低下を招き、人材確保も困難になる』と指摘している。政府は医療費を抑えるため、医師数を抑え続けてきたが、もう限界だ。少ない医師数でやれるというなら、根拠や戦略を示すべきだ」と批判している。【鯨岡秀紀】

(毎日新聞、2007年5月28日)

****** 毎日新聞、2007年5月28日

医師不足:へき地に研修医誘導 大都市圏の枠削減--政府・与党対策原案

 政府・与党が31日の医師確保対策に関する協議会で決定する医師不足対策の原案が27日、明らかになった。対策は6項目で、地方の医師不足を招いたとされる臨床研修制度に関し、研修医が集中する大都市圏の定員を減らし、若手をへき地勤務へと誘導することなどが目玉。6月に決める「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)に盛り込んだうえで、与党の参院選公約とする。

 臨床研修制度は、研修医と厚生労働省の指定病院の希望が一致して研修先が決まる。昨年の場合、定員1万1306人に対し、研修先が決まったのは8094人。受け入れ枠が上回り地方には1人もいない指定病院もあった。このため大都市圏の枠を減らす案が浮上。政府・与党はへき地の研修医に対し、進みたい分野に行けるよう留学の機会を与えたり、収入加算などの優遇措置を設ける意向だ。

 医師、看護師、助産師の業務分担の見直しも打ち出した。日本医師会などの反発を避けるために明記は避けたが、医師の業務の一部を看護師らに権限委譲し、医師の負担軽減を図る。【吉田啓志】

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 ■ことば

 ◇医師臨床研修制度

 医師免許取得後2年間の初期研修を終えた研修医を対象に04年に導入。それまで若手医師は所属大学病院の医局の指示で地域内の病院で研修し、地方の病院は研修医の受け入れで要員を満たしていた。しかし、病院が医局の派閥に組み込まれたことや勤務条件の過酷さが問題化し、研修先を原則として選べるようにした。

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 ■「緊急医師確保対策」の骨子

・定年した勤務医らを登録し、緊急の医師不足時には都道府県の要請で国が人材を派遣するシステム構築

・勤務医の過重労働を解消するための勤務環境の整備(交代制勤務の導入▽医師、看護師、助産師らの業務の分担の見直し)

・女性医師の働きやすい環境整備

・研修医の都市への集中の是正

・医療リスクに対する基本体制の整備(訴訟率の高さが医師不足を招いている産科で、医療事故補償制度創設▽診療にかかわる死因を究明する制度をつくる)

・医師不足の地域や診療科で勤務する医師の養成(大学医学部定員の地域枠拡充、国の奨学金返還を免除)

(毎日新聞、2007年5月28日)


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1 コメント

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以下の報道がありました。 (G13)
2007-05-30 22:23:30
記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2007年5月30日】

 緊急医師確保対策案の要旨は次の通り。

 1、都道府県の求めに応じ国レベルで緊急臨時的な医師派遣体制を整備。規制緩和などの所要措置を講じる。

 2、勤務医の過重労働解消のため交代勤務制などの勤務環境を整備。医師や看護師、助産師など医療補助者らの業務分担を見直し、医師不足が深刻な病院への支援を充実させる。

 3、出産や育児での医師の離職を防ぎ、復職を促すために院内保育所の整備など女性が働きやすい職場環境を整備する。

 4、医師臨床研修病院の定員の見直しなどを行い、都市の病院への研修医の集中を是正する。

 5、産科補償制度の早期実現や、診療行為についての死因究明制度(医療事故調査会)の構築など、医療リスクに対する支援体制を整備する。

 6、奨学金を活用し都道府県が定める地域や診療科に確実に医師が配置できるよう医師養成数を緊急臨時的に増加させる。地域医療に従事する医師増加のため、医学部の地域枠を拡充させ、医師養成総数の少ない県では医師の養成数を増やす。
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