ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

帝王切開既往妊婦に対し経腟分娩を選択してよい条件

2010年05月09日 | 周産期医学

産婦人科診療ガイドライン(産科編2008)より抜粋

CQ403 帝王切開既往妊婦が経腟分娩を希望した場合は?

Answer
1.  リスク内容を記載した文書によるインフォームドコンセントを得る。(A)
2. 以下の条件をすべて確認後に経腟分娩を行う。(C)
 1) 児頭骨盤不均衡がないと判断される。
 2) 緊急帝王切開および子宮破裂に対する緊急手術が可能である。
 3) 既往帝王切開数が1回である。
 4) 既往帝王切開術式が子宮下節横切開で術後経過が良好であった。
 5) 子宮体部筋層まで達する手術既往あるいは子宮破裂の既往がない。
3. 分娩誘発あるいは陣痛促進の際に、プロスタグランジン製剤を使用しない。(B)
4. 経腟分娩選択中は、分娩監視装置による胎児心拍数モニターを行う。(A)
5. 経腟分娩後は、母体のバイタルサインに注意する。(B)

******

ACOG Practice Bulletin (2004)

帝王切開既往妊婦に対し経腟分娩を選択してよい条件
①子宮下節横切開による1回の帝王切開の既往
②児頭骨盤不均衡がないこと
③帝王切開以外の子宮創または子宮破裂既往がないこと
④分娩中、医師が継続監視可能で緊急帝王切開ができること
⑤緊急帝王切開のための麻酔科医やスタッフがいること

******

子宮破裂による母体死亡を避けるために分娩後1時間程度は血圧、脈拍数の変化に注意する。

本邦1991~1992年の妊産婦死亡230例中13例(帝王切開既往妊婦は1例のみ)が子宮破裂によるものであった。これら13例の特徴は、全例が経腟分娩(69%が分娩誘発、陣痛促進されており、46%が吸引・鉗子分娩)に成功したものの、分娩直後~40分以内にショックないし持続する外出血が顕在化していたことである。したがって、帝王切開既往妊婦が経腟分娩を選択した時の重要な注意事項のひとつとして、経腟分娩成功後1時間程度の母体状態監視が挙げられる。外出血量に見合わない低血圧・頻脈は子宮破裂による腹腔内出血を意味することがあり、開腹止血することが母体救命に重要となる場合がある。


最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
沢山の専門的情報の記載をありがとうございます。 (sannby)
2011-07-18 12:51:37
開業医で働く助産師です。近々VBAC希望の産婦が入院してくると思いますが、当然開業医なので緊急手術ができる体制ではありません。ハイリスクであるにもかかわらず抱え込み、悪いことに産婦へリスクを説明した上でもVBACを当院で希望されてしまいました。何の自信があって受け入れるのか疑問に思います。
悩んでいるときにこのサイトに出会い、ついすがりたくなってしまいました。
また、同意書もとっていないので「前回帝王切開後の経膣分娩についての説明書」をコピーさせていただきました。
返信する
子宮破裂の予測は直前までできません。正常だった... (管理人)
2011-07-18 19:40:48
ですから、子宮破裂に対応するためには、施設内に、産婦人科医、麻酔科医、新生児科医が常駐し、いつでも超緊急帝王切開を実施できる院内体制を整えておく必要があります。子宮破裂を起こしてから、あわててクリニックから基幹病院に母体搬送しているようでは、絶対に間に合うはずがありません。

私個人の意見は、妊婦自身が強く帝王切開後の経腟分娩を希望した場合、自施設では対応できないと患者さんに説明し、陣痛発来前に対応可能な施設に患者さんを紹介すべきだと思います。クリニックの先生が自施設で対応するということであれば、胎児死亡、母体死亡に対する全責任をその先生が負う覚悟が必要です。
返信する
お返事ありがとうございました。 (sannby)
2011-07-18 23:46:23
第1子出産時は、他院で全麻のため産声が聞けなかったと、どうしても産声が聴きたいという思いが強い産婦さんなのです。しかし、子宮破裂となってしまっては取り返しがつかないのにという思いで、妊婦検診のたびに危険性を伝えましたが、聞いてもらえませんでした。私ではなく、Drに信頼を置いているからだと思います。
明日、コピーさせていただいた書類をDrに提示して話し合いをしたいと思います。
ここ数日とても苦しい思いでいっぱいでした。
本当にありがとうございました。
返信する
5月に帝王切開しました。 (なでしこ)
2011-07-21 10:28:45
たまたまこちらを拝見させて頂き、いち、妊婦、女性の意見として聞いて頂ければ幸いです。

周産期に入ってからは普通に陣痛を待ち、予定日まで過ごしておりました。
予定日の検診でにいきなり帝王切開しましょうと医師から提案があり、心の準備もつかぬまま翌日手術となりました。
診断名はCPDと頭蓋不均衡です。
40週まで経過をみながら、推定体重が2650g、37週以降、BPDが8.5mm。医師からは最低でも8.7mmあれば普通分娩できると言われましたが、BPDだけがなぜか増えなかったため、帝王切開とのことでした。

その時に医師から言われた言葉が未だに心に残っています。「今の状態で普通分娩できないことはないが、何かあっても責任はとれません。間違っても病院を訴えないで下さい」と。
ただでさえ、予定日に帝王切開いわれ、パニックになっているのに、医師の発言があまりにも冷たく心に突き刺さりました。

なぜ、自分は普通に産めなかったのか、悔いが残るばかり。

妊婦の立場からして病院を訴えてやろうなど微塵も思っていません。
医師ともっとコミュニケーションがとれていたら産後、このようなモヤモヤ感はなかったのかもしれません。何か、すっきりしないのです。

妊娠、出産はただでさえ、心が不安定な上、妊婦は医師の言葉ひとつひとつで一喜一憂します。
目の前にいる医師を信頼するしかないのです。

帝王切開になる妊婦の気持ちをもっと理解してほしかった…。
貴方様に訴えても仕方ないとことは分かっています。でも妊婦の立場からこういう気持ちを知って頂けただけでも救われます。

医師からしたら毎日誰かが出産する中のたまにある帝王切開でよくある手術なのかもしれません。
ですが、妊婦は一生その傷を負って生きて行きます。

確かに帝王切開は最も安全な方法なのかもしれません。妊婦と赤ちゃんの命を安全に産みだす!それに尽きると思います。
それと合わせてもっともっと妊婦の心のケアをもっとしっかりして欲しかった…。
私が言いたいのはそれだけです。

その時の医師の対応に納得いかない部分もありましたが、その医師の言葉足らずな所があったとは思いますが、最も最善の方法だったと思い、幸いにも赤ちゃんも元気、母体も経過良好で満足しています。

産科医不足の問題など色々あると思いますが、どうかより良い医療の提供がなされることを心からお祈り、応援申し上げます。

たわいない元妊婦の独り言です。失礼いたしました。
返信する
はじめまして。 (奈那子)
2013-01-24 03:49:56
経膣分娩二回行ったあとに二回帝王切開の既往がある場合は経膣分娩は不可能でしょうか?
子宮破裂のリスクも一回帝王切開既往よりも高くなるとは思いますが、どの程度なのでしょう…
また、このような妊婦に経膣分娩をトライさせてくれる病院などはあるものなのでしょうか?
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。